第6話 混沌(1)

人は誰しもいつか土に還るのだ。

私だって、例外ではなく、いつか死ぬ時がやってくる。

ただ、死を迎えるのが遅いか早いか。

時期が異なるだけなのだ。


頭では分かっていても、気持ちが追いつかない。

どうにかして、今の苦しみから解放されたいと、願いながら日々を生きていた。

通学途中、道の行き来を繰り返すのも疲れた。

疲れていても、やめることが出来なかった。


「不吉なことが起きるのではないか?」


そのような不安感が一日中続いてしまう。

やめたいのに、やめられない。

根性で解決できる問題ではなくなっていた。

そんな苦しみを抱えながら、足掻いているうちに、私は中学生になっていた。

進学前、

「兄弟仲が悪いから」

という名目で、父は戸建て住宅を購入してくれた。

私たちは、一人づつ違う部屋で生活が出来るようになった。

日頃から喧嘩の絶えなかった妹と、別の部屋になったことはとてもありがたかった。

また、6歳離れている弟にも自室が出来たので、生活自体は快適になるはずだった。

しかし、私は多くの厄でも抱えているのだろうか。

現実は思うほどあまくなかった。


中学生に進学した頃から、父の教育熱心さが増した。

以前の2倍、3倍なんてものではない。

小学生の頃も、勉学に関しては手抜きが許されなかったものの、そんなのはまだまだぬるかったのだ。

父は元々苦労人。

子どもを育てる上で大切にしていたのは、将来の暮らしの安定。言ってしまえば自立した大人になること。

自立した大人になる事はさほど困難なことではないかもしれない。

しかし、父の基準は私の想像のはるか上だった。


学区が変わったことで、中学生活にも馴染めないまま、父のスパルタ教育が本格化。

まさに混沌とした時期が間近に迫っていた。

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