第3話 握手


 彼女からすれば無謀な新入生が増えたとしか思えないんだろう。


「おや、貴殿もですか? 見たところ同じ新入生のようですが」


 彼女は緑の瞳を丸くする。 

 自分と同じことを考える新入生がいるとは思ってもみなかったらしい。


「そうだな」


 俺も新入生だというのは真新しい制服と、リボンとネクタイが同じ青だということで推測したのだろう。


「風連坂さんはサムライ、前衛職だからまだしも、四十万くん、あなたは錬金術師なんですよね? 無謀を超えて絶望的なんですが!」


 うーん、やはりこの反応になっちゃったか。 錬金術師、本当最初のうちは足手まといだからな。


 だから危険を冒してでも単独でもぐるしかないと思ってたんだが。


 それでも何とかなるかなと思ったものの、風連坂蛍が止められてたなら俺も無理なのは納得できる。


 だけど、ゲームだったら何とかなったんだよな?

 どうやってクリアしたんだろ?


「何とも無茶な御仁ですね。初対面の殿方に失礼なことを申し上げますが」


 蛍は遠慮なくはっきりと言うがいやみがない。

 裏表のないさっぱりとした性格で、誰からも信用されるという設定そのままのようだ。


「浅い階層なら大丈夫だと思ったんだけどな。ほら、錬金術師って自分で素材調達できるかどうかが、けっこう大事なジョブだからね」


 職員はもちろん蛍だって知らないはずがないだろう。


「なるほど。その心がけはすばらしく、見習わせていただきたいですね。ということでここは一つ、それがしと臨時パーティーを組むというのはいかがでしょう?」


 驚いた、蛍のほうから提案してくるとは。


「ありがたいよ。こっちから申し込む手間が省けた」


 本心から答える。

 何しろ蛍は最強クラスの火力担当なんだ。


 一緒に戦ってくれるなら、こんなに心強いことはない。

 女性職員に二人してお願いしてみる。


「どうでしょうか、前衛と後衛ということなら安全性はだいぶ違うと思うのですが」


「俺がいれば傷の回復もできるようになります」


 俺たちが手を組むメリットはそこにあった。

 初対面なのに連携大丈夫? なんてことはここでは言わない。


「うーん、たしかに」


 女性職員はあきらめた顔でうなずいてくれた。


「あなたたちは腕に自信があるのでしょうが、無茶はしないでください。鍛錬ダンジョンといえど、大けがをして再起不能とみなされて退学になった生徒はいるんですからね」


 これは脅しのようだが、過去にあった事実でもある。


 俺は知っているからこそだが、まじめな蛍は神妙な顔で首をふった。


「俺、シジマエースケ。エースケと呼んでくれ」


「それがし、風連坂蛍と申します。これも何かの縁でしょう。よろしくお願いしますエースケ殿。気軽に蛍とお呼びください」


 俺たちは笑顔と握手をかわす。

 蛍の手は歴戦の剣士って感じだった。

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