第29話 皮肉屋リヒター
「非戦闘員を勇ましくないと評するつもりは毛頭ありませんが」
蛍がそんな性格じゃないのは百も承知だ。
「いいんじゃないか、非戦闘員と接することができるというのは。戦う時、守る人のことを想像しやすいだろう?」
「……その発想はありませんでした」
蛍は目からうろこが落ちたと大いに感心する。
「エースケ殿は本当にすごいですね。毎日のように教えられてばかりです」
彼女の賛辞は止められるものじゃないので、黙って聞いた。
「なるほど、守るべき人の暮らしを見られる。師匠が見聞を広めてこいとおっしゃったのはそういう意味もあったのでしょうね」
彼女は顔を輝かせ一人感心している。
「てっきり多種多彩なモンスターと戦って来いということかと思っておりました」
いくら何でもそれはないだろう。
どれだけ戦闘脳なんだ。
さすがにちょっと呆れてしまう。
それが伝わったのか、蛍はあわてだす。
「そ、それがしとて、戦いのことばかり考えてるわけではありません!」
「うん。そうだろうね」
とりあえず肯定する。
そして間を置いてから言った。
「ただ、俺と同じ年で凄腕の剣士だろ? どれだけの研鑽を積んだんだろうと思うし、戦いが中心なのはおかしくないさ」
むしろ戦いのことを軽視してるほうがこわい。
それで強いとかどんな怪物なのか。
「よ、よかったです」
蛍は安心したらしく、胸に手を当てている。
こういうところはかわいらしいな。
「蛍は甘味とか好きか?」
「甘いものは好きですよ?」
蛍はきょとんとして応じた。
「じゃあ今度どっか食べに行こうぜ」
「いいですね」
笑顔で約束は成立する。
もっともいつの日かまでは言及しない。
とりあえず入学式が終わってしばらくしないと外出は難しいし。
「あら、ここにいたのね」
女性の声がかけられる。
聞き覚えがあるものだったので二人そろって顔ごとそっちを向いた。
予想通りそこにはフィーネ、シェラがいたが、他にも男子生徒が二人いる。
パウルとリヒターの二人だ。
先輩ということもあって俺たちは立ち上がって一礼する。
「こっちは風連坂さんと四十万くん。二人とも彼らはパウル・オデッセくん、それにフランツ・リヒターくん」
いろいろとツッコミどころがある紹介だったがスルーした。
フィーネは面白がるだろうけど、男子の先輩たちの反応がおそろしい。
「ああ、会長が見どころがある一年とおっしゃっていたのは君たちか」
パウルは興味深そうに水色の瞳を向けてくる。
一方でリヒターはつまらなそうな態度を隠さない。
「お耳汚しだったかと思います」
「小賢しい口のきき方をするんだな。シジマとやら」
リヒターが皮肉たっぷりなことを言う。
皮肉屋で主人公に対して常に懐疑的だった彼は、プレイヤーの嫌われ者だった。
一度も味方側として参戦しなかったしな。
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