第47話 災難


 彼がけわしい顔のまま目と鼻の先までやってきた時、シェラが口を開く。


「ミゲル・オバンドー。キミはダンジョンでペアを置き去りにし、危険になったところを助けてもらいながら礼も言わず、それどころか責任をなすりつけようとした」


 罪人を告発するようで、シェラが冷たく言ってるのを聞くとちょっと気持ちいい。


 言われる立場になりたいとは思わないがな。


「先生、処分をお願いします」


「二週間の停学だな」


 厳しいのか軽いのか、俺には判断に困る。

 ゲームだと一週間から三週間の停学が多く、一番上が退学だったが。


「今回は一年で初めてだったということ、被害が実質ゼロということで退学は避けよう」


 ミゲルと呼ばれたメガネはあきらめたように小さくうなずく。


「ロングフォードはシジマと戻りたまえ。私が彼を連れて行く」


 有無を言わせぬ口調でローランは言った。


「わかりました」


 ローランに引きずられるように連れて行かれるミゲルを見送り、俺はそっと息を吐き出す。


「災難だったね」


「ええ、まあ」


 シェラの声にはいたわりの感情がこもってたので、自然とうなずいていた。

 彼女の右肩に再び金色の鳥が止まる。


「ところで俺の成績、どうなるんでしょう?」


「いい成績は無理だろうけど、悪くもならないと思う。ローラン先生は話せる方だもの」


 ならいいんだよな。

 ゲームのローランもたしかにそんな位置づけだったと思う。


 ゲームではなかったはずの展開があったせいで、ちょっとびっくりした。

 ゲームの知識は過信しないほうがいいな、これ。


「あわててないね?」


 シェラが話しかけてくる。


「あわてましたけど、戦ってるうちに落ち着きました」


 そう応えるがウソじゃない。

 トンデモ展開の連発で正直頭が痛いよ。


「ふっ」

 

 シェラは笑ったが、好意がこもってるのは何となく伝わってきた。


「会長が気に入っただけはあって、大物になるかもね」


 あれ、フィーネに気に入られるのはこれからだと思ってたんだけどなあ。

 だからシェラもわりと気さくに話しかけてきてるのか。


 思い返してみれば、心当たりはある。

 主に蛍あたりだ。


 距離の縮み方はゲーム通りじゃないのかもな。

 だとすればミゲルの件も一応説明できるように思う。


「どうしたの?」


 俺の反応がないのが気になったのか、シェラは聞いてくる。


「いえ、会長に気に入られるなんて言われて驚きました」


 これもウソじゃない。


 フィーネはわりと気さくで話がわかる女性なので、親しげに話しかけてきたり、便宜をはかってくれるハードルは高くないのだ。

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