第32話 主人公は大器晩成タイプ

 アインと二人でダンジョンの入り口に行くと普通に入ることができた。


「止められなかったね」


 アインは意外そうに言う。


「俺は他の人間と何回ももぐってて、無事に帰ってきてるからな。そこそこ信用されてるんだろう」


「えっ、そうなんだ!?」


 知らなかったと驚愕をあらわにする。

 うん、この分だと俺と同じ境遇って可能性はなさそうだな。


 一応探りを入れてみるか。


「リバーシ、野球って知ってる?」


 日本人だったらピンときそうな名前を出す。

 どっちもこの世界にはない代物だ。


「リバーシ? 野球?」


 目を白黒(青色だけど)させるアインを見て、大丈夫そうだなと判断する。

 同じ境遇のやつがいたら腹を割って話し合い、手を組んでおきたかったんだよな。


 まあ普通じゃないことなので、他にもいるほうがおかしいか。


「気にするな。ダンジョンもぐろうぜ。ローグいないけど」


「おお。……不安になることつけたすの止めてくれない?」


 ダンジョンにもぐるのにローグがいない。

 そのことが突然不安になったらしいアインは、そっと俺の袖を引く。


 何だか弱気なやつだなぁと思うが、こいつのほうが常識的なんだよな。

 俺や蛍のほうが少数派なのは確実だ。


 でなきゃダンジョンの第一階層で誰とも会わないわけがない。


「まあ大丈夫だろ。いざとなったら逃げ帰ろう。たぶん大丈夫」


「最後に不安になることつけたすのはエースケの悪い癖なの?」


 アインにとっては不安をあおられてたまらないらしい。

 

「そんな意地悪をする気はないな。男の不安をあおってもつまらないし」


 女の子だったらおびえる表情がかわいいって言うサドな部分を満足させられるかもしれんが、男のおびえるところを見てもなぁ。


 一ミリだって食指は動かない。


「だいたいこの学園に戦士で入って来たんだから、何とかなるだろ?」

 

「理屈的にはそのとおりなんだろうけど、僕って将来性評価だと言われたんだよね」


 なるほど、こいつ大器晩成タイプか。

 するとまいったな。

 

 目を離すとうっかり死亡エンドに一番なりやすいやつじゃないか。

 こいつがいなくても一応対魔王戦争で勝てるはずだが、被害が無駄に増えるだろうなぁ。


 みんな悲惨な目に遭ってるのに一人勝ちすると、ヘイトを集めまくってキルされるデスエンド待ったなし。


 仕方ない、こいつを育成していく路線でいこうか。


「大丈夫、人間そう簡単に死なないから」


 気をつけてさえいればな。

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