第48話 意外とシビア

「そうなの?」


「ええ。てっきり誰に対しても親切なのかと思っていました。生徒会長ですし」


「たしかにそういうところはあるわね」


 シェラは肯定するが、ほんの少し不満そうである。

 

「でも、普通は道具袋を貸したりはしないよ」


「あ、そうなんですか」


 特別扱いされてると判断された理由、そこなのか。

 たしかに貸し借りするものじゃない気もするが、たしかフィーネって道具袋は複数持ってる設定だったような。


 あきれた顔をシェラがしたので、一応弁明を試みる。


「会長ほどの人ならわりと何でもありじゃないかと勝手に思ってました」


「否定できないけど、超えたくない一線はあるよ」


 否定はされないのか。

 やっぱりグルンヴァルト家ってすごいんだな。


「鈍感ですみません」


 謝ればいいとは思わないけど、謝っておこう。

 他に言葉が出てこなかった。


「謝らなくていいわよ。考えてみれば、私たちの感覚なんて知るはずもないものね」


 シェラは薄く笑う。

 せいぜい二ミリか三ミリで、よく観察する男子だけがわかると言われた微笑だ。


 ここで同意すると機嫌をそこねそうだから、他のことを言おう。


「彼が停学になったら一人余ると思うんですが……」


 二十九人だと三でも四でも割れないしな、どうなるんだろうか?


「その場合は私かパウルと組むことになるかな。実質は単独だけど」


 シェラの答えに他にないだろうなと思う。


「どうせならロングフォード先輩と組みたいですね」


 たぶんパウルと組まされるだろうな、同性どうしだし。


「決めるのは先生だよ」


 シェラは言ってからこてんと小首をかしげる。


「私でいいの? 相性的には前衛のほうがいいよ」


 シェラは魔法の杖を持ってて使い魔を連れてることからわかるように、ガチガチの魔法使いだ。


 強さはメインヒロイン級で、何でサブキャラなんだという声も多かったな。


「一人で戦うならどっちでも同じじゃないですか?」


「そうだね」


 シェラは愉快そうに笑う。

 さっきのは冗談のつもりだったんだろうか。


 ダンジョンの外に出ると、蛍が寄ってくる。


「エースケ殿、ご無事でしたか!」


 顔つきからするに、何があったのか聞いたらしい。


「ああ。噛みつき石とは遭遇しなかったしな」


「何という男なのでしょう」


 蛍の顔と声には隠し切れない怒気がある。

 ミゲルのやつ、停学あけたら蛍に病院送りにされそうだな。


「停学になったんだ、自業自得だろ」


 罰は受けたというのが俺の考えだった。

 

「エースケ殿はお優しいですね」


 蛍は不満そうに口をとがらせつつ、怒気をひっこめる。


「いや、あんなのどうでもいいよ。それよりやらなきゃいけないことはたくさんある」


 あんなやつのために一秒でも時間を使うのはもったいないじゃないか。


「……撤回します。それがしが思っていたよりずっとシビアな方でした」


 蛍は目を丸くする。


「辛らつだね。だけど、甘いよりはよっぽど好ましい」


 笑いをかみ殺しながらシェラは言った。

 この時、ようやく蛍は彼女に気づいたらしく、ハッとしてぺこりと頭を下げる。


「ふふふ、愛されてるね」


 シェラはからかうような顔で俺にささやく。


「ありがたいことです」


 大真面目な顔で応じた。


「……キミはやはり変わってるね」


 シェラは目を細め、距離を取る。

 ローランがやってきて、授業の終了とミゲルの停学について話した。


 何人かがこっちを見てきたが、知らぬ顔を決め込む。

 放課後、部活を見に行こうかなぁ。


 何ならアインと三人でダンジョン探索部に入ってしまうか?

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