第2話 交わる二人
例えばもし君が誰かを好きでいたとしよう、しかしその好きな人にいざ告白しようと思い友人に相談した時、「可能性はあるよ」という励ましと「少なからずOKされる確率はあるよ」と「望みはないわけじゃ無いんじゃ無いかな」という事を言われた時、君はどれが一番自分の心に届くだろうか。
確率だとか望みとかはなんとなく内心「絶対無理だろ、諦めなよ」と言われているような気がし無いだろうか。
別にそう思わないならば良いのだけれども、少なくとも僕はそう感じてしまうだろう、その点可能性とは、友人からすればきっと両思いであって欲しいという"気持ち"がこもっているような気がするのだけれども、みんなはどうだろうか、かくて僕ならそう思っているにも関わらずそんな気遣いなどせず正直に、「告白だけしてさっさと諦めなよ」と言ってしまうのだけれどもそれも間違ってはいないと思う。
変に後押ししてしまって予想通り振られてしまった時により傷付くのは前者だと思うのだけれども……前もって先にキツい言葉を掛けておけば仮にフラれたときに「まああいつもそう言ってたし仕方ないよな」何て思ってくれれば幸いだ。
こんな風にいつものように1人で大学の校舎をどうでも良いような事を頭の中で考えながら歩いて行く場所は部室である、まあ同好会だけれども何の同好会かと言われれば説明はめんどくさいから出来るだけ聞かないで欲しいかな。
「失礼します」
とは形式上言うけれどももちろん返事などあるはずもない、何故なら同じ同好会だった先輩たちは昨年度で引退し卒業してしまっているからだ、そう今の時点ではこの同好会に在籍しているのは僕1人なんだから返事があるのは逆に不都合と言ってしまって良いかもしれない。
「明日、入学式だな」
何となくそう呟いてみた、僕がなぜこの同好会に入ったかというと、今年度から僕が1人になれる同好会を探していったた結果偶然この同好会に行き着いたからである。
ただそれだけの理由で入ったのだから当然何をするという具体的な活動に重んじて日々の活動に励んでいるわけではなく、例外なく今これからすることも同好会の活動方針からはかけ離れている、今から僕がしようと思っているのは部屋を敢えて散らかせて置くことだ。
あれは今年度のこの学校の入学試験の日だった。
確かに1人の少女がこの同好会の部室の部屋に前で立ち止まり不思議そうに眺めていた。
もしかして?と思ったのだけれども、話しかけるのはやめておいた。
違っていたら恥ずかしいからね、だから僕は"違っていないか"を確認するために会えて部屋を散らかせておく。
もしそうならば次に明日僕がこの部屋に来るときにはきちんと整頓されていて綺麗になっているだろう。
本来僕は綺麗好きだからきっと掃除してくれるはずだ。
もし違うならば部屋は整頓されておらず放置されているだろう。
明日が楽しみである。
ここまでの話からも想像が付く通り僕にはおそらく今年入学して来るであろう知り合いの後輩がいる。
"その子"が今年この大学に入学してくれたかどうかを確かめるためのあらかじめの準備をしているというわけだ。
もしその子が入学してくれたなら僕はうれしいし、わざわざ1人にしておいた同好会に入ってくれでもしたら最高だろうだからね。
お祈り半分"その望み"にかけてパソコンやら本やらを満遍なく散らかしておく……
そして入学式の日が来た。
去年のような手抜きの式ならばもうとっくに入学式も終わっていてその子があの部屋にたどり着いて中に入っている頃であろう、
僕は複雑な気持ちで部屋に向かっていった。
果たして部屋はどうなっているにだろうか……
返事はあるだろうか、それはどんな声だろうか、女の子の僕の望む声だろうか期待半分で僕は言う
「失礼します」
「 」
返事がなかった、さらに言うと整頓されているわけでもなく昨日のままであった正確には変わった事も有るのだけれどもそれは……
誰のかも知れないこの学校の案内図が床にぽつんと落ちていた。
僕はこんな物今はもう持っていないから誰かのものであり、つまりそれは誰かがこの部屋に来たということに他ならない。
誰が来たんだろうか……
この案内図を持っているということは、今年から入学して来た1年の後輩というのが濃厚だ。まさか2年にもなってまだ必要……だなんて人は居ないだろうからね。
この同好会に在籍しているのは今は僕だけだし僕は去年1年間ずっと1人で居たし、噂になるほどの注目度もないはずだ。
なぜ来たのかということを考えようとすればきりがない。
相当方向音痴で迷って来たのかも知れないし……
この部屋の存在を前もって知って来て居たのかも知れない。
となると、あの子の存在がある以上そう考えたいというのが本音であった。
でも肝心の部屋の中は何も変わっていない……
「部屋を出るか……」
これ以外に何もないし部屋を出て落とした子にこれを届けるのが先決だろうそういう建て前でその事も話せるかも知れない……
「ん?」
何かがいつもと違う気がした。
何がおかしいのだろうか違和感を感じる。
空は入って来る前と同じで、雲が少しあるくらいで晴れていて変わっていない。
気温だって暑くなった気もしない。
なのに何か違和感を感じる。
何だろうか、これは何かの予兆だろうか……
「がちゃん……」
音がした、扉が勝手に開いたのだろうか……
「すみません……」
人の声である、後ろを向くと確かに女の子がいた、という事はこの案内図の持ち主はこの子だろうか
「これ、君のかな?」
「あ、はいありがとうございます!」
「よかった……」
よかった?全然良くないだろうなぜなら誰もいないはずの部屋から急に女の子が出て来たんだ入れ違いになる事もありえない、と思っていると
「あの、私、、、白崎奈帆というんですけど、あなたはこの同好会?か部活の部員さんですか?」
その時、僕は何故か、確信してしまった。
僕がきて欲しいと思っていた後輩がもう来ないと言うことを。
この1年間色々な事を考え、他人との関わりを切ってまで僕はあの子を待っていた。
にも関わらず、この部室に一番最初にきたのが違う子だったということ。
それが全てを物語っていた。
ショートカットで肩にも届かないくらいの長さをした、明るい髪色の女の子が、僕の目の前にはいた。
「そうだよ……」
「なんか元気なさそうですね、どうかしたんですか?」
その子は、僕も様子をみると、心配そうにも、不思議に思っているようにも見えた。
「別に何でもないよ、心配しなくても良いよ」
とりあえず、こんな子に本当のことを話しても意味がないと僕は考える。
「そうですか、なら良いんですけど……」
この子は、そんな僕も言葉をきいて事務的な表情で言葉を返してきた。
「……」
しばらくしてこの白崎奈帆という女の子は思い出したかのようにこう言った。
「あの、あなたの名前は何ですか?学年は何年生ですか?」
そうだった、忘れていた。
先に女の子が名乗って来ていたと言うのに、男である僕が名乗らないなんて後で通報されても文句は言えない……。
まあもう分かっている。
「そうだね僕の名前は葉川 響(はがわ きょう)だよ、この同好会には今1人しかいないんだ」
「そうなんですか!ならちょっとお願い、というか何というかちょっと口じゃ説明できないんですけど、もう1度この部屋に入ってもらえませんか?」
何があるんだろう、何をするんだろうか。
とはいえ、もう僕が待っていた後輩が来ないことを確信してしまった今、もう目の前のことなど、どうでもよくなってしまっていた。
「別に良いけど……」
「良かったです、ちなみに私は今年入学して来た1年です」
「そうだったんだ」
そんな事、とっくに分かってはいたけれど。
「じゃあ僕にとっては後輩だね、僕は2年生だよ」
僕も義務的に返す。
「先輩なんですか!?、なんか生意気ですみません」
まあ、確かに生意気なのかもしれない。
でも、その少し生意気なところは、僕の待っていた後輩に少し面影があるようにも感じていた。
「良いよ、別にそれくらいの方が僕も話しやすいしね」
「そうですか、良かったですでは入りますよ?覚悟はいいですか?」
覚悟ってなんだ?
このさきのへやって、ただの部室だけどなぁ……。
僕は今更ながらにも、彼女の言うことが変だなぁ、と感じる。
そして、今の彼女にとっては、もう関係ないはずの目の前の後輩に対して、僕は少しだけ興味が沸いてくるのを感じていた。
「ようこそ、君が葉川響だね」
部屋に入ってみると、目の前に女の人が立っていた。
「この人はヒュデルって言って神様だよー、この人凄いの!この部屋を作り出して時間も操れるんだよっ!
私はなんか知らないけど、共有者になったらしくて自由に行き来できるんだって!凄いでしょ!あっそうだえーっと、そうそう葉川先輩も共有者にして貰えば!……」
「まあ、いまこの子が言った事で私の紹介は間違っていないだろう、それと今から葉川響に対する説明も兼ねて話そうと思う、ついでに君も共有者にしようか」
もう既に奈帆には話しているらしいのだが、もう少し付け足して話しておきたいという事もあり最初から説明してくれるらしい。
僕も共有者になれるのか。きいた限りでは、色々便利そうだなぁ。
それから、僕はこのヒュデルという、自称神から、4人のことについて聞いた。
その結果、僕が感じたのは、
別にどうでも良いじゃないか、4人がどうなっていようと俺には関係ない……
と言い切れるのだろうか。
僕が悩んでいると、ヒュデルは続けて言う。
「そこでだ、君達2人にはその4人をこの同好会に入会させ、仲を取り持って欲しいと思っている、そしてさらにその4人の記憶を取り戻す方法を探し求めて最終的には取り戻してまた昔のような関係になるようにして欲しいのだが……」
正直言ってめんどくさそうである。
やる価値すらない4人の仲を取り持つのは正直言って簡単である。
僕にできないわけがないだけれども、記憶を取りも出すとなれば別だ。
どこにその鍵が眠っているのかもわからないから、時間だけが奪われてしまうだろうだから、僕はやりたくないのだけれども……
僕は一度、隣にいる彼女の方を見てみる。
そうだ、彼女はどう思っているのだろうか。
「だいたい話は分かりました、それは強制ですか?」
「強制ではないな、時間もかかるだろうし何より負担をかけてしまうところに申し訳なさすらも感じているところだ」
何故かこのヒュデルという神は僕の瞳の奥を通して心の中を見透かすかのように不自然な笑みを僕の角度だけから分かるように向けている。
こいつなかなかやるな……神だからか、おそらく僕と心理ゲームをやりばいい勝負になるのでは無いだろうか。
だから僕はヒュデルという神の真意を推し量ろうとじっと見つめ返していた。
おそらくこいつは僕が引き受けることを確信している。
絶対に僕がやらざるを得ない何かを持っているということかもしれない、だとすればその危険を回避するためにもやらなければいけないのか……
「奈帆はどうするんだ?」
正直僕は奈帆はやるんじゃ無いかと思っている。
"逆に"考えてみればそういう答えが導き出せる。
「私はやりたいですね!面白そうだし何よりロマンチックです!失われた記憶を取り戻すなんて凄いです」
興味本位といったところか。まあ別に良いけれども。
だけれども彼女にも彼女なりの考えはあるようだし。
「そうだね、僕もやってみようかな、ちょうど去年僕は1人で関わっている人も少ないし別に何かに影響するってものも無いからね」
僕はヒュデルという奴に少し強調して言ってやった。
こいつは知っているかもしれない、いや、絶対に知っている。
全部分かっているんだ、僕たちが知らない何かを……
だけれど今この場でヒュデルの考えを全て見通すなど出来るはずもなかった、こいつは"神"なのだから。
「そうかそれは助かるかな、ならお願いしたいね、まあアドバイスといってはなんだけれどもいっぱい遊んで思い出を作り給え」
果たしてこの神という存在が僕たちになにを求め、何を考えているのか、今の僕には想像もつかなかった。
ただ目の前の彼女とこれから関わりを持つであろう彼ら彼女らとこれからどんな風にやっていけば良いのか、という事だけに重きを置いていた。
「「はい」」
僕と奈帆はお互いに違った意味での決意を胸に、やり遂げてやる、という事だけは同じで、色んな意味を込めて返事をした。
話が終わって奈帆は先に帰っていて僕は1人この部屋に残り考え事をしていた。
1人と言うよりは目の前にヒュデルがいるのだけれども、この際全くの無視でいこうとしようとすると、、、
「君に話があるんだ、時間はあるかい?君がこの事に協力してくれるお礼と言ってはなんだが君の知りたい白崎奈帆という女の子について、少しだけ語らせて貰おうか」
「良いですよ、僕も聞こうと思っていましたから……」
この話を聴いて僕は確信すると同時にその中に含められたもうどうしようもなく、諦めなければいけないことの存在を、その意味を自分なりに汲み取り、これからの日々に待ち受けているであろう事をひとり、悲観していた。
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