第9話 混沌(4)

最初はただ怖かった。

児童相談所なる場所で、

更にお叱りの言葉を投げられるのではないか?

未知の場所はいつだって恐怖に満ちていた。


何をしても叱られてきたせいか、

善悪の判断もまともに出来る状態ではなかったことがトリガーとなり、

児童相談所へ向かう道中、

私の心臓は張り裂けんばかりの速さで動いていた。


しかし…。

児童相談所の職員は、

私の予想と異なる対応をみせた。


中学校に馴染むことが出来ず、

一人浮いた存在となっていた私は、

ただ登校することでさえ、

大きな覚悟や勇気を必要としていた。


「学校へ通うことが苦痛だ」

と、両親に相談を持ちかけたこともあった。

しかし、過度な教育を施す父からは、

「情けない」

「甘ったれているだけだ」

「本当に俺の子どもか?」

等の否定的な言葉をぶつけてくるだけで、

しばらく学校を休むことで、

気力を回復させることさえも許してはもらえなかった。


行き場をなくしていた私に、

児童相談所の職員は真面目な面持ちで話した。


「学校は休んでもいいんだよ?」


その言葉に涙があふれ、

耐えてきた気持ちがほんの少し緩んだ。

しかし、

私には学校を休むという選択肢はなかった。

学校を休むことで、

父に叱られることは分かっていた。

私のすべてを否定されるくらいなら、

辛くても学校へ行く道を選ぶ…。

父という存在は、

私をがんじがらめにする鎖のようだった。

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