第22話 基礎体力作り
「それに戦えたほうが絶対に得だしな」
「否定できませんね」
蛍は微妙な表情だった。
無理に戦わなくてもいいのにと思う、優しい女の子だしな。
「蛍さえよければつき合ってくれるか?」
「喜んで」
試しに聞いてみたら笑顔で即答された。
「ありがたいな。持つべきものは友だな」
そう言って二人笑う。
鍛錬ダンジョンにはけっこうお宝が眠っていて、それを狙うためにはやはり自分でも最低限のことはできるようになっておきたいのだ。
錬金術師のための錬成釜も拾うことができる。
ゲームだと主人公が拾ってメインヒロインに譲るわけだが、こっちだとそうなるとはかぎらないし、俺が先に回収しておくのも手だろう。
「今日はまず俺の訓練を兼ねて第一階層から頼んでもいいか?」
「ええ」
蛍の返事は速いが、すぐに首をひねる。
「中級道具袋はいいのですか? 先に作っておけば持ち運びが楽になるのでは?」
「おっと」
うっかり忘れかけていた。
蛍も読み取ったのだろう、苦笑している。
「まずは中級道具袋の素材を集めよう。俺と蛍の二人分な」
「ありがとうございます」
蛍がぺこりと頭を下げて礼を言ったので応じた。
「いや、護衛料がわりだよ」
中級道具袋一つくらいならむしろ破格の安さである。
ビックになってからお返ししようと心にメモをしておく。
「会長から聞いたところによると、第三階層で中級道具袋の素材がドロップするらしい」
「第三階層なら、単独で行けたのでお任せください」
蛍はとんでもないことをさらりと、微笑を浮かべながら言う。
「どうします? 修行しながら行きますか? それとも第三階層まで最短コースで向かいますか?」
ダンジョンの入り口で蛍がそう確認した。
「最短コースで行こう。道具袋をグレードアップさせたほうが、修行の効率もよくなる」
「ふふ、承りました」
蛍は楽しそうに笑って刀をすらりと抜き放つ。
無駄がなく洗練された動作はとても美しい。
第一階層の敵はコボルトとわらわら人形で蛍の敵じゃないし、俺でも逃げるのは余裕だ。
第二階層からは噛みつき石が出てくる。
こいつは硬いので魔法で倒すのがいいんだが、フィーネも蛍もめっちゃ普通に物理で倒す。
俺だったらちょっとつらいだろうな。
そして最短で第三階層の階段をおりたところで、ひと息ついた。
蛍はまったく息切れしておらず、基礎体力からすごいことがうかがえる。
一方で俺は戦ってもいないのに疲れはじめていた。
「うーん、体力の差……」
水をひと口飲みながら悔しがると、彼女は優しく微笑する。
「それがしは幼少のころからずっと鍛えてきたので」
「初心者でもできる体力トレーニングって何かある?」
この質問は半分儀礼、半分興味本位だった。
風光一刀流の鍛錬方法、実はあんまり掘り下げられてなかったんだよ。
「王道かもしれませんが、ランニングあたりからはじめてみてはいかがでしょう?」
「やっぱりそうなるか」
言われると思ってはいたんだよなあ。
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