第8話 混沌(3)

試験の度に父から叱られることとなり、気が付けば自分に自信を持つことが出来なくなっていた。

自信を喪失することで、自己肯定感も低くなり、劣等感を強く感じるようになった。

今思えば、中学生当時の自分は悪循環に陥っていた。

自信がなくなるから、気力も下がる。

勉強をするのが困難になり、父から叱責される。

否定的な言葉を並べ立てられて、更に自信をなくし、気力は下がり続ける。


だからといって、父が悪かったとは思っていない。

しかし、中学生の私には耐えきれるものではなかった。

父が通勤で使用するバイクのエンジン音が聞こえると、軽くパニック状態に陥るほどに。

父と話す事、顔を合わせる事に強い恐怖心を抱いていた。

これ以上、私の事を傷つけないでほしい…。

そんな言葉を伝えることも出来なかった。


母は傍観者の状態だったので、誰も父を止める事は出来なかった。

せめて、勉学に励む為、学習塾へ行かせてほしいと願った事もあったが、学習塾に頼ることは父の教育方針が許さなかった。

しかし、自主的に勉強するだけでは、学校の成績を上げることが困難だった。

気力も下がり、当然集中力も下がっていて、30分ですら集中することが出来ない状態。


これ以上、なにをどうすれば父の望む人間になれるのか、怒られずに済むのか。

幼い頃から良い子であり続けた私だが、ここで初めて大きな壁に直面していたのだ。

小学生の頃と同じ努力では足りないのだ。

しかし、努力の仕方も分かっていない。


日々、2階の自室にこもって机に向かうものの、何も手につかない。


そんなある日、母から告げられた言葉が、

「児童相談所に行くよ」

というものだった。


小学生の頃は、繰り返し行動が発覚する事はなかった。

しかし、戸建て住宅に引越したことで、繰り返し行動が明るみに出ることとなってしまった。


児童相談所という場所は聞いたこともなく、そもそも何故行く必要があるのかも分かっていなかった。

しかし、既に通所することは決まっていたようで、拒否する事は出来なかった。


あの時、児童相談所へ行ったことがよかったのか、悪かったのか、未だに分からない。

ただ、当時の自分が限界間際だったことだけは確実だった。

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