第7話 〈閑話〉私が見つけたもの。
温泉旅行からも帰って来て、やっと落ち着いた感じだ。
ここ最近は課題に取り組んだりバイトをしたりと忙しくてあまり出来なかったけど、なんだか部屋が少し汚れた様な気がする。
「そういえば、最近ちゃんとした掃除をした日が無かったなー」
部屋の隅を見てみれば、埃が目立つ、比較的新築なはずのこのアパート。
トイレの天井にも蜘蛛の巣が張ってあったりで、こんな環境で5日間も過ごしていたという事を考えると、とても気持ち悪くて信じられない気持ちになった。
という事で、今日は部屋の掃除をする事にしたんだけど……
改めてやろうと思って部屋を見渡して見ると、余計に汚れが見つかってしまうんだよねこれが。
もう本当やだよね、1度目に入っちゃうともう忘れられないじゃん。
「めんどくさいなぁ……」
と呟いてしばらくぼぉーっとしていると、部屋のベッドの上にある携帯がなっている事に気がつき、急いで取りに行った。
『もしもし、奈帆ちゃん?』
「あ!さきちゃん?」
どうやら、電話はさきちゃんからみたいだ。
『うんうん!そうなんだけど私今日暇なんだけど、なほちゃん今日空いてる?』
掃除しないといけないけど、さきちゃんとも会いたいし……
どうしよっかなぁ。
掃除を早く終わらせたいし……、きっと誰か手伝ってくれる人がいれば、早く終わるのかもしれないなぁ……
って考えていると、良いことを思い付いてしまった!
きっとさきちゃんなら良いよって言ってくれるはずだ……
「うーん、それがね、ここ最近忙しくてさぁ、それであんまり部屋の掃除できなくて、今日1日かけて掃除しようと思ってたんだー、ごめんねー本当は私もさきちゃんに会いたかったんだけど、うーん、、、このままだと午前中に終わらせるのも厳しそうでさぁ……」
どう?優しいさきちゃんなら手伝うよーって言ってくれたりしないかなぁ……
『分かった分かったよ奈帆ちゃん、手伝うよー今からお家行くから待っててねーそれで早く終わらせて午後出かけようよー』
「良いよー!でも本当に手伝ってくれるなんてありがとー」
『まったくぅ……まあでもそういう所も奈帆ちゃんだもんね、私は好きですよー?そんな奈帆ちゃんもねぇ……』
「ありがとう、私もさきちゃん大好きー」
『嬉しいよ、りょ、両思いだね?……って、そういうことじゃなくて、じゃあまたあとでね……』
「はーい」
やっぱりさきちゃんは優しい、持つべきものは友である!
ていうか、何あれさきちゃんの最後の……声が凄い可愛かったんですけど?
それから、トイレにかかったクモの巣とか、さすがのさきちゃんにも見られたくないところ、それから部屋の細かいところとか……
あとは、ちょっとやっておかなくちゃいけないこと、、、。
そんなことを手早くすませて、あとはさきちゃんが来るだけっ、ていう感じにして待つことにした。
* * *
「奈帆ちゃんお待たせー来たよー」
ついにさきちゃんが来ました。
おお、今日も天使だなぁ。
さきちゃんのブラウンのワンピースにミルキーホワイトの髪色が凄く似合ってる。
「早かったねー、あこれ雑巾ね!まあ、そんなに服とかじゃなくて、そこら辺のものを整理整頓、くらいでも嬉しいよっ、あと喉乾いたら冷蔵庫にお茶あるから適当にコップによそって飲んでねー」
友人を家に招き入れて一番に雑巾を渡す私って、本当に性格がダメなのかもしれないなぁ……
「分かった、じゃあ今から3時間で終わらせよう!」
両手を握りしめるさきちゃん。少し非力なイメージがあるだけに、そのギャップがまたちょっといじらしかった。
「うん!」
ちなみに、そそくさと去っていくさきちゃんの背中は、なんと露出しているタイプだったよ?
それから少しして、具体的になんかして欲しいことある?って聞いてきたから、じゃあ改めて2人で家のなかを探検して、どんな感じか確認しようって話になって、役割分担をついに終えた。
その話し合いによりプライバシーの問題も考慮し、私は自分の部屋とトイレとお風呂となり、さきちゃんが台所と玄関、そしてリビングの掃除となった。
それにしても、よくこの都会でこんな広いアパート借りれたよね……お母さん、お金大丈夫なの?
仕送りもバイトの分と会わせて全然困らないし、大学の学費と、本当にお母さんには感謝しかないなぁ……
子どもの時に、お小遣いが貰えなかったのはこれのため?
そういえば何かと節約節約!とか言って「将来のためだから今日の晩御飯はこれにしよう?」とか言ってたし、今思うと、そうとしか思えない。
お母さんは何事も、計画的にやってきたんだね……
* * *
やっぱり、奈帆ちゃんのアパート広すぎないでしょうか。
玄関でこの広さというのは、もう一軒家と言っても良いレベルなのではないかと思ってしまいます。
月いくらくらいの賃貸なのでしょうか……
さらに、玄関には履いているのをみたことがないような靴も結構ありました。
まあ、いずれにせよ奈帆ちゃんが幸せなのは良い事です。
と思いながら玄関を後にした私はリビングに戻りました。
リビングにもいろいろものが多くて羨ましいなと思いながら見ていると
ひとつの紙切れ、というか手紙のようなものが見つかりました。
「なんだろう、これ開けて良いかな気になるよ……」
どうしましょうか……。
いま、奈帆ちゃんはお風呂掃除をしている。
だからまだ少し時間がかかるはずだし、タイミング的には、問題ないよね?
ごめんね、奈帆ちゃん……って内心謝りながら、私はついにその折られた手紙を開いてみることにしました。
「よし……」
私は覚悟を決めて読みかかろうとします。
何が書いてあるのでしょうか、これはひょっとすると、ラブレターなのかもしれません。
しかし、ラブレターにしては、少しボロボロな気もします。
それとも死んだおばあちゃんからの手紙であったりとか、あとは別の友達からの手紙とか色々あるのかもしれません。
となってしまうと、やっぱり失礼なのでは?
とも思いましたが、やはり好奇心に逆らうことはできませんでした。
読んでみることにします。
『 愛する人へ
今まで楽しかったよ、君と過ごした日々は忘れられないものだ。
君と初めて出会った日のこと、今でも覚えている。あの時は、まだ君のことを何も知らなかったから、こんな事になるだなんて想像もしていなかった。
だけど、君がまた数日して僕の前に来た時、その時から全てが始まったんだ。
さて、僕は今日で卒業だけど、君にはまだ、高校生活は1年間あるよね。
僕のいない1年間はもっと勉強に集中すると良いとおもう。
そして、僕よりも良い大学に行っても良いとも思う。一方で、それはそれで少し寂しいとも思わなくはないけれどね。
だけれど、君と過ごした日々の中で僕がいなければもっと、人生を歩めたのかもしれないと時々おもうことがある。
だなんて、先輩としても、君に恋する人としても失格かな。
でも君は、僕と出会わなければ手に入れられなかったものもあると思う。
そいういうものは、僕たち2人だけの一生の財産なんだとおもう。
どうか、僕と過ごした日々を忘れないでほしい。
この手紙を読む、という事はもう僕たちは別れているんだよね。
でも大丈夫また次に出会った時に必ずまた、
「好きだ」
もう一度伝えるよ。
大丈夫、君の大学受験のために、1年間ほど別れるだけなのだから。
その時、君がどう返事してくれるのかはまだ分からないけど。
それでもちゃんと伝えるよ。
だから出来れば待っていてほしい。
そして僕のところまで来てほしい。
いつかまた出会えると僕は信じている。
これは、僕が大学生になり、君も高校三年生となるという事を配慮した結果だ。
それは決して勉学が君への思いに優っているということではないから。
これは……
というところで切れてしまっていて、続きは読めませんでした。
更に、差出人も分かりませんでした。
とても内容は情熱的で熱い話でした。
読んでいて、私まで心臓が高鳴ってしまうようなものでした。
宛先には名前が書いてないとはいえ、やはりここにあるということは、奈帆ちゃん宛のものでしょうか。
こんど、その事について聞いてみたいと思いながら、私はその手紙をなるべくもとの場所に戻るように置いておきました。
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