第16話 いらないアイテムの行方
素材を集めて錬成して、無事に錬成スキルレベルがⅢになったので、フィーネのところに行って袋を返しながら報告した。
「おめでとう。一つうえのステップをのぼったのね」
フィーネは拍手をして祝福してくれる。
「速い……信じられない。すごい」
シェラは今さらのように驚き、目を丸くしていた。
「中級道具袋を錬成するためには素材が必要なのですが」
「第三階層のモンスターが『大きな布』と『魔法の糸』をドロップするわよ」
知ってるが知らないフリをしたかったので、フィーネから教えてもらう。
「そろそろドロップアイテムや錬成アイテムを売ることも考えたら?」
と助言をくれたのはシェラだった。
これにはちょっとびっくりである。
好感度をあげていかないとまず言ってくれなかったので。
「そうですね。助言ありがとうございます」
俺が礼を言うと、シェラは小さくうなずいて読書に戻る。
「シェラが誰かにアドバイスするなんて珍しいわね」
フィーネは小声で言って、意味ありげな微笑を浮かべた。
「私もついていきたいけど、そろそろ入学式の準備がはじまるからね」
いつ来てもこの二人しかいないけど、タイミングの問題なんだろうな。
フィーネとシェラとの仲が進展してるだけでも十分だから、欲張らないでおこう。
「お疲れの出ませんように」
「ありがとう。新入生の子に学額式の前に言われるのも、何だか不思議な気分だわ」
フィーネの言うことはもっともだったと思ったので二人で笑う。
そろそろ入学式の準備がはじまるなら、そろそろあのキャラとも会えるかもしれない。
『雑多な草』みたいに使い道に困るアイテムでも買い取ってくれる変人。
この場合は在庫処分をしてくれる恩人を探しに行きたい。
「実習棟って新入生がうろうろしても大丈夫ですか?」
これはゲームじゃ試すこともできなかった案件だから、知ってる人間にたずねるしかないのだ。
「この時期なら大丈夫だけど、何か見たいものでもあるの?」
「錬成アイテムの処分に困ってて、誰か相談できる人はないかなって」
「ああ……」
錬成に失敗したアイテム、成功しても売りものにならず使い道もないアイテムというのは、序盤の段階では珍しくない。
だからフィーネもすぐ理解した。
「それだったら老師を頼るといいわよ」
「老師?」
聞き返しながらも誰のことか予想はつく。
「ええ。錬金科の講師で、錬成部の顧問でもあるウィガン先生よ」
「変態だから気をつけて」
シェラが顔をしかめながら忠告してくる。
こっちでもやっぱり変態なんだ、あのおじいさん。
「変態なんですか?」
「まあね……個性的な方ではあるわね」
フィーネは直接的な言い方を避けるが、苦笑いは堪えられない。
ゲームの序盤、手っ取り早く金を稼ぎたいならウィガンを頼ったものだ。
そのせいで『ウィガン銀行』と命名したプレイヤーもいる。
「はあ……」
とぼけた反応をするとフィーネが口を開く。
「困ったらいらっしゃい。私でよければ相談に乗るわよ」
「ありがとうございます」
そう答えてウィガンがいそうな場所を目指す。
ウィガンが『雑多な草』を見たらなんて反応するだろうか。
なんて考えれば、いざという時フィーネを頼れるのは心強い。
学校での発言力、存在感、実家の権力をあわせればたいていの教師よりもアテにできる。
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