第6話芽生えるもの(3)

「本当はもっとはやくいうべきだったのかもしれないけど……」


え、先輩ここまでなんか隠してたの?

全くダメだなー先輩は。


一体先輩がどこまで考えてたのかは分からないけど、まあここまで確かに私たち5人はロクなこと話せてないよねぇ、、、。


私なんて何故か最初に当てられたんだよ?


先輩さっきのは明らかに悪意あったよね?


みんなもそう思うよね、うんうん。


だって普通はさきちゃんたち4人の話を聞くのが目的なんだから、私に1番最初に当たるなんて思わないでしょ?


だからあんまり言えなかったじゃん高校の時の事もあんまり……。


「何ですか?何か凄いことでも隠してあるんですか?先輩」


私はそんなもったいぶる先輩を、仕返しでもしたくなって、ちょっと大袈裟にきいてみる。


「ここまで隠してたことだぞ!なんか凄いことだろー」


おっ、ここにきてななくんものってくれましたっ。


「えっとね、実は俺も奈帆、折敷くんたち2人と同じ高校だったんだよね、まあ1つ上で関わりがないのは当然で知らないのも分かるかな」


へぇ、そうなんですかぁ、それだけですかぁ……


って。


「ええ!まじで先輩俺たち同じだったのかよ、白崎も同じだったってだけで結構驚いたんだけどな?」


「凄いっていうか凄すぎる偶然だよ奈帆ちゃん!」


さきちゃんも、ここまではあんまり話についていけなかったけれど、ここにきてようやく話してくれた。


うう、可愛いなぁ……。


「そうだねーさきちゃん、私も今初めて知ったよ」


驚きすぎてリアクションが一周回って平凡になること、ありませんか?


「それで先輩、何か高校時代のお話とかあるんですか?」


ゆうちゃんもこの事に興味津々だぁ……。


私も実は聞いてみたかったりする。


「もちろんあるよ、君たちとは違って恥ずかしいことも辛いこともね」


なんか、この言い方が実に青春っぽくて嫌いだなぁ……ズルくない?


「それ、話せますか、先輩?今日までの3日間で先輩の高校時代がどうだったのかが少し気になりましたよ」


ゆうちゃんがここにきて猛追をする。


確かにこんなミステリアスで、それにちょっとルックスも良い先輩がどんな高校生活を送っていたのか、気になるところですねぇ、、、。


「分かった、先ずねそれを話すとなると僕の高校2年の時まで遡るのかな、高校2年の春新しく入ってくる君たちの学年、1年の入学式の日の前日の準備があって1人で学校に行こうと思ったんだけど、そこで僕は1人の女の子に出会ったんだよ」


意外と、先輩は神妙な顔つきをしていた。

どうやら、この話はせんぱいにとってもなかなかに思い入れが深いエピソードなのかもしれない。


「その子はね、、、駅で迷っていたんだ、その駅はすごく広くてね、新入生にとっては確かに分かりにくいとも思うけど、その子が泣きそうな顔で居たから声を掛けたんだ」


驚いたことに、ななくんまでもが、この話を集中して聞いている。



「そうしてその子が迷っていると分かった僕は、その子を案内して、その日は学校まで一緒に行った、という出会いがあったりもした」


出会いがあったんですねぇ、良い出会いだね、結構ロマンティックで好きかも、私もそういう出会いをして、恋に落ちたりしてみたいなぁ……。


「それで先輩はその子と恋に落ちて2年間いっしょにいたけど今は違う大学でーって感じですか?」


ゆうちゃんがここへきて名推理を、発揮する。

まあ、ここでこの話を持ってくるあたりは着地地点はそのあたりになるのかな。


「うーん、何と表現したら良いのか分からないど確かにその子は今この学校には居ないね……」


なんか、含みのあるようにも感じる言葉だった。

そして、私と同じように感じたのか、奏くんも先輩に質問を投げ掛ける。


「そうなんですか、それは受験に落ちたとかって事ですか?それともこの世から居なくなってしまったっていう事ですか?」


えーそういうの聞いちゃうの?奏くん中々のやり手だなぁ私もそれ少し気になったしさんきゅ!


「どちらかと言えば後者、かな、とはいえ僕はまたその少女に会えることをしんじてもいるんだ」


後者……。それってつまり、病気で脳死、とか、そういうことなの?


なんか寂しいし、切ないな……


って、何でこんな事聞いたんだよ!奏くん空気読もうよ!


「なんかすみません、変なこと聞いてしまって……」


「いや、別に大丈夫だよ」


そのせんぱいの言葉は、いつもにましてトーンが低いようにも感じた。



そりゃショックだよねぇ、私も好きな人がこの世にいなくなるのかな」


「……それにいつかは話さないと、というか直面しなきゃならない事実だし……」


先輩は、そのことで、まだ受け入れられていない部分もあるのかもしれない。


「まあ、その子とのお話はただそれだけでは無いんだよね、何というか僕、という人間を暗い底の中にいる状態から救い出してくれたっていうか、とにかく……大切な人だったよ」


「ありがとうございます」


「やっぱり俺たちの学年以外は普通に色恋沙汰もあったって事だよな、どこの学校もそうなんだよな」


「何急にらしい事言ってんのよ折敷ってば!」


ゆうちゃんがすかさずななくんにつっこみを入れる。


「別に良いだろ、みんなもそう思ってんだろ」


まあ、確かに私もせんぱいのコイバナ、みたいなのをきいて、少し胸がジーンとしなくもなかった。


というか、先輩の話し方が、本気だった。


「まあそうではあるけれども」


まあ、これで結構場の雰囲気がしんみりしてしまった感は否めないんだけどなぁ……


「みなさん、最後の夜ですし!大富豪でもやりませんか?」


さすがはさきちゃんだなぁこの重い雰囲気を一気に立て直そうとしてくれた!


やっぱさきちゃんと友達でよかったよ。


「おっ、いいなぁ日高、大富豪は俺も得意だぜ?みんなで楽しもうっ!」


大富豪に得意ってあるの?よくわからないけれど。


この後、わたしたちは、夜遅くまで。


それこそ日付が変わりもうそうなくらいまで続けました!


「あー疲れたな」



わたしは、今1人で廊下を歩いている。


幸いここの旅館はお風呂が深夜2時までやっていて、今は深夜の1時くらいだから、まだお風呂に入るチャンスがあったの、良いところだよねぇ。


「色々あったな今日1日で、先輩の意外な過去も聞けたし……もっと聞きたいかも」


って私何で言葉にしちゃってんの?完全にホラーだった。

これ誰かに聞かれたら、夜中に廊下を歩く女の人の声が聞こえて……とかの伝説できちゃうやつじゃん。


それはそれで悪い気がいなくもない?


ちょうど眠気で声も言っちゃってたし……


あ、ここだなんか結構遠く感じだな、まあ良いや入ろっと……


「やっぱい良い湯だな、こういう深夜のお風呂もいいよね」


今1人だよ?私深夜にお風呂貸切とか良く無い?


みんなおすすめだよ!絶対やってみて!


独り言はほどほどに、ですが。


露天風呂からは標高の高い山らしく満天の星空が広がっている


「あー、何年ぶりだろうなー」


私って、小さい頃はよくお空見上げていつかお星様掴む!


とか言っているような典型的な子供だったはずなのに、いつの間にか空をもあげなくなっていたような気がするなぁ。


何でだろ


「……それにしても、私のむね、小さく無いかな」


そうそう!ついにさきちゃんにまで言われちゃったよ?


小さいってさぁ、別に何とは言わないよ?女の子には分かるよね?


きっとそれかもしれない、いつの間にか周りの子が成長していく中、私の体のは遅かった。


そして止まるのだけは早いっていうね。


てか、何でもかんでも私はBなの?


視力検査でも万年Bだし。


血液型もB。


きっとそれがコンプレックスで、つい下向いちゃうのかもなー。


昨日のさきちゃんは本当にすごかった、私の顔よりも大きさはあった。ずるい!


そんなことを考えながら、わたしは、久しぶりに童心に戻り、ひとりでに最終日の夜のお風呂を満喫していた。



それから少しして、全身が暖まり、お風呂からあがって、今度はお風呂上がりに涼もうと、この旅館の共有の場のベランダに来ていた。


「もしかして、白崎?」


え、誰?怖いんだけど幽霊!?


急に声をかけられましたっ!


「俺だよ、七瀬だよ」


あ、どうやら人間だったらしい、しかも私のしっている人。


ちょっと安心する。


「あーななくんかー、奇遇だね」


お風呂に上がり少しベランダのような所で涼んでいるとな、なくんがやってきた。


「あ、そうだな、お風呂上がりか?入ってなかったのか?」


「うん、ちょっと用事があってさきちゃんたちとは入れなかったから」


「そっかー、大変だったな」


と、ここで会話が切れる


このままでいいのかな?

気まずく無い?



なんかはなそうかなぁと思って、私はさりげなく横目でななくんの様子を見てみることにした。


ええっ?なんと、ななくんが私の方をじっと見ていました!


「こう見ると案外白崎も可愛いんだな」


何この人、急にそんなこと言っちゃってんの?


「ばっかじゃ無いの?」


とは言えずに、


「何見てんの?私に見とれてたんでしょう」


たぶんそうかなぁって、半ば期待しながらも、ふざけるようにしていってみる。


これまであんまり、ななくんとは良い感じに話せていなかったから、ここはななくんとの距離感を近づけるチャンスだと思った。


「は、ちげーよ」


「ほんとに~?」


私は意地になって否定するななくんを、問い詰めるように精一杯背伸びをして顔を近づける。


ベランダに頬杖をついていたななくんの、顔と、私の顔との距離が一気に近づく。


「ほら日高とか美原とかって、やっぱ見た目いいじゃん」


ななくんは言い訳をすりみたいに、恥ずかしそうに頭をかきながらそう言った。


「なんかな、普通に他の男子から紹介してくれって言われるし、それで今まであんまり白崎のこと、見てなくて、こうやって2人の時に見て見るとって事だよ」


2人。


ああ、今2人なんだなぁ……。


こうして冷静になって考えてみると、ちょっと緊張しちゃうな……


ん?でもまてよ、今の言い方だと、ななくんは私に……


「君はそこそこ可愛いけど、まあ所詮はあの二人と一緒にいたら霞む程度だね」


って言っていることになりませんか?


「なあ奈帆……」


「え!?」


今下の名前で呼んだよね?ついに私に心許してくれたのかな?


「やっぱりそういう反応するよな……誰かさんの時とは違って」


そこで私はハッと気づく。


そうだ、そういえば何となく気にならなかったけど、私って何ではじめから、先輩から下で呼ばれてるんだろ。


思えば初めての自己紹介が終わった後からだよね?


他の人には呼び方に関しては了解を得ているのをみた気がする。

だとすれば、私も先輩から了解を得ていないとおかしいのだけれど……


「ああ、響先輩のこと?確かにね」


「うん、今日の話聞いて同じ高校だったって分かったけど、それでかって思ってたら面識無かったっぽいしなんかおかしいなって思って」


「確かに!私もそれ思った、何でだろうねーあ、もしかした私のこと特別だと思ってんのかな?」


とふざけて言うと


「まさかーそんな事ねーだろ」


ななくんは即否定しました!


「だよねー」


「……」


はい、会話終了!


「なんか、今までごめんな、白崎ってさ、俺に対してちょっと苦手意識あって気遣ってただろ、だから……」


べつに、苦手って訳じゃない、ただ本当に、なんとなく、だ。


どうしてなのか分からない。


だけど、ななくんは、ななくんだけは……。


「いや、別にあまあそうだけど今はこうして話せてるからいいよ?てかななくんも私のこと奈帆って呼びたいならそうしてもいいけど……」


私はここぞとばかりに胸を張ってななくんの方を見上げる。


うわぁ、すっごい身長さだなぁ……響せんぱいの時もそうだったけど。

そういえば、奏くんも高身長だった。


順番で並べると、ななくん→奏くん→響せんぱい


って感じ?


「はぁ?何言ってんの?」


少し調子にのってしまったかなぁ……。


「いや、別に嫌ならいいんだよ?ただ私はななくんって呼んでるからなーって思っただけ」


そう、私は誰にでも下の名前で呼ぶ癖がある。

これも私が生きてきた生活圏での絶対ルールだ。


「ふーん、なら下の名前で呼ぼっかな、よろしくな奈帆」


「もー!」


なんかこうやって改めてななくんに名前で呼ばれると意外とアレなんですけど?


なんなの、これ……。


「照れるなって、まあそろそろ戻ろうぜ、冷えるだろう」


とそっと私に羽織を1枚被せてくれた。それはななくんが自分が羽織っているものとは違って、もうひとつ持ってきていたものだった。


なんだ、奇遇じゃ無いんだ……


ななくんは私に羽織をくれると、そそくさと歩いていった。


「ま、待ってよ……」


私が咄嗟にだした声は、夜の暗闇に飲み込まれる。伸ばした腕がななくんに届くことはなかった。


このとき、既に私のなかに、ひとつの何かが芽生えていることなんて、知るよしもなかった……


*  *   *



葉川 響


結局4人からは大した情報も得られなかったか……


それに、まさか本人も1番最初に当てられると思っていないだろうから本音が聞けるかなと、どんな反応をするかと思って奈帆を1番最初に当てて見たけど、


あんまり効果はなかったみたいだった。


なあヒュデル、どういうことなんだ?


これ、4人が同じ高校で、しかも揃って記憶がなくて、更に1年後にまた同じ大学に入学して……


しかも、ヒュデルにはそんな彼らの記憶を戻せなくて……


「なあヒュデル、偶然って5つも続くもんなのか?そんなものを偶然と片付けてしまうのか?」

自分以外誰もいない場所で1人呟く。


そこはとてつもなく広く感じられた。

だけど実際は狭い場所である。薄暗く物音もしないこの空間でただ1つ、彼のなかにひとつの不信感だけが芽生えていた。


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