第8話 生徒会特権

 事務のお姉さんのところにまず戻る。


「錬成釜って入学前の錬金術師でも使わせてもらえるのでしょうか?」


「え、そんな前例ないですよ」


 事務のお姉さんは困惑しながら応じた。

 頭の固い前例主義者のようだが、彼女は何の権限もない下っ端職員だしなぁ。


 さて困ったぞ。

 入学するまで錬成釜を使わせてもらえないなら、集めた素材で俺の部屋が埋もれてしまう。


 これはダンジョンから釜を拾ってくるしかないか?


「それがしの部屋に置いてもらってもいいですよ。埋もれるほどは困りますが」


 蛍が心を読んだとしか思えないことを言う。


「いいのか? それは申し訳ないんだが」


「ふふふ。エースケ殿が立派な錬金術師になってから返していただければけっこうです」


 どうやら蛍は俺に先行投資をしているつもりかな。

 何がそんなに気に入られたのかわからないが、期待には応えたい。


「どうかしたのですか?」


 そこに女性の声が聞こえてきて、同時に職員のお姉さんがほっとする。


「新入生からの問い合わせに対応していたところです。やる気があるのはいいのですが」


 苦笑まじりにお姉さんが言った。


「あら、そうなのですか?」


 俺たちがふり向いた先に立っていたのは、赤いリボンを胸にした三年の女子生徒。


 菫色の髪に金色の瞳、蛍と同様女性にしては長身の美貌の持ち主。

 生徒会長にしてメインヒロインの一人、フィーネ・グルンヴァルトだ。


「私でよければ事情を聞きましょう、お二人さん」


 フィーネは優しい笑みを浮かべる。

 彼女は服のうえからでもわかるくらいたわわで、みんなに優しい性格で人気は高い。


 本来なら彼女が蛍と組んでダンジョンにもぐってたのだろうというのが俺の推測だ。

 つまりここで事情を話せば助力を得られる可能性が高い。


 幸先はいいな。


「わかりました。どこかでお話しできませんか」

 

 俺の返答に蛍は異をとなえなかった。

 親切で物わかりのよさそうな上級生だと彼女も考えたのだろう。


「お茶でもいかが?」


「あいにくですがそれどころではございません」


 フィーネの提案に蛍はやわらかく、しかしきっぱりと答える。

 今のところ上手くつき合えてたから表面化しなかったが、蛍は上級生相手でも譲らないところは譲らない性格だったな。


「そう」


 フィーネは特に気分を害したりはしなかった。

 この程度で怒るほど器は小さくない人物で助かる。


 だが、蛍はおそらく俺のために言ってくれたのだろうから、自分で言ったほうがいいな。


「実は僕は錬金術師なのですが、学校の錬成釜の使用許可をいただきたくて」


「そうだったの。たしかに前代未聞ね」


 フィーネは瞳を丸くする。

 やっぱりそうなのか。


 錬金術師は最初から一気に活躍できるタイプのジョブじゃない。

 入学式までに積み上げておくくらいでちょうどいいんだがな。


 彼女は数秒考えて答える。


「ではこうしましょう。私と組んでダンジョンに行くの。そうすれば集めた素材の錬成許可を私が出せるわよ。生徒会が管理を任されてる錬成釜があるから」


 なるほど、生徒会特権か。

 生徒会の執行役員は自分が認めた者を同行させ、各種設備を使わせることができる。

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