第17話 ウィガン
ゲームを思えばウィガンがいるのは実習棟の三階が多かった。
新入生がうろついてるのを目撃されるかと思ったが、人がいない。
実習棟の三階は部屋が三十くらいあるが、すべて暗い色合いの木の扉で閉ざされていて、用がある人は引きこもって出てこないからかな。
ウィガンはどこにいるだろうか。
授業がはじまってからだと錬成部の部屋か、自分の研究室かにいるんだが。
三階をうろついて会えないようなら、ウィガンの研究室に行ってみるかな。
ウィガンの研究室は実習棟の四階にある。
ウィガンにかぎらず、教職員の研究室すべてがそうなんだが今は置いておく。
ダメもとで行ってみようか。
仮に叱られたとしても、今だったら新入生なのでそのあたりのことは何も知らなかったで通るよな。
そんな計算を働かせてながら足を四階へと向けた。
三階と四階では大した違いはないはずだが、教職員の研究室しかないところなので心理的なハードルは存在する。
ま、気にせずあんまり明るくない廊下に突っ込もう。
職員は今の時期も普通に学園に顔を出してる。
学生の時は特に疑問に思わなかったが、社会人になってみると大変だなとしみじみと思う。
研究を主にしてる人たちはいるんだろうなと思いつつ、ウィガンの部屋を探す。
どこだったっけ?
画面ごしに見るのとは雰囲気が全然違っていてわかりにくいな。
キョロキョロしながらしばらくうろつくと、一つのドアが開いて中から緑色の上着をはおったスーツ姿の老人が出てくる。
完全にはげあがった頭と、真っ白な眉とあごひげが印象的だ。
この人こそ俺が探していたウィガンである。
「おや、見かけない顔だね?」
彼はそう言って匂いをかぐ。
「錬成スキルレベルがⅢ的な匂いがする」
そして言い当てた。
匂いをかげば対象のスキルレベルがわかるとか意味不明の特技を持っているのだ。
あくまでも特技であってスキルじゃない。
この世界にそんなスキルはないのだから。
「ええ。錬成を頑張ってたらあがってしまいました」
「ほほう。入学式前の段階でⅢとは、将来有望かもしれないな」
ウィガンは赤い瞳をぎょろぎょろと動かし、長い舌でぺろりと唇をなめる。
「ありがとうございます」
そう言ってから本題に入る。
「錬成の結果、不要なアイテムがけっこう出てしまって処分に困ってるのですが、先生何かいいアイデアはありませんか?」
率直に切り出すとウィガンはにやりと笑った。
「私が買い取ってあげよう。持ってくるといいよ。もっともⅢまであげたなら、持ち運べない量があるかな?」
息が荒く、今にもよだれを垂らしそうな顔で早口に言う。
まったくもってその通りなのだが、洞察力をたたえるよりも距離を取りたくなる。
この人が『錬金術フェチの変態ジジイ』と異名を持っていたわけを、改めて実感させられた。
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