第33話 世界を救う主人公です、これでも

「エースケ、わざと言ってるんだよね?」


「何の話だよ?」


 きょとんとしてやると、アインはガタガタ震え出す。


「この人天然なんだ……やばいやつと知り合っちゃったかなぁ」


 独り言にしては声がデカすぎる。


「聞こえてるぞ」


 じろっと睨むふりをすると、首をすくめて黙ってしまった。


「そんなに不安なら仕方ない。雰囲気を掴むだけで適当にうろうろしたら引き上げよう」


「ごめんね」


 アインは素直にわびる。


「別にいいんだが、よく戦士を志してやってきたな?」


 主人公だからと言えばそれまでなんだろうが、本人はいったい何を考えているんだ?


 そんな疑問がわいたのだった。


「うん。戦いは苦手だけど、いやだと言ってもモンスターは襲ってくるだろう? だったらいろいろ勉強しておいたほうがいいと思って」


 慎重だが思慮深く勇気がないわけでもないって感じかな。

 けっこう好ましく思った。


「そういうもんだろうな。俺も似たようなものだ」


 本当は違うのだが、いちいち説明してやる義理はない。

 襲ってくるモンスターに対処できるようになっておいたほうがいいと思うのは、別にウソじゃないし。


「へえー、一緒だね!」


 仲間を見つけたからか、うれしそうにアインは微笑む。

 邪気のない天使のようだと、お姉さま方は表現するんだろうな。


「そうだな。さあ行くぞ」


「うん。頑張ってエースケは僕が守るよ!」


 おっかなびっくり言われても安心できないが、指摘するほど無粋じゃない。

 

「第一階層で気をつけなきゃいけないのは噛みつき石くらいだ。あわてずに行こう」


「う、うん!」


 うろついていると、横道から突然わらわら人形が飛びかかってくる。


「うわあ!」


 アインはあわてて手を振り回した。

 武器なんて持ってきてないから当然だが。


「戦士なら素手でもある程度戦えるんじゃないの?」


「む、無理だよぉ! せめて武器をくれえ!」


 半泣きになってアインはわめく。

 何か悪いことをしたな。

 

 彼にのしかかってるわらわら人形を蹴り飛ばす。


「びゃー!」


 珍妙な悲鳴をあげてわらわら人形は倒れ、わら人形を二個ドロップする。

 こんな時にドロップ率上昇判定はいらないわけだが、仕方ない。


「悪かったな。せめて武器を持ってくるべきだった」


「あ、足を引っ張ってごめんね」


 アインは俺を責めるどころか、自分のダメさを謝ってきた。


「怒ってないのか?」


「錬金術師の君がモンスターを難なく蹴り倒すところを見たら、自分を情けないって思う気持ちが強くなったよ……」


 アインはシュンとしてしまう。

 後衛特化型のやつが蹴り一発で倒せる相手にやられかけた前衛、という構図はたしかにきつい。


「まったくそんなつもりはなかったんだけどな」


「うん、それもわかってる」


 アインはだからこそ俺を責めるのは筋違いと思ったのか。


「立てるか? 詫びに食堂で何かおごるよ」


「そう?」


 アインは俺の手を取った時、すでに泣き止んでいた。

 立ち直りはけっこう速いな。


「じゃあアップルパイと紅茶がいいかなぁ。えへへ」


 だらしなく頬をゆるめる。

 すでに思いを馳せてんのか。


「別にいいが、まだダンジョン内だからモンスターに襲われるぞ」


「ひゃあ!?」


 おびえてその場で跳ねまわるアインを見て、そっとため息をつく。

 ゲームの知識がなかったらこいつが世界を救う主人公だって、絶対に信じなかったよ。

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