第31話 主人公アイン・ゴリアテ登場

 一年三組の教室は中央棟の三階で、担任教師は格闘家のローラン・シルヴァスという男性教師だ。

 

「ようこそ、オウス魔法学園へ! 私が担任のローランだ! 一年よろしく!」


 明るく力強い熱血漢という感じでローランは早口で言う。


「ではさっそく自己紹介をしていってくれたまえ!」


 順番にあいさつをしていく。

 さて将来的に何人生き残れるかななんて意地の悪いことを、意味もなく考えてみる。


「風連坂蛍と申します」


 蛍のあいさつは簡単だった。

 自分のことをぺらぺらしゃべるようなやつじゃないもんな。


 それから何人かの自己紹介が続き、


「アイン・ゴリアテです。戦士のジョブを持っています」 


 と主人公が名乗った。

 金髪を短く切りそろえていて、青い目を持ったおとなしそうな少年である。


 戦士タイプなのか……アインは特殊で、途中で英雄、勇者とジョブがグレードアップされていく。

 

 主人公の特権ってやつだ。

 しかし戦士タイプか……まあいいや。


 それよりも俺の自己紹介だな。


「エースケ・シジマです」


 適当に済ませておくが。

 人脈は錬金術師で重要と言っておいて何だが、ここでの自己紹介に力を入れる意味はまったくない。


 この段階で言う価値があるとすれば、グルンヴァルト家やロックフォード家のような家の場合くらいだ。


 なかなか世知辛いのである。


「自己紹介は終わったな! 一年間クラスメートとなる! 仲良くな!」


 ローランはそう言ってしめくくった。

 今日のところは用件は終わって解散となる。


 ゲームだったら主人公の視点を通じて簡単に寮や学園の紹介をされる展開だが、もちろんそうはならない。


 ローランが出ていくと同じく出ていく者、とりあえず近くの生徒に話しかける者といった具合に別れる。


 蛍はと言うと近くの女子に話しかけられ、応対していた。

 ちらちらこっちを見ているが新しい交友は邪魔しないほうがいいだろうな。


 アインのほうを見ると、所在なさげに立ち上がって教室から出ていくところだった。


 ちょうどいいと思って彼のあとを追いかけて、ポンと肩を叩く。


「よう、ゴリアテだっけ?」


「えーっと、君はシジマくんだっけ?」


 驚き、自分の記憶を思い出す様子だった。


「ああ。せっかく同じクラスになったんだし、一緒に帰らないか?」


「え、いいけど」


 アインは困惑しながらもうなずいてくれる。

 内向的だけど拒絶するタイプじゃなさそうだ。


「アインってどこの国の出身?」


「湖国だよ。エースケは? 響き的に黒儒かな?」


 誤解されるのは無理ない。

 ゲームじゃ誤解されるシーンさえない悲しい脇役だったが。


「祖父がそうだったけど、引っ越してきたのさ」


「なるほど」


 アインはそれで納得してくれたらしい。


「このあとどうすればいいんだろ? エースケは何をするか決めてる?」


 彼はそう聞いてくる。

 まあ自由度が高すぎるから、予備知識がないとどうしたらいいのかわからないだろうな。


「ダンジョンにでももぐれたらいいなと思ってる」


「え、ダンジョン?」


 アインはぎょっとした顔になる。


「君、ジョブは錬金術師って言ってなかったっけ?」


「そうだよ」


 蛍と一緒にすごしたおかげで第一階層なら安全に立ち回れる自信がついた。


「錬金術師だって戦えるご時世なんだぜ、知らなかったのかい?」


 ほんとは学園に通ってるうちに戦えるようになっていくほうが一般的なんだが、省いていいだろう。


「そうなんだな。じゃあ一緒に行ってもいいかな?」


 アインは驚きから立ち直るとすぐに言ってきた。

 決断が早いな。

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