第52話 ダンジョンに探しに行くのは間違っているだろう?

 入部届を書き終えたところで、俺は確認に入る。


「ここの部は週に何回顔を出せばいいですか?」


「……ちょっとは悪びれてほしい、頼むから」


 銀髪先輩は悲しそうに目を伏せる。


「あなた錬成釜の使用許可とったみたいだけど、ここの錬成釜なら自由に使っていいわよ?」


 二年の先輩女子がそう言う。


「かわりになるべく顔を出せってことですか?」


「そういうこと。話が早くて助かるわ」


 アイデア自体に俺のメリットはないが、先輩たちに貸しを作れるのは悪くない。

 

「そういうことなら」


「ありがとう!」


 男子の先輩は泣き出しそうな勢いで喜んでくれた。


「僕は三年のエドワード・アンダーソンだ。こっちは二年のリプレ・カスタードだ。困ったことがあったら何でも言ってくれたまえ」


「私たちじゃ頼りにならないかもだけど、私たちの顧問は老師ウィガンだからね。きっといい知恵を出してくれるわよ」


 エドワードは熱く、リプレはクールに他人頼りなあいさつする。

 お茶目にウィンクを飛ばしてきたのは後者だとは言うまでもないだろう。


 俺たちの自己紹介が済んだところで、俺は口を開いた。


「ダンジョン探索部に行って、掛け持ち許可をもらったらさっそくダンジョンにもぐって、素材を持って来ますね」


「うん、いい心がけだ!」


 エドワードはうなずいたが、リプレは首をかしげる。


「ダンジョン探索部の部長、私たちほど物分かりよくないと思うわよ? 許可が出なかったらどうするの?」


「その時は錬成部としてダンジョンに行くだけなんで、問題はないですね」


 俺は即答し、蛍に聞いてみた。


「蛍はその場合どうする?」


「錬成部に入ります」


 彼女は迷いのない顔で即答する。


「鍛錬はどこでもできますので」


 蛍が錬成部に入るなんてシナリオ崩壊どころじゃないんだが……。

 まあ、なるようにしかならないか。


 ここでお前はダンジョン探索部か剣術部に入れと言っても、蛍は納得しそうにもない。

 

 せっかく築いた良好な関係が壊れるよりはいいだろう。


「お、おう……」


「ま、まあ素材調達してくれる子は必要だしね」


 ちょっと腰が引けた反応のあと、先輩たちの視線は俺に集まる。

 何でも俺のせいにするのはやめてもらいたいな。


「では失礼します」


 俺たちは錬成部をあとにした。


「で、ダンジョン探索部ってどこに行けばいいんだっけ?」


 と俺が空気を変えようと質問する。


「ここの上の階だよ。入り口付近の案内図に書いてあった」


 アインが教えてくれた。

 木の階段をギシギシいわせながらのぼった一番手前の部屋に、ダンジョン探索部の大きな看板が出ている。


 自己主張が激しいなとゲームでも思ったが、現実でも同じ印象を受けた。

 青いドアをノックして中に入れば、中には一人の男子生徒がぽつんと座っている。


 大所帯という設定だけに部室は広く、寂しい感じがあった。


「おや、入部希望者かい?」


「ええ、さっき錬成部に入ったばかりですが」


 はっきりと告げる。


「まいったな。掛け持ち希望か」


 男子生徒は困惑を浮かべた。


「それだと部長に聞いてみないと。僕の一存で入部許可はできないね」


 そんなものなのかね。


「部長殿はいついらっしゃるのです?」


 蛍がかわってたずねた。


「部員を率いてダンジョンにもぐりに行ったからなぁ。いつになるかわからないよ」


 間が悪いというか、話が進まないな。

 この人を責めたって仕方がない話ではあるんだが。


「縁がないのかな、ここの部とは」


 俺がポツリと言うと先輩はあわてた。


「いやいや、そんなあっさり決めないでくれよ!」


「そんなこと言われましても……」


 いつ帰ってくるのかわからない相手を待ち続ける気にはなれない。


「待ってくれ、じゃあこうしよう。入部希望者だって紹介状を書くよ。ダンジョンで先輩たちに会ったら渡してくれ!」


 先輩はそう言った。

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