第5話 最初の収穫
「ごめんな。少なくとも準備が整うまで足手まといになってしまうだろう」
ここで見栄を張っても蛍の評価を下げてしまうだけだ。
正直に言ってわびる。
「何の。これもよい修行です。それに錬金術師でなければ用意できない代物は数多くあると、師からうかがったことがあります。護衛代を差し引いた価格で譲っていただければ、対等な関係を維持できるというもの」
蛍はにこやかに言ってくれた。
単なる善意ではないことを示してくれたおかげで気が楽になる。
「蛍と対等なパートナーでいられるように頑張るよ」
そう言うとこくりとうなずく。
こうして二人の最初の探索がはじまった。
俺は石とかを拾い、手持ちの道具袋に入れていく。
これはあんまり入らないし、質量無視もできないので、早めにいいやつを錬成したいな。
その点で錬金術師はお得である。
素材があって作り方を知ってれば何でも自分で作れるんだから。
「そのようなものもいちいち拾っていくのですね」
蛍は周囲を警戒しながらも興味深そうな顔だった。
「申し訳ない。これが錬金術師の基礎鍛錬になるんだ」
「なるほど、基礎はとても重要です」
蛍は狙い通り納得してくれた。
まあ、あんまり待たせても悪いからほどほどにしておこう。
「お気になさらず。こういう状況もまたさまざまな修行ですよ」
俺の心を読んだように蛍は微笑む。
「……あまり気にしてると、君への侮辱になりそうだな」
「そう解釈する者がいないとは断言しかねますね」
蛍はやわらかい表現を用いた。
彼女くらい精神の修行もしている身なら、手持ち無沙汰な状況も平気なんだろう。
「ただ、俺としては君の好意に甘えっぱなしというわけにもいかないんだ」
「ふふ、それが貴殿の矜持なら止めるのも失礼ですね」
蛍はうれしそうに笑う。
彼女はそう言えばしっかりした自分を持つ男が好き、だったな。
だから彼女を攻略する時には言動が不一致になるような選択肢を避けるのは必須だった。
「ありがとう。理解あるパートナーで助けるよ」
「おや、貴殿はそれがしに伝わる言葉を選んでくれたのだと思いましたが」
洞察力もあるみたいだけど、こんなキャラだったっけ?
打ち解けるまではもうちょっと口数少なかったような……。
ゲームとは多少は違っているというつもりでいたほうがよさそうだ。
とっさに切り返せなかった俺を見て、蛍は笑みを深める。
計算違いだったけど、彼女の評価を高められたならよかった。
石と草を定期的に拾っていくが、誰とも遭遇しない。
おそらく上級生はこんな浅い階層にはおらず、新入生は俺たちくらいなんだろう。
まあ何も今日一日でイベントを起こしまくる必要はないか。
とりあえずゲームとの差異はありえるとわかっただけでも収穫だ。
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