第45話 ゲームになかったこと

 その答えは五時間目、ダンジョン実習がはじまる時にわかった。


 予鈴が鳴った段階で俺たちは運動服、ぶっちゃけ日本の時にも着た体操服を着て、ダンジョンの入り口の手前に集まる。


 ペアを組めていないのは俺と、一人の陰気そうなメガネの男子だった。

 ハリガネを連想させる長身やせスタイルである。


「なあ、俺と組んでくれないか?」


 と話しかけたらぺっと唾を吐かれた。

 無表情になって彼に詰めよろうとした蛍を何とか制止して、もう一度話しかける。


「何で俺のことがいやなんだ?」


「そこのサムライ美少女とイチャイチャするやつなんて、おれの敵だ!」


 勢いよく宣言された。

 ああ、そういうことか。


 モブはモブでもモテる主人公に罵詈雑言を浴びせる系のモブか。

 ゲームだったらモブたちに嫉妬されるのが気持ちいい、という描かれ方だったから気にしてなかった。


 ゲームでの演出ならともかく、実際となると困るパターンだね。

 これは俺の予想が甘かったというわけか。


「何でおまえ、余ったの? もしかして寝取られってやつですか、プークスクス」


 何かいきなり煽られた。

 正直イラッとしたが、無言で刀を抜き放った蛍をなだめるのに必死で、反論する余裕がない。


 蛍に殺気を飛ばせても平気だなんて、どこまで鈍感なんだこいつ!?

 近くにいるアインなんて真っ青になってガタガタ震えてるんだが。


 どうするかね、これ。

 収拾がつかない可能性が高いな。


「よーし、みんな集まったかー!」


 明るくさわやかな笑顔で大きな声を出したのは、担任のローランだった。

 その後ろにシェラとパウルがついている。


 あれ、生徒会同行イベントの発生はまだ先のはずだが……?


「今日は二人一組でダンジョンにもぐってもらう。目標は第二階層だ。そこで先生は待ってるからな! 先生と出会えたら合格! 制限時間までに出会えなかったら単位はなしだから気をつけろ!」


 うん、授業内容は予想通りなんだよな。

 第二階層までなら逃げに徹すれば、一人でも合格して単位もらえると思うが。


「後ろの二人は救助役だ。第一階層と第二階層を動いているので、やばいと思ったら助けを求めろ。二人に救助されても当然単位はなしだが、命にはかえられんぞ!」


 ローランの言葉にみんな真剣な顔をしてうなずく。

 ゲームだとなかったな、これ。


 実際はあったのかなあ。


「では順次出発だ!」


 前のほうにいるやつらからぞろぞろと中に入っていく。

 ダンジョン探索というよりはハイキングのような光景だ。


「ちょっと待ちたまえ!」


 ローランは例の長身メガネ男子を呼び止める。

 ペアらしき相手がいないのだから当然だろう。


「きみ、パートナーはどうしたんだい?」


 メガネは仕方なさそうに俺のほうを見た。


「ちゃんと組みたまえ! 命にかかわるぞ!」


 ローランの発言は正論だろうが、響かない相手には響かない。

 俺が近づいても男は目を合わさなかった。


「好き嫌いで組む相手を決めるのは愚かだぞ!」


 やはりメガネ男子は適当に聞き流している。

 うん、今回は完全に俺の失敗だったな。


 ただ、こいつとアインが組む事態こそが最悪だったので、それを防げただけでもよしとしよう。


 次回からは何か考えないといけないな。

 授業でダンジョンにもぐる分は放課後などでいくらでもカバーできるから、俺のメンタルを優先で。

 

 第一階層に入ると、俺を無視してどんどん進んでいく。

 やれやれ、はぐれたという設定にするつもりかな。


 つき合ってられないので、一対一でも勝てるわらわら人形とコボルトを戦う。

 噛みつき石とは遭遇したくないな。


 わらわら人形は蹴り一発で、コボルトは攻撃をかわしてから蹴り一発、ダウンしたところにとどめの一発で倒す。

 

 金色の腕輪をアインに貸さなくてよかった。

 ドロップを集めながら思ってると前方から「うわあああ」と情けない悲鳴が聞こえる。


 ほうっておいたら俺の責任になるんだろうなあ。

 やれやれ。


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