第10話 混沌(5)

学校を休むという選択はしなかったものの、

児童相談所への通所は継続的に行われていた。

時には箱庭のようなものを作ったり、

時には好きなイラストを描いたりして過ごしたが、

私の心が満たされることはなかった。

いつからか抱いていた【空虚感】は、

そう簡単に満たされることなく、

【孤独感】として私の心を蝕んでいた。

今思えば、

対人依存や共依存に苦しむことの前兆だったのかもしれない。


児童相談所へは、

必ず母が同行したのを覚えている。

母は別室で、

他のスタッフと話をしている様子だったが、

私と合流する時に、

ほぼ9割の確率で母は涙を流していた。


時に、

「ごめんね…」

と謝罪の言葉が放たれることもあったが、

当時の私には、

なにに対しての謝罪なのか、

理解が追いつかなかった。

ただ、

別室にて、

他のスタッフに母が叱られていることは把握していた。

具体的にどのような内容で叱られていたのかを知る事はなかったが、

母親としての在り方について叱られている。

そんな風に母が呟いていたのを覚えている。


児童相談所という場所は、

決して落ち着く場所ではなかった。

しかし、

児童相談所には私を否定する人はいない様子だったので、

児童相談所内で【完璧な良い子】を演じることは少なかった。


良い子である為には、

多くの気力を必要とする。

また、

学校では良い子を演じる必要があった為、

苦しい気持ちが抜けなかった。

そんな中、

児童相談所では多少弱い部分を出しても誰も責めてこなかったので、

ほんの少しだけ、

肩の荷物をおろして、

児童相談所内でだけでも、

安心して過ごせる事に助けられていた。


それでも、

当時の私は発症から大分年月が経っていた。

ごく自然な流れとして、

児童相談所内に併設されている心療内科への通院が決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る