第28話 儲かるから

「はう……」


 何やら蛍はクリティカルダメージを受けた顔をしてる。

 言い方がまずかったかな。


 だが、否定するのは難しい。

 友達を強調するのも何か違う気がする。


「と、とにかくいこう。迷惑かもだし」


「そ、そうですね」


 俺が選んだのは蛍をせかすことだった。

 他に並んでいる人は誰もいなかったが、彼女は逆らわずついてくる。

 

 結局ボッチだった俺は人との距離感を適度に保つってのが下手なんだろうなぁ。

 

「そろそろ入学式だな。今さらだけど」


 本当に今さらな話をふってみる。


「何だか奇妙な感覚ですね。同級生とこうして知り合えるとは思っておりませんでした」


 蛍は面白そうに笑った。

 まったくもってその通りだよな。


 蛍とこんなに仲良くなれるとは想定してなかった。

 人当たりはいいが奥まで踏み込ませてはくれないタイプだと思ってたからな。


 ……いや、まだ奥まで踏み込めてるわけじゃないな。


「同じクラスになれたらうれしいですね」


 蛍はそう言ってくる。


「ああ、それだといいな」


 今後も一緒に行動しやすくなるもんな。 

 一年で蛍並みのスペックの持ち主は主人公くらいである。


 錬金術ヒロインと魔法使いヒロインは二年になってから強くなるって感じだ。

 そう言えば主人公がそろそろ来るのか。


 選択肢である程度性格が変化するタイプのゲームだったから、どんなやつなんだろうという不安はちょっとある。


 外道ムーブをやってるタイプだけは勘弁してもらいたい。


「希望授業の取り方は考えているか?」


「まだ決めていないのです」


 俺の問いに蛍はそう答えた。

 

 この学園の授業は必修授業と希望授業にわけられる。

 必修は一般教養、魔法理論、数学の三つだ。


 錬金術、武術、薬学、神学、魔法学、探索学が希望授業である。

 

「錬金術も剣術も分類上は希望授業なんだよな」


「戦える者を育てる学園にしては意外ですね」


 蛍が言いたいことも理解できた。

 モンスター対策として優れた戦士、魔法使いを輩出するのが主旨とした学園なのに、という思いは俺にもある。


「まあ非戦闘員もいるからな。俺みたいにダンジョンにもぐりたいやつばかりじゃない」


 俺がダンジョンに行くのはそっちのほうが儲かるからだし、そのための知識も持っているからだ。


 じゃなかったらたぶんダンジョンには近づかなかっただろうなぁ。

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