第44話  生徒会室からの呼び出し

 数日が経ったある日の放課後のことだ。


「エースケ・シジマくん、放課後に生徒会室まで来てください」


 昼休みにそんな通達が流れる。

 おお、ゲームでめったに見られなかったレアイベントだ。


 何の用件か想像できてるので無邪気に喜ぶ余裕がある。

 同じなのは蛍くらいで、他の生徒はだいたい「こいつ何をやらかしたんだ」という視線を送ってきた。


 唯一の例外はアインで、彼は純粋に心配そうな顔をしている。

 ご飯を食べ終えると俺と蛍のところに近寄ってきた。


「エースケ君、何かやっちゃったの?」


「まあちょっとアイテムを作ったね」


 わざとあいまいな言い方を選ぶ。

 アインはぎょっとしたものの、俺と蛍が落ち着いているのを見て冷静になったらしい。


「もしかして、生徒会に買い取ってもらえそうなものなの?」


「察しがいいな」


 俺が正解だとニヤッとすると、アインはふーっと安どの息を漏らす。


「エースケ殿、なかなかお人が悪いですね」


 アインをからかっただけだと蛍は気づいたのだろう。

 苦笑をこぼしている。


「……エースケ君はわりと性格が悪いのは知ってるよ」


 アインは複雑そうな顔で言う。


「心外だなあ。お前が泣きそうな時はちゃんと助けるじゃないか」


 初めて二人でダンジョンにもぐった時のことである。


「ははは……」


 アインの笑い声は乾いていた。


「明日からダンジョン探索実習なわけだが、最初は二人組なんだよな」


 お前どうするの的に話を振ってみる。


「そうなんだよね。僕、誰と組めばいいんだろう?」


 一応アインは仲良しグループはいるけど、三人組なんだよな。

 ペアでやる授業があるのに三人組。


 昔の記憶を持つ俺は今のアインの不安が痛いほどよくわかる。

 今の俺は誘えば蛍が組んでくれるだろうという安心感があるんだが。


 蛍のおかげで胃の痛さから解放されたので感謝。

 ……それで他人事とみなすのはちょっと問題がある。


 ほっといても強くなっていくタイプならいいが、アインはうっかり死ぬ大器晩成タイプなんだよな。


 主人公がいなくても話は回ると思うが、さすがにちょっと目覚めが悪い。


「何なら蛍と組むか?」


「えっ」


「えええ!?」


 アインはポカーンだったが、蛍は思いっきり声をあげる。

 何事かと周囲からの視線が集まっても彼女は気にしない。


「ど、どういうことでしょう、エースケ殿」


「こいつほっとくと第一階層でもうっかり死にそうだからな。かと言って俺じゃ守り切れる自信はないし」


 そういうわけで蛍の出番ということだ。


「蛍ならアインを守ってドロップを回収し、さらにこいつの経験値稼ぎもしてくれるだろう」


 アインに説明すると彼は生気を取り戻したものの、少し複雑そうである。


「はあ、エースケ殿が望むならやむをえませんが、貴殿はどうするのです?」


 蛍はあきらめた顔で受け入れ、質問をしてきた。


「何とかなるだろ」


 余った者どうしが組む、いつものことに戻るだけだ。

 幸い、このクラスの人数は偶数だから一人になる心配はない。


 ここでアインに死なれるよりはマシだろう。


「ところで蛍を貸す分、ドロップは譲ってもらいたいんだが」


 さっそくアインに商談を持ちかける。


「え、うん。まあ守ってくれるんだったら、その分は払うべきだよね。……払えるかわからないけど」


 アインのほうは不安そうな顔だ。


「授業だからドロップをもらうだけでいいさ」


「ありがとう」


 アインはほっとしている。

 まあ、こいつで普通なんだ。


「エースケ殿、無理をなさらないでくださいね?」


 蛍は心配そうに忠告してくる。


「当たり前だ。無理できるのはお前と一緒の時だけだよ」


 フィーネかシェラがいれば別だが、学年が違うと普通の授業じゃ組むという選択肢すら出てこない。


「な、ならばいいのですが」


 蛍はうれしそうに唇をゆるめながら納得する。

 さて、余るやつは俺ともう一人だーれだ?

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