第51話 掛け持ちですまない

 偽悪的な欲求をねじ伏せて再び歩き出すと、今度は蛍は俺の真横に立つ。

 まるでガードしてるかのようだったが、何も言わなかった。


 最初に目指した錬成部の部室は、部活棟の二階の一区画にある。

 

「……迷うことなくたどり着いたね?」


 アインが怪訝そうに言ったので、もうちょっと迷うそぶりを見せればよかったなと軽く反省した。


「何となく進んだだけで、確信があったわけじゃないよ」


「そっか」


 俺の弁明をアインはあっさり信じる。

 蛍は特に口を挟まず、周囲を警戒していた。


 青色のドアをガチャと開けると、中の人たちからの視線が集まる。


「おや、珍しい。入部希望者かな?」


 と言ったのは三年の銀の短髪のメガネ男子生徒だ。

 ミゲルと違い落ち着いた知的な印象を受ける。


「場違いとしか思えない子がいるけど……」


 と言ったのは二年の女子で、彼女の水色の瞳は蛍を捉えた。

 蛍が錬成部の入部希望者に見えないのは否定できない。


 ちなみに錬成部はこの二人すべての部員のはずだった。


「それがしはつきそいです」


 蛍は入る気がないことをきっぱりと示す。

 三年の男子は俺に視線を向ける。


「入部希望者か、名前を聞かせてもらおうか」


「エースケ・シジマです。ダンジョン探索部と掛け持ちできないかなと考えています」


「掛け持ち希望者か」


 先輩たちは苦い顔になった。


「歓迎するしかないかしら」


 二年の先輩が顔をくもらせる。


「掛け持ち希望ってそんなによくないんですか?」


 アインがおそるおそるたずねた。


「当然だろ? あまりにも堂々と言われたんで怒る気をなくしてしまったが、本当はもっと遠慮がちに頼んでほしいよ」


 三年の銀髪先輩が深々とため息をつく。

 二年の先輩はちらちら俺を見て、やがて口を開いた。


「ねえ、アンダーソン先輩、もしかしたらこの子じゃない? 老師がほめてた一年って」


「ほう?」


 先輩たちの目が俺を見てきらりと光る。


「そう言えば金色の腕輪をしてる男子とサムライ女子のコンビだったな」


 何やら思いがけない展開になってきた。


「新しいボードゲームを開発したというのも君たちかな?」


 三年の銀髪先輩に聞かれ、まず蛍が首をふって否定する。


「いいえ。こちらのエースケ殿お一人です。それがしは素材集めを手伝っただけです」


 彼女にとっては譲れない一線なのだろう。

 

「すばらしい」


 三年の銀髪先輩はにこにこと上機嫌になって言った。


「そういうことなら、特別に認めようじゃないか」


「優秀な錬金術師は素材集めが大変だしね。自分でやりたいと言うなら、止められないでしょう」


 と二年の先輩女子が態度を豹変させた理由を明かす。


「ありがとうございます。……アインはどうする?」


 俺が問いを向けると、アインは困惑する。


「えー、どうしよう」


「迷うくらいなら入れよ。一緒に掛け持ちやろうぜ」


「え、うん」

 

 アインは一瞬困惑したものの、すぐにうなずいた。


「こっちの彼も掛け持ちか……一年が二人も入ってくれたと考えるべきだろうな」


「仕方ありません」


 先輩たちは妥協した顔で、アインの入部も認める。

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