第9話 頼もしい一年

 会長の承認が必要になるけど、フィーネ本人だから今回は問題なし。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 俺が頭を下げて礼を言うと、フィーネの視線が蛍に向けられる。


「エースケ殿がよいならそれがしにも異存はありません」


 蛍は俺が直面していた問題が解決したことを喜んでくれた。

 自己紹介を改めてしたあと、蛍がたずねる。


「生徒会長殿のジョブをうかがってもいいでしょうか?」


「聖騎士よ」


「何と」


 蛍が目を丸くしたのも無理はない。

 聖騎士は仲間を敵から守るディフェンス、攻撃担当のアタッカー、さらに回復担当のヒーラーの三種を兼ね備えた上位ジョブ、それも相当レアな存在だ。


 フィーネは基本パーティーの弱点をフォローする行動をする、という扱い方でよい。

 

 普通聖騎士は器用貧乏らしいが、彼女はすべての能力が一線級に成長し、さすがメインヒロインというしかない強さを誇る。


 ぶっちゃけ学園を卒業するまでなら、蛍とフィーネだけでも十分すぎるほどだ……フィーネは三年だから一年限定だが。


「そうなると充分安全は確保できますね」


 蛍がそう言うと、俺は苦笑する。


「過剰戦力もいいところって感じだな。会長の強さは知らないけど、この学園の生徒会長が強くないとは思えないし」


 もちろん嘘だ。

 フィーネ・グルンヴァルドがどんだけ強いかよく知っている。


「同感です」


 蛍は気づかず、首を縦に振った。


「かわいい後輩たちの期待に応える努力をしましょうか」


 フィーネは余裕たっぷりの笑みを見せる。


「このままダンジョンに行ってもよいのですか?」


「ええ。戻ってから錬成前に手続きが必要になるけど」


 蛍の問いにフィーネはそう応じた。

 やっぱり手続きしないと釜は使わせてもらえないのか。


「お世話になります」


「礼儀正しい後輩ね」


 フィーネは満足そうにうなずいた。

 彼女は堅物ではないが、礼儀はけっこう重んじる。


 そういう点では蛍とは気が合うんだよな。

 三人での探索だが、フィーネがいる時点で余裕である。


 もともと蛍一人でも十分だったんだからな。

 ただ、フィーネは俺の行動に関しては蛍以上に興味を示した。


「シジマくんは何でも拾うのね。錬成の練習のためかしら?」


「ええ。錬成スキルをあげないと、道具袋を錬成できないもので」


 錬金術師の生命線となるのが錬成スキルなのは、説明の必要はないだろう。

 錬成スキルに応じて錬成できるアイテムが増えていく。


 中級道具袋ならスキルレベルⅢで解放される。

 ゲームの時なら三百回ほどやればよかったので、入学式までに間に合うはずなんだよな。


 エースケがそれをできるのか、という心配があるわけだが。


「現段階から目的と計画を持って動いているなんて大した一年生ね。頼もしいわ」


「同感です」


 フィーネに感心され、蛍がこくこくとうなずく。

 どうやら二人の間ではシンパシーを感じ合ったらしい。


 俺という人間を媒介にして。


「自分の実力をそんなに信じてないので。努力でカバーしようと」


「己のことを受け止め、何ができるか考え実行する。それを明哲というのだと思いますよ」


 蛍がべた褒めしてくれた。

 こんな美少女に褒められると、悪い気はしないな。

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