第43話 信頼に応える努力
「他人のことを第一に考えられるのは素敵です。それがしとて、頭では理解しているつもりなのですが」
と言って蛍は自嘲気味に笑う。
「俺のために頑張ってくれてるんだから、できてるんじゃないのか?」
首をかしげると、
「え、ええ、そ、そうですかもね」
蛍はやたらと動揺しだす。
知らない一面になってきてるので、さっぱり予想がつかない。
怒ってるわけじゃないことだけはたしかだと思うが。
実習棟に戻って箱を仕上げると、何とフィーネがやってきた。
彼女の後ろにはシェラが控えている。
「会長」
「ああ、ちょうどいいところにいたわね」
フィーネはにやりと笑う。
「お忙しいと聞きましたが、いいんですか?」
「ええ。ちょうど実習棟に用があったからそのついでよ」
なるほどな、それだったらここまで足を運べるわけだ。
「シェラから聞いたんだけど、面白そうなボードゲームができたんですって?」
「ええ。ご覧になりますか?」
百聞は一見に如かずというし、やって見せたほうが伝わりやすいだろう。
「見せてちょうだい」
フィーネがそう言ったので、またまた蛍と勝負した。
俺が黒を持ち、蛍を三連敗させる。
「へえ、同じ色で挟んだら何度でもひっくり返せるってルールは単純ながら、戦略性をもたらしそうね」
フィーネは興味津々に目を燃やす。
「たしかにこれは投資する魅力があるわね。うちが抑えてる商会に同じものを作らせて、販売させてみようかしら。もちろん権利はシジマくんよ」
「お買い上げ、ありがとうございます。よければお貸しします」
俺がそう言うと、フィーネが笑いだした。
「信じてくれるのはうれしいけど、契約書を作って確認してサインするほうが先よ」
「あっ、そうですね」
フィーネは裏切るようなキャラじゃないと俺は知ってるが、普通はその辺気にするものだな。
「エースケ殿、まれに抜けているところがおありですね」
蛍が意外そうに、少し心配そうに表情をくもらせる。
「そうかな?」
まあうっかり失念してることがないとは言えないが。
「契約書は届けてもらうから数日かかるわね。とりあえず売り上げの一割でどう?」
「応じます」
即答するとフィーネとシェラが目を丸くする。
「速いわね」
「キミはもう少し考えたほうがいいのでは?」
脊髄反射で言ったように思われたのか、シェラからは忠告された。
「会長もシェラ先輩も信頼できる方だと思っていますし、それにいざひどい仕打ちされたら、二度ともうけ話を持ちかけませんから」
堂々と胸を張り、にこやかに宣言する。
「ふふ、どんどん新しいことをやれるという自信があってこそよね」
フィーネは怒らず、感心してくれた。
「それくらいのほうが頼りになるわ」
少しだけだが拍手もしてくれる。
「自信過剰……でもなさそうね。少々の損害は取り返せるという意味かな」
シェラはじっと俺を観察し分析したようだ。
「自信はありますね。当たるかどうかはわかりませんが」
「ふむ。私たちだって選ばれる立場。そのことは知ってるつもり」
シェラの淡々とした言葉にフィーネが同意する。
「そうね」
彼女たちは自分が名家の出身でエリートと言える成績を残しているし、生徒会役員として人の上に立つ立場だ。
それでもけっして驕ってはいない。
「あなたの信頼に応える努力はするわ」
あなたもしてねとフィーネは目で言う。
「俺も頑張ります」
そう言って、俺たちは自然と握手をしていた。
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