第10話 シャレのわかる人
やがて道具袋はパンパンになってしまう。
そろそろ戻るしかないかと思った時、
「よかったら私の道具袋を使う?」
とフィーネが上級道具袋を差し出してくる。
「これ上級道具袋じゃないですか」
フィーネならもう持っていてもおかしくないのか。
ゲームだと主人公が全部管理するシステムだったが、そこは変わってるのかな。
「へえ、ひと目で気づくなんて大した眼力ね。中級と上級の違いを見きわめるのは難しいのに」
「エースケ殿、すごいですね」
フィーネが褒めてくれて、蛍が感心してくれたがしまったと思う。
新入生の段階だとたしかにあっさり見きわめるのはおかしい。
とは言え、今後のことを思えば「こいつすごい奴なんじゃ」と思われていたほうが都合はよさそうだ。
同学年の蛍はまだしも、フィーネは引く手あまたでわざわざ一年と組むメリットなんてない。
「そうなんですか?」
ただ、今後何がどう違ってくるかはとても全部読み切れないので、自覚してないことにしておこう。
「ええ。新入生としてはかなりすごいわね。期待の逸材だわ」
フィーネはうれしそうに笑った。
頼もしい後輩を見つけたのは生徒会長として好ましいのだろう。
「ここはお言葉に甘えさせていただきます」
頭を下げると彼女は満足そうだし、蛍は小さくうなずいた。
何もない一年生が力のある上級生の好意に甘えるのは、彼女たちにとっては当然である。
下手に意地をはって突っぱねるほうが、彼女たちの好感度は下がるだろう。
ゲームの知識とこの点は一致しているようだった。
「先輩を頼ることができるなら、採取がはかどりますね」
「あら、どれくらいやるつもりなのかしら」
俺の冗談にフィーネは笑いで応じる。
シャレのわかる人じゃなかったら怒られただろうな。
さんざんやりこんだおかげで鍛錬ダンジョンのどこに何があるのか、だいたいは覚えている。
それは言えないので適当にぼかした。
「先輩と蛍さえよければ下の階層に行きたいのですが」
やはり第一階層だけでは物足りない。
第二階層のほうが拾える素材もよくなる。
遠慮しなくてもいいなら、ダメもとでお願いしてみよう。
「いいわよ。行ってみましょうか」
フィーネは面白そうに笑った。
遠慮なく頼られるのが心地よさそうである。
蛍も反対しなかったが、先輩にたずねた。
「第二階層ではここのように、モンスターを避けて採取に励むことはできますか?」
「やろうと思えばできるけど、蛍さんは物足りないんじゃないかしら」
と答えるフィーネの表情はいたずら少女みたいである。
蛍はそれに乗らなかった。
「そんなことはございません。それがしは戦狂いというわけではないので」
「先輩さえよければ俺はモンスターと戦うのはかまいませんよ」
俺はそう口を挟む。
「エースケ殿」
蛍が複雑そうな顔になる。
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