第37話 問題は材料

「あっ、そうですね」


 蛍はまったくそんなことを考慮してなかったらしい。

 うっかりしてるところがあるもんだな。


「じゃ、じゃあ調べてきます!」


「いや、いいよ」


「ううー」


 待ったをかけたのが蛍は不服そうだった。


「何をそんなにあわてることがあるんだ?」


 本当に不思議である。

 学園生活は今日からが本番なんだし、今日このあと夜までフリーな時間があるじゃないか。


「え、いや、あの、その」


 蛍に急にしどろもどろになる。


「べ、別にあわてているわけじゃ……」


 彼女の言葉に説得力はゼロだった。

 だけど追及するのはやめておこう。


「あんまりあわててもな。ストイックになりすぎてもなぁ」


 と言っておくが本音は違う。

 日本のものをこっちで再現するためにはどうすればいいか、考える時間がほしいのだ。


「……何かお悩みですか?」


 蛍はじーっとこっちを見たのち、そんな問いをぶつけてくる。

 けっこう勘は鋭いな。


「そうだな。実は作れたらいいなって思うやつがあるんだが、構想がまだぼやけてる」


「それじゃ考える時間が必要ですね。失礼しました」


 蛍はしゅんとしてわびた。


「何も言ってなかったから気づけないのは無理ない」


 内面読み取られるなんてスキルはないはずだし、おそろしすぎるもんな。


「気にしないでいい。相談しなかった俺が悪いんだ」


「そ、そんなことないです! 具体的な案がないのでしたら、言いたくないのはごもっともですし!」


 蛍は俺が悪くないと力いっぱい力説する。

 面倒くさくなりそうだからもう訂正しなくていいや。


「差し支えなければ、いつか教えてくださいね」


 うなずきかけて、ちょっと待てよと思う。

 蛍の意見を聞いてみればいいんじゃないだろうか?


 こっちの人間で俺と親しく、ゲームでは口の堅いやつだった。

 彼女の反応を見ればある程度、こっちの人の反応の参考になるんじゃないか?


 行き当たりばったりでかまわない。

 こういうのは臨機応変でいくのも大切さ。


「今考えてるのはボードゲームの一種なんだけどな」


 こっちの世界でスゴロクとかは存在してるからな。


「おや、どんなものなのです?」


 蛍は興味持ってくれた。


「黒と白のコマを並べて、挟んだらひっくり返していくんだ」


 リバーシのルールを説明していく。


「おお、それはすばらしい。チェスとは違った趣がありそうですね!」


 彼女は目を輝かせ、崇拝してる神様に向けるような視線を送ってくる。

 ……何割か差し引いて考えたほうがよさそうだが、作ってみる価値はありそうだな。


 二人で遊んでるところをアイン、ウィガン、フィーネあたりに見せてみるのがいいかな。


「素敵ですね!」


 蛍は大いに喜び、期待してくれている。

 なら作ってみよう。


「問題は材料かな」


 リバーシの材料っていったい何だろう?

 そしてこっちの世界でも手に入るものなのか?


 ……それっぽい素材で代用することを考えればいいか。

 要はこっちの世界で遊べればいいんだから。


「ごもっとも。ダンジョンにもぐりますか? お付き合いしますよ」


 行きたくてうずうずしてることがわかる表情で蛍は問いかけてくる。


「ああ。護衛を頼むよ」


「はい!」


 蛍は大喜びで散歩に出かける犬みたいな返事をした。

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