第5話 芽生えるもの。(2)
何だろうねこの感じ。
温泉旅行に来たっていうところまでは良かったし、実際に温泉も気持ちよくてさきちゃんとかゆうちゃんともいっぱい話せたしななくんとも話した奏くんとも会話はとって響先輩ともいつも通りだったんだよね。
そう、いつも通りで何も変わらなかったんだよね今日まで。
3泊4日のうちもう3日めの夜だよ?
明日帰っちゃうんだよ?
しかももう、夜遅くてもう寝るだけって感じでみんな最後にってお風呂入りに行っちゃったし、お風呂はいってたわいもない話をして寝食共にしただけ。
普通もっとイベントあって良いじゃん!
例えば一緒にいるうちに気になる人が出来た!とかでも良いし誰かの意外な一面が見れて親近感湧いた、でも良いじゃん?
一切そういうの無かったんだよ?
何のためにこの旅行したんだろ。
うーん、温泉旅行っていうのがダメだったのかなぁ。
うーん、響先輩ここに来て痛恨のミスって感じ?
いや私がもうちょっと盛り上げれば良かったの?
分かんないよ、とにかくみんないつも通り過ぎて特に何もないんだよ……。
あ、でもちょっと初めて知って驚いたこともあったような……
あ、あった!
5月に入り、長かった冬もとっくに終わって、ついに暖かくなりました!
ていう風にはなかなかなってくれないのが現実です。
この付近の場所は標高が高いこともあり、夜にふと外を出歩いてみれば肌寒く感じてしまうくらいには気温が低かった2日目の夜。
晩御飯はその少しひんやりとした空気の中に暖かさを吹きかける様にして届いた鍋、その料理しゃぶしゃぶであった。
「それにしてもこの豚肉本当に美味しいよねー」
ゆうちゃんが、お肉を頬張りながらいった。
「てか響先輩しゃぶしゃぶ慣れ過ぎじゃないですか?意外と料理できるんですか?」
見た感じ、きょう先輩の動作がかなりガチっぽかった。お肉を鍋のなかで優雅に揺らすところとか、もはやプロの領域。
「この大学に入ってからは1人暮らしで基本自分で作るからね、それにしても子どもの時良くしゃぶしゃぶを食べたなぁ……週末は父の友人がお肉を届けてくれて毎週の様だったからね」
先輩は当たり前だよね?みたいな感じでいうけど、お肉を届けてくれるその友人、下手すればドラ○もんよりも便利だからね?
べんり、じゃなくて、ありがたいんです。
「えー、いいなーこんな美味しいのが毎週食べられるなんて!」
「俺も今日はいっぱい食うか!葉川先輩に負けないようにしなくちゃな」
ななくんは、なぜか、意地をはって、きょう先輩に負けじと食べ始める。
きょうここで食べまくっても、きょう先輩がこれまでに食べた量には及ばないけれど。
「何いってんの?ななくん、今でも十分に食べてるじゃん」
でも、よくよく思い出してみると、ななくんは既にさっきから大分食べていた。
「あ?そっかまあでももっと食いたいしな!」
まあ、ななくんくらいになるといっぱい食べるのかなぁ……前に聞いた話だと、身長は193cmらしい。たしか高校時代はバスケットボールをやっていたんだとか。
こんな風に、鍋をみんなで囲んで食べるというのは鍋パーティーというらしい。
とても賑やかだね。
でも、やっぱり食べるのは大学生6人で、最初は山の様にあった食材も今はもう乏しい。
まるで花火みたい。良い思い出だね!
最初はたくさんあった肉を食べていたけれど、そのうちに肉のだしが鍋のスープにとって程よい味付けとなって、肉のだし汁で野菜を食べるという何とも変わっている食べ方をしていた。だけど、もうその野菜も無くなろうとしていた。
「そういえば響先輩って彼女さんとかいないんですよね?」
ふと思いついた様に口にしたのはさきちゃんだった。
「いないよ、そもそも女の人とは普段はほとんど話さない、今年になってやっと君ちと話す様になったくらいだよ」
「てかそもそも先輩って基本的に誰とも話さないって言ってましたよね?
あ、今思ったんですけど1人で勉強して単位とかどうやってとっていたんですか?」
「確かに!この大学って学部単位で考えると私たちの学部って全国的に見てもトップ5には入るって聞いたけど、私は現にバイトのない日は家に帰ってから寝るまでずっと勉強しても授業でやっとって感じだし、1人じゃ試験となると過去問とか色んな人脈使わないと無理そうだよね」
ゆうちゃんはそんな日頃の苦労を思い出してか、少し疲れたような表情をしていた。
「まあでも、意外と教授たちって、優しいところもあるよな、こないだだって講義が終わったあとに、参考文献一覧が載っていた紙を貰って、図書館で調べたら結構補完できたぞ、この間だって確認テストみたいなのがあって、結構やり応えがあった、そうだよな、奈帆」
ななくんは私に同意を求めるように聞いてきた。
「うん、そうだったよー」
「そうなのか?今年の先生は当たりが多いのかもしれないね、というかそれが普通だったのかもしれないね」
きょう先輩は少し驚いていたような顔をしていた。
「え?その言い方って、去年は違ったんですか?去年は何があったんですか?」
「君たち話を聞いていないのかい?去年は本当に教授は鬼の様だったよ、本気で落としにきていたんだと思うな、まず過去問についてだけど、僕の周りにもそれをアテにしていた人も当然たくさんいてね、その人たちはもう前期の時点で留年確定になったんだよ」
「え?どういう事ですか!?」
さきちゃんがが何かを恐れる様にして目を泳がせながら、先輩にきいていた。
「それってもしかしたら出題傾向が変わったり難易度が急激に上がったりして過去問だけでは対応できなかったっていう事じゃないのか?」
そうくんの話を聞くと、葉川響は先程とは打って変わって少し明るくなったかの様に言った、その雰囲気に変化に少しだけ恐ろしさを感じたなくはないけれど……。
「神南くんのいう通りだよ、そうなんだよ、それとこれはあまり公的には広まっていないんだけど、この大学って1年次の前期の試験だけになぜか一定点数以下の足切りがあるんだよね、60点以下で単位未習得になるけれども、1年次のの必修科目の5つのうち1つでも40点未満を取るという即留年になるというのがあるんだよ、だから殆どが留年確定になりそのうちの少なからずの人が退学していったよ、
まあ今年はどうか分からないけどね」
「やべ!俺このままだと数学の研究科40いかねえかも……」
ななくんが頭を抱える。
どうやら、やばいのは私だけじゃないのかもしれない。
いぇいっ仲間♪
「本当それあれだけ異様に難しいよね!唯一この大学の学部だけに存在するくせに必修科目とかありえないよ!」
ていう会話なんだけど。
今思うと今年も足切りがあったとして、何で教授は最初に言ってくれないんだろうか。
そもそも今年も足切りがあるのかな……
ありそうだなぁ……
今思い返すと4月の最初の方とか教授めちゃくちゃ数学の研究科について「意地でもできる様にしとけ、これが出来ないで未来を台無しにしたくないだろう?」って言ってたし、あの頃は「はぁ?いや他の大学じゃ学ばないじゃん!」とか思ってたけどもしかしたらそうなのかも……
この旅行終わったら今までの分復習しとかないと……私はこれまで以上にもっと数学の研究科の勉強に力を注ごうと決意した。
って言うのが昨日の話で、以上回想終わり。
ちなみにいま私は部屋のなかにいます。
まあそれは当たり前なんだけど、少し特殊な状況で、ひとりでいます。なぜかって言えば、それは私いがいのみんなはお風呂にはいっているからなんだよねぇ。
え?君はお風呂入らないの?
な訳ないよもう……空気読もう?
というか、結構時間たったし来るよ、もうすぐ……。
いや来るよね?
私を置いて帰ったりしないかなぁ……
なぜか急に不安に……
と思っていたら本当に来ました!
「良い湯だったよー何で奈帆は来なかったのー?」
お風呂上がりで如何にお風呂が心地よかったのかを表すかの様に濡れた髪の毛に光を反射させ輝かせながら言ったのはさきちゃんだった。
「うーん、ちょっとそんな気分じゃなかったんだよねー部屋で1人でぼーっとしてたかったっていうか…」
まあ、こっちだっていろいろとあるんです……。
「あ!もしかして今日から奈帆ちゃん女の子の日?」
「別にそうじゃ無いし……今月まだ来てない……ってそういう事じゃないよ!男子聞いてたらどうすんの?
全くさきちゃんはそういうデリカシーのない事たまに言うよねー」
ゆうちゃんが私のことを庇ってくれた。いいこだなぁ……。
ってなに目線だよ。
「そっかそっか、ごめんごめんでもやっぱりおふろ入らずに1人で残るなんてちょっと心配だなー昨日まで一緒に入ってただけにねー……もしかして昨日のお風呂での事まだ根に持ってるの?」
「いや別にあれくらい良いよ、私の胸がちっちゃいのはもう何年も前から自覚してたし高校時代もそれでねぇー」
私がおどけるようにして言ってみた。
でも、さきちゃんは違っていた。
「そういえば奈帆ちゃんって高校時代どうだったの?」
さきちゃんはそう言って、私のことを真剣に食い入るようにみてきたのだった。
と、これからガールズトークが始まろうかとしている時に部屋に入って来たのは男子たち。
響せんぱいと、ななくんと、そうくんだった。
「お前ら先に戻ってたのかー女子なのに早いなー」
「ねえ折敷くん、その発言は男女平等の観点からいうと、女性に対する価値観の押し付けはあまりよくないと思うよ?」
なぜかきょう先輩は、そんなことを急に言い出した。
「そうよ、折敷くん、葉川先輩の言うとおり、そのような発言は気を付けてね?」
そのきょう先輩の発言にゆうちゃんも乗っかった……
「はー?葉川先輩に言われるのは良いとして、なんで美原にまで偉そうに言われなくちゃなんねぇんだ?」
と一般的な男子が見るとこの部屋には居られなくなるほどの美少女2人の見た目には何も触れずに喧嘩腰になる七瀬だが……
「お風呂上がり早々何言い合ってるの?よくないよそういうの……」
と、このくだらないやりとりを牽制するかの様に入って来たのはさきちゃんだ。
彼女もまたとても美しくお風呂上がりという事もあり、世の男子が見れば即惚れ落ちるであろう容姿をしているんだけどねぇ、私的にもチョー好み。
どうやらこの男子3人はそんな事はどうでも良いらしく、何とも憎らしいのだがこれが2週間以上の間どの様に同好会メンバーとして過ごして来たのか、という事を忠実に表していた。
「あ!優大丈夫だった?」
「ん、そういえば美原だけ遅かったけどなんかあったのか?」
「ちょっとのぼせちゃってね、3日目なのに……」
「大丈夫だよ!私が無理させた所もあるしごめんね」
どうやらさきちゃんは、意外とナガブロ派らしい。
そしてそれに付き合わされたゆうちゃんという構図。
「ふーん、そういう事か大丈夫か?美原」
ななくんがさきほどの敵を心配するように聞いてくる。
こういうところは意外と度量が広いのか忘れっぽいのか、優しいところもある。
「大丈夫、ありがとう」
ゆうちゃんもやっぱりそう感じていたのか、一瞬ななくんことをじっとみつめていたけれど、我にかえったように冷たい声でそう言った。
意外と根にもつタイプ?
と、ひとしきりの会話が終わりタイミングを見計らっていた響が呟いた
「そういえばさっき奈帆と日高は何を話していたんだ?」
先輩は私たちの方を見ていながら、私と両目があった。
その問いかけは、さきちゃんと私の両方、というわけではなく、私ひとりに向けてかけられた言葉であった。
それに気がついた私はそれまでの意図を全て読み取り瞬時に対応しこう答えた
私も意外と対応力身に付いてない?
「うーんそういえばさきちゃんの高校時代はどうだったのーって聞こうと思ってた所」
そう言うと、ななくんがなんだなんだと食いつくように話に入ってきた。
「お!それ面白そうだな、今日が最後の夜だしいっそみんなの高校時代について語ってみるのもあり?」
「そうだね、それも良いかもしれないね、よし今日はそうしよう」
内心では奈帆はなるほどと納得していた。
先輩はこれからお風呂に入ろうとしていたとき、私にその事について聞いてきたのだった。
私は予定どおりに今は入りませんよ、と答えた。
すると、あえて響せんぱいは男子のお風呂の時間を長くする事で、必然的に女子が先にお風呂から上がるのが早くなり、結果的に戻るのが早くなる。
そこで事前に前もってその部屋にいた奈帆には帰って来た女子に対して会話の主導権を握らせていたのかもしれない。
というのは私自身には言ってこなかったけれど、それでも私ならそうするだろうと考えていたのかもしれない。
そして実際そうしていた、というのが、響が全て予測していた事であり、高校時代のことについて触れるように会話を誘導したのは私の無意識だったけれど、結果的にうまくいって、こうしてみんなの高校時について語り合う機会を得られた、というわけなのかな。
「そうだな、先ずは奈帆から話してみてはどうだろうか」
でも、そんなせんぱいは結構こういうときはいじわるだ。
「なんで私が何ですか?先輩、、、まあ良いですけど」
よりにもよってトップバッターときた。
まあ、ある意味プレッシャーというか期待値がその分低くて良い、というメリットはあるのかもしれないけどね!
それとも、私の高校時代なんてどうせしょうもないだろって、考えてました?
「お!奈帆の高校時代かーちょっと気になるなー」
それにたいして真っ先に食いついてきたのは、ななくんだった。
「奈帆ちゃんって高校時代からそんな感じのテンションだったの!?」
そしてさきちゃんも、続くようにきいてくる。
うう、二人してきいてきたら、、、辛いです。
「うーん、そうだったのかなー……」
私って、別にそんなに高校時代を謳歌したってわけでも無いしなぁ、、、
魂込めて何かに没頭していた記憶なんてもちろんないのですよ。トホホ……
だから、誰かさんが一番最初に当てたせいで?私こんなにも困ってるんですけどね?結構焦ってます……
「まあでもやっぱり友達と喋っている時はそういうテンションだったかも、ただ知らない先輩と話す時は今の響先輩と話すときみたいに敬語になったりして雰囲気違うねー、とかよく友達に言われたかな、あと私西峰高校出身なんだけど、やっぱり結構な進学校でみんな勉強してたし恋愛とかも色々無かったかもねー、なんかつまらない高校時代でこめんね?」
え?いがいと響せんぱい気になってたりするの?
なんてことないよ、ただの当て馬みたいな感じで当てられたのかと思ったら、もしかしたら一番興味があったから指名したのかもしれない。
何か言い出してきたりするのかなぁ、、、って少し気を張ってみた。
「え!?まじで嘘でしょ、俺も西峰高校出身なんだけど白崎みたいな奴いたか?」
まあ、確かに白崎、なんて人はある意味いなかったのかもしれないけれどね?
「居たよ!大体なんで、って思うけど私もななくんのこと知らなかったなー」
結局お互い様なんだよねぇ、明るくてはしゃいでたけど意外と排他的な私は自分の生活圏から逸脱した周囲の人間に興味を持つことにあまり価値を見いだせないんです、私、、、。
だからこそ、その生活圏が無きゃ生きていけない。
まるで海水がないと生きていけないお魚さんみたいだね!
.。o○
「えー?もしかして2人に同じ高校出身だったの?凄いねー運命かもよ?」
ゆうちゃんが茶化すように言ってくる。
やめてくれいっ!
「えーまさかこんなんと運命とかちょっと嫌かもー、でもほんと同じ高校出身なのにお互いの事何も知らずに同じ大学に来て同じ同好会に入るってちょっと凄いよね」
まあ、本当は私、ななくんのことはしってたんだけどね?
それは忘れるはずも無い。
高校三年の初めに転向して来たのだから。
普通は高校三年から転校なんてありえない、もし学校の方針などの違いで勉強の進度や環境の変化による学習効率の低下の可能性を考えると、普通は転校なんて考えない。ましてはあれほどの進学校だったのだ、それほどに学習にいよくがあるのなら、なおさらだ。
にも関わらずこうして転向して来たのだから、嫌でも覚えている。
今この場でその事を言ってしまうと少し厄介なことになってしまうのでは、と考えてしまう。
実際にその事に対してあまり驚きも、そしてそこからなにかを発展させようとしない響せんぱいが何よりも証拠だ。
「そうね、正直凄いと思うわ、なんかこの流れで私言っても良いかな、大したことも言えないから」
と言い出したのはゆうちゃんだった。
ゆうちゃんはあまり自分のことは話そうとするタイプではないのかもしれない。
今こうして私とななくんが実は出身校が同じだった。というインパクトの強い話のあとに軽くすませてしまおう、と言うのが良い証拠。
「私は四津川高校出身で、この高校もやっぱり進学校かな、周りの人も結構頑張って勉強してたかな、それで一緒の大学に行こうと何人かで約束して放課後に一緒に残って勉強したりした、けれどもまあ見ての通り今の私にこの大学での知り合いはあなた達しかいないかな、それがどういうことかはわかると思うけど
まあこんなところかなー、あとたまに私に明るく話す時もあるからね」
最後にこそっと言っていたけれど、そこはどうやら女子高生らしい。
「へーやっぱり美原は頭が良いんだな」
ななくんが感心するように言う。
「誰よりも勉強した自信はあるから」
そこをはっきりと言えるゆうちゃんは、自分のなかに芯があるのかもしれない。
「次に俺が話しても良いかな」
そんなゆうちゃんに続くように言い出したのはそうくんだ、彼はあまりななくんのように大きな声で話すタイプではないのだけれど、眼鏡越しに見えるその目には何か、確かなものがあるようにも見える。
「良いぞー、話しちゃえ奏」
相変わらずのヨイショ役な、ななくん。
将来はお寿司やさんとかどうでしょうか?
その大きくて、はっきりした声が、活きの良い魚にピッタリだよ?
というか、白いの頭に巻いて魚捌いてそう。ソースは醤油。
「そうだね、俺は明刈ヶ丘高校出身出身だよ、ここもみんなと同じく進学校だね、俺も正直特に言うことは無いんだ、まあでも言う事があるとすればこんな俺でも結構友達は居たよクラスの人ともなかなかに話せたからね」
こんな俺、というのは雰囲気を言っているのだろうか、確かに眼鏡ゆえに理知的に見えて、気難しそうに感じてしまうのはあるかもしれないね、、、。
「まーそうだろ、神南は優しいからなー」
え?なんでそこでななくんがそうだろ、とか言っちゃうの?
いい加減気になるよ?
「そろそろ次は俺ってところかなー?良いかー」
だめです。
「良いよー」
「……」
やはりここまでの5人は大した事は言っていなかった。
まあ、事情が事情なだけに、話せる記憶が最後の1年間だけだしね、受験がメインな年の思い出を語れって言う方が難しかったかもしれない。
そんな感じで、少し盛り上がりにも欠けてしまっている空気のなか、そんな空気を読んでか読まずか、ひとつ、咳払いをしてから響せんぱいが名乗りをあげた。
「最後は僕の番だね、実は僕もここまでの流れで、もっと早く言うべきだったかもしれないけどね……」
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