第23話 人生の転機

「あとは反復横跳びや鬼ごっこも師匠は奨励されてましたね」

 

 走り続ける体力より、敵の攻撃を避け続けるほうが大事なんだろうな。

 とは言え、反復はともかく鬼ごっこは一人じゃできないな。


「よければおつき合いしましょうか?」


 蛍がそう申し出てくる。


「いいのか? 今さら基本中の基本なんてやっても」


 驚いて彼女を見つめた。


「ええ。人に教える時と同時に自分の復習にもなりますから」


「じゃあありがたくつき合ってもらおう」


「ふふ」


 俺が答えると蛍はうれしそうに口元をほころばせる。

 うん、遠慮しなくよかったみたいだ。


「さて、第三階層を目指そう」


「ドロップアイテムはどの程度必要なのですか?」


 蛍の質問はもっともだ。

 うっかり伝え忘れていたな。


「大きな布が二枚、魔力の糸が十個くらいじゃないかな」


 単独で取れるようになったら、一年相手に売るのもアリだ。


「なるほど。それでしたらあまり時間はかからないですね」


 蛍はさりげなく恐ろしいこと言う。

 いや、この場合は頼もしいと言い換えよう。


「大きな布はモメンヘビ、魔力の糸はマジックワームが落とす」


 どっちも蛍がいれば難しい相手じゃないな。


「心得ました。ヘビとワームですね」


 蛍は気負うことなく答えた。

 第三階層ではモメンヘビ、マジックワーム、噛みつき石、置いて毛の四種類のモンスターが出る。


 あと、レアモンスターが出る可能性が生まれる階だ。


「おいてけー、髪の毛をおいてけー」


 さっそく置いて毛が出たか。

 ハゲに悩んだ人の魂が集まって生まれたと言われる、アンデッドモンスターだ。


 白いまん丸な半透明の球体から、低い男の無念そうな声が響く。


「風光一刀流、浄光斬り」


 そして蛍にあっさり切り捨てられる。

 風光一刀流は文字通り風や光の属性をまとえるので、アンデッド系や魔法攻撃に弱いモンスターの弱点をつけるのだ。


 蛍がいれば余裕なのは予想通りで、申し訳ないという気持ちはあっても彼女一人で大丈夫かという不安はない。


「すごい流派なんだな。蛍の修練の結果だろうけど」


「ふふ、風光一刀流は地元ではけっこう有名なのですよ」


 蛍はそう語る。

 こっちではたしかにまだそんなに有名じゃない。


 彼女が対魔王軍との戦いで活躍して一気に有名になるって設定だったから、まるっきりの謙遜ってわけじゃないんだよな。


「蛍と出会えたのが、俺の人生の転機になるかもな」


 冗談めかして言ったが本気である。

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