第7話 堅実なやり方

 収集した石と葉っぱ、草を並べてひと息つく。

 寮の玄関を出ると、五メートルほど前に立っていた蛍が瞑想を止めてこっちを見る。


 この程度彼女にとっては児戯みたいなものなんだろうな。


「お待たせ」


「何の。大したことではないですよ」


 こうして微笑む姿を見れば本当に絵になるよなぁ。

 早い段階から彼女と知り合って仲良くなれた幸運に感謝しよう。


「昼飯は何がいい?」


「こちらの料理はほとんど知らないので、美味しいものなら何でも」


 蛍は食いしん坊っぽい表情になる。

 

「味はあんまり期待しないほうがいいと思うよ」


 俺は主人公が彼女に言ったセリフをそのまま使う。


「そういうものなのですね」


 ちょっと失望したがすぐに気を取り直す。


「それもまた人生の趣というもの。受け入れましょう」


 ほんとポジティブで笑顔がよく似合う女の子だなと思う。


「どうかしましたか?」


 俺の視線を感じた蛍はきょとんとして首をかしげる。

 こういうところは無防備なんだよな。


「前向きな性格だよね。俺も見習いたいな」


「そうでしょうか」


 本人は無自覚らしい。


「素敵な性格だと思う。ぜひ見習いたいよ」


「エースケ殿はほめ上手ですね」


 蛍は恥じらい、うっすらと頬を赤らめた。

 意外とうぶなところがあるんだな。


 甘酸っぱい空気になりかけたのを咳払いで払しょくし、食堂へと移動する。


 中にいるのは十人ほどで男性の先輩のほうが多い。

 彼らは俺たちに物珍しそうな目を向けたが、すぐにそらしてしまう。


 現段階だと会話するほどの存在じゃないってことかな。

 まあまだどんな奴らかわからないって思われるのは当然だった。


 カウンターで俺たちはオムレツセットを頼む。


「俺と同じでいいのか?」


 自分で料理が乗ったトレーを運びながらたずねた。


「よくわからない時は他人にならうことにしているのです。エースケ殿は慎重なタイプとお見受けしましたし」


 蛍はそう回答する。

 相手のまねをすると言いつつ、性格も考慮して決めるのか。


 堅実でかしこいやり方だと思う。

 オムレツセットはそこそこの味だった。


 無料で食えるだから文句を言う気にはならないし、蛍も同じらしい。


「ところで相談があるんだが」


「何でしょう?」


 蛍は何となく俺が言いたいことを想像してそうだった。


「職員のところに行って、錬成釜を使えるのか確認したい」


「よろしいですよ。お付き合いしましょう」


 蛍は即答する。

 

「ありがとう」


「どういたしまして」


 なんだかちょっとやりとりの文字数が減った気がした。

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