第30話 同じクラス

「今日は顔見せだけよ。またゆっくり話しましょう」


 フィーネはそう言って部下を連れて去っていく。

 と思いきや、シェラはすぐには動かず俺を見て言った。


「リヒターは加点対象も減点対象も多い。忘れて」


 そしてフィーネの後を追う。

 彼女なりの誠意と言うか、リヒターに対する詫びみたいなものかな。


 プラスで評価するなら百点満点、マイナスで評価しても百点満点、ていうのがたしかゲームでのリヒターだったはず。


 あんなのとつき合ってる生徒会役員は大変だなぁ。

 プレイヤーとして見ていた時よりもずっと強い同情心を持つ。


「むう」


 蛍が不機嫌そうな声を出す。


「どうしたんだ?」


 こんなに露骨な態度をとるのは知り合ってから初めてだったが、少しも心当たりが思い浮かばない。


 本人に聞くしかないと思った。


「フィーネ先輩もシェラ先輩もおきれいですね」


 拗ねたような表情にようやくピーンとくる。


「蛍はもっときれいだよ」


「!?!?!?」


 この切り返しを予想してなかったのか、蛍は大きく目を見開いて絶句した。

 続いて耳まで真っ赤になって両手で顔を隠してしまう。


「ひ、卑怯です。反則です。そんなのなしです」


 うろたえる彼女のかわいらしさは、表現するのが無理なレベルだった。

 もっともあまり言うと拗ねてしまうだろうから、黙って見守ろう。


 凝視しない程度に見ているとやがて冷静さを取り戻したのか、彼女は顔をあげる。


「こほん」


 わざとらしい咳払い。

 だが、空気をリセットしようとするのを止める理由はなかった。


「このあとはどうしますか?」


「蛍さえよければダンジョンにもぐらないか?」


 俺の提案を聞いて彼女の顔は戦士のものに即座に切り替わる。

 さっきまでの空気は何だったのかという豹変ぶりが頼もしい。


 俺たちはこういう空気のほうがあってるんじゃないかな。

 そしてダンジョンにもぐって錬成をくり返し、入学式当日がやってきた。




「フィラー金貨一枚、大銀貨三十枚か。悪くはないな」


 と朝一番で自分の所持金を確認する。

 日本円換算だと約百三十万だ。


 本来この時点で所持金はゼロからスタートだったいうことを思えば、勝ち組状態だろう。


 ゲームでははじまる前という遠慮もあったが、今日からはもう遠慮はいらない。

 今日あるのは入学式とクラス分けである。


 できればだが、主人公を見ておきたいが上手くいくか。

 担任はあんまり意味がなかった気がする。


 それよりも残りのメインヒロインについてだ。

 フィーネ、蛍とは遭遇済み、錬金術ヒロインはまだ存在しないはずである。


 あと二名はそれぞれ魔法使い、ローグで魔法使いが二年でローグは一年だ。

 ローグヒロインと知り合ってパーティーを組めたら最高なんだが、さすがに高望みかな。


 ローグはサブの男もけっこう優秀だったから、どっちかとは仲良くなりたい。

 蛍と二人も悪くないが、敵が強くなってくると蛍の負担が大きすぎるからな。


 俺が気配探知系のアイテムを作れたらいいんだが、ゲームにはそんなもの存在しなかったし……うん、待てよ?


 『雑多な草』なんかもゲームには存在しなかったら、作れないとはかぎらないのか。


 これはうっかりしていたとしか言いようがない。

 組み合わせ次第ではこっちにはなくて日本にあるようなものを作れるかな?


 問題はそれらのよさを理解してもらえるかどうかだが……ひとまずはウィガンに相談してみよう。


 いろいろと練ってると生徒会長のあいさつがはじまった。


「みなさん、ようこそ」


 きれいなよく通る声でフィーネがあいさつする。

 人の耳目を自然と集めるカリスマ的魅力を持っていた。


 美人とかカッコいいといった形容詞がぴったりだな。

 そしてあいさつが終わって新入生代表があいさつをする。


 壇上にあがったのはメガネをかけた銀髪の美少年だ。

 秀才イケメンで実家は名門貴族っていう設定の、ラルフ・ヴィエ・フィルモア。


 魔法使いでフィーネとちょっと違った方向の万能型だ。


「新入生代表、ラルフ・ヴィエ・フィルモア」


 ヴィエという称号は西方の大国の貴族に与えられる称号だ。

 まあ対魔王戦で落ち目になる国なんだが。


 それよりも問題はクラスわけだよなぁ。

 何で入学式が終わってからの発表になるかね。


 ゲームだったら適当に省略されて主人公だけ呼ばれるからいいんだが、現実でこれやられると待ち時間が。


 しばらく待たされた結果、俺は三組で呼ばれる。

 蛍と主人公と一緒のクラスだった。


 クラスまで歩いていく時、さりげなく蛍が横に立つ。


「やったな」


「はい!」


 うれしそうに返事した蛍の顔は、尻尾をふる子犬のようだった。

 頭を思わず撫でたくなったが自重する。

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