第3話

 追い始めた時は小さな影をかろうじて目視できるくらいに離れていた。しかし幸い足は私の方が速いようだった。住宅地をしばらく追う間についには数メートルの距離にまで迫った。犯人は振り向きもせず一心不乱に逃げ続けていた。

 道は国道へとぶつかる。片側二車線を横断する信号は赤色だ。右か左か、私は後を追いながら犯人がどちらに曲がるつもりか注視していた。

 しかし犯人はまっすぐ道路の向こうを見据えている。そしてわかった。犯人は赤信号にもかかわらず交差点を走り抜けるつもりだ。

 交差点に進入し、犯人は一度左右を見渡しただけで、意を決したように道路に侵入した。

 ほんの数メートルで背中に手が届く、そこまで迫っていたのに、偶然、あるいは犯人が狙ったのか、私と犯人を分断するようなタイミングでバンが迫ってきている。いま飛び出すと確実に衝突し、私の体は想像もしたくない状態になるだろう。

 車が行き過ぎ犯人が渡り切るのを待つか、それとも轢かれる覚悟で追うか。

 判断には一瞬しか使えない、それで十分だった。

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