第42話 美化されてない?

「第三階層では木のゴーレムが出るそうですが」


 それは知ってるが、蛍の負担を考慮してためらったのだ。

 口にすると拗ねられそうな空気だが、言わざるを得ない。


「そうなんだ。……頼んでいいか?」


「もちろんですよ。お任せください」


 蛍は笑顔で即答する。

 俺だって俺なりに頑張ろうとするんだが、蛍一人で戦ったほうが早いんだよな。


 戦えるようになることと蛍についていけることは全然イコールじゃない。 

 そこは気にしてもどうしようもないだろう。


 俺にしかできないことをやればいいさ。


 第三階層におもむいて木のゴーレムを探して迷宮内をさまよう。

 蛍のおかげで苦労することなく突き進み、モメンヘビを倒してドロップを回収する。


 アイアンボールも倒したところで、木のゴーレムが二体同時に現れた。


「二体同時か……」


 俺一人だったら命がけで逃げなきゃいけないところだな。


「燃やしたりしてはダメですよね?」


「燃やしたらドロップしなくなるからな」


 そんなペナルティーがあるモンスターが存在してる。

 木は燃える、氷は溶けるという理由で火で攻撃するのは禁止だ。


 ドロップをあきらめてとにかく少しでも多く、少しでも早く倒したい時限定かな。


「承知!」


 木のゴーレムはパワーはけっこうあるが、動きはそんなに早くない。

 俺ならともかく蛍なら持ち前のスピードを活かし、まず左側のゴーレムを両断してしまう。


 そして次に右側のゴーレムが右拳を振り上げると、がら空きになった脇を横薙ぎで斬った。


 そして木のドロップがパラパラ落ちる。


「おお、エースケ殿! 木の板が六枚も集まりましたよ」


 うん、金色の腕輪の効果だろうな。

 早めに作っておいてよかった。


「六枚もあれば箱は作れるからな。今日のところは一度戻ろうか」

 

 できればフィーネのところに持っていきたいし。


「かしこまりました」


 来た道を引き返すが、蛍にかかれば鎧袖一触だった。

 モンスターのほうが哀れになってくるレベルである。


 木の箱を完成させてコマを入れて、道具袋に放り込む。


「問題があるとすれば会長は今忙しいってことだが」


「しかし、エースケ殿としては少しでも早くお見せしたいのでは?」


 蛍はあくまでも俺に寄り添ってくれるつもりらしい。

 

「そうなんだが、忙しいとわかってるところに押しかける気にはなれないな」


 自分の都合だけ押し付ける商人なんて、誰が気に入ってくれるというか。

 

「ご立派です。はやる気持ちを抑え込む見事な精神力をお持ちですね」


 褒めてくれるのはうれしいんだが、蛍は俺のことを少し美化しすぎじゃないだろうか?

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