百四十一話:亀竜
悦に浸る俺の真横を尋常じゃない速度で矢が通過する。
矢は地面に崩れ落ちた亀竜の眉間を捉え、深々と突き刺さった。
「へ?」
それを見たミャオは呆けた表情で呆けた声を上げる。
驚くのも無理は無い。
以前亀竜と戦った時は鏃の部分までしか刺さらなかったはずの矢が、今回はヴィクトリアが押し込まずとも矢筈近くまで突き刺さったのだ。
正直、俺も驚いた。
よくもまあ、あそこまで刺さったな。
さすがアダマント武器って所か。
ミャオの<DEX>の内部数値は何処まで上がってんだろ?
一回で良いから見てみたいもんだな。
そんなことを考えながら俺が刺さった矢を遠目で眺めていると、矢が刺さった亀竜の眉間から噴水のように魔素が吹き出した。
<邪属性魔法>スキル『ハイディングリース』:傷口を広げる+微ダメージの蓄積。
お、ヘススの新スキルだな。
いいね、いいねえ。
この調子なら余裕そうだな。
俺は立ち上がった亀竜に『チャレンジハウル』を発動させ、
すると亀竜は俺の方をギロリと睨みつけながらドスンと尻尾を地面に叩きつけた。
前脚の攻撃モーションだ。
俺はすかさず『オーバーガード』発動させ、亀竜の繰り出す右前脚の薙ぎ払いを真正面から大盾で受け止める。
え、軽ッ。
多少の重さしか感じない。
それどころか押し返せそうな気さえする。
これ『オーバーガード』いらなかったな。
てか俺<
気になった俺はステータスウィンドウを開き、チラリと一瞥する。
そこには『<
ハハハ。
カトルの『コントロールコンバット』と『コマンダーバフ』、リヴィの『パワー・バフ』と『タロットリーディングⅣ』が同時に掛かったら六段階も上がるのかよ。
これならいける――北の大陸に。
うし、全員のレベルが70に上がり次第行くか。
――数分後。
亀竜は力尽き、水の魔石と素材に姿を変えた。
「もう終わっちゃったッスか?」
「……そうじゃない? ……あそこに魔石落ちてるし。」
ミャオとリヴィが唖然とした様子で地面に転がった亀竜の魔石と素材を眺める。
その隣では口元を少しだけ緩ませながら、自らの拳を見つめるヴィクトリアの姿があった。
亀竜討伐に約十分か。
カトルの『コントロールコンバット』と『コマンダーバフ』が掛かっていたとはいえ、一匹に三十分以上かかっていた前回と比べたら物凄い進歩だ。
経験値以外の旨味は無いけど、ミャオ・リヴィ・へスス・ヴィクトリアの四人からすれば成長を実感出来る良い一戦だったな。
「「タスク兄!」」
「ん? どした?」
「「やっぱり俺(私)たちも戦いたい!」」
俺たちが難なく亀竜を倒したのを見てなのか、カトルとポルがそんな事を言ってくる。
どうしたもんかと悩んでいるとフェイまでもが「ワタシも戦いたいデス」と言い出した。
「うーん。それじゃあ、一戦だけな?」
「「「やったー!」」」
「でも、危なそうだったら手を出すからな?」
条件付きだが、俺が許可を出すとカトルたちは嬉しそうに返事をしたあと、フェイを先頭に歩き出す。
列順を入れ替え、しばらく『千年孔』内を進んでいると前方から一匹の亀竜が姿を現した。
「
「ハイ!」
「ほーい」
「あい、わかった」
「わかりました!」
カトルの掛け声と共にフェイは亀竜に『ヘヴィハウル』を放ち、ポル・虎鐵・ぺオニアは駆け出す。
亀竜はフェイを睨むと鼻をピクつかせブレスのモーションに入った。
「ブレスだ! フェイ、ロックウォール!」
「ハイ!」
<岩属性魔法>スキル『ロックウォール』:強力な土の壁を作り出す。
――発動。
フェイの目の前の地面が盛り上がり岩壁が出来上がる。
早速、フェイも新スキルを使ってんな。
だが<
案の定、ブレスが直撃した岩壁はいとも容易く砕ける。
だが既に、岩壁の裏にフェイはおらず『スピードランページ』を発動させて亀竜の足元まで距離を詰めていた。
お、上手いな。
今のは視線を遮るための『ロックウォール』か。
フェイもテンコレを経て、成長してんだなあ。
兄ちゃん嬉しいぞ。
フェイは見ていて問題なさそうだったので、俺はアタッカー組の三人を見に行こうと亀竜の側面へと移動する。
「ポル、斬! デスビィ、麻痺針! 虎鐵兄、豪ノ型!」
「ほいっ!」
「あい、わかった」
カトルの指示に従い、各々がスキルを発動させる。
先ず最初に災害蜂の放った<麻痺針>が亀竜の左後ろ脚に当たり貫通。
次いでポルの操る細い糸が右後ろ脚を刻み、そこへ虎鐵が追い打ちの一太刀を浴びせた。
アタッカー組もしっかり連携が取れてるみたいだな。
にしても……災害蜂。
やっぱ、あいつやべえな。
この太い脚を貫通させる針ってなんだよ。
チートか?
両後ろ脚に攻撃を受けた亀竜はたまらず膝を落とす。
「ぺオ姉、パワーブロー!」
「はい! いきます!」
そこへ、ぺオニアは右拳を大きく振りかぶり、甲羅を目掛けて勢いよく振り下ろした。
するとピシッという乾いた音と共にヒビが入る。
……ぺオニアの拳に。
「あ、痛あ!」
「ぺオ姉、何してんの!?」
「ごめんなさーい!」
あの子、レベル1に戻ったの忘れてたな? 装備もただの魔羊皮の手袋だし、全力で振り抜きゃそうなるわ。
俺はぺオニアに駆け寄り、治癒のポーションを渡す。
ぺオニアは「ありがとうございます」とお礼を言って栓を抜き、中身を飲み終わった後、戦闘に戻っていった。
その後も少し離れた位置からカトルたちパーティの観戦していると、ミャオ・リヴィ・ヘスス・ヴィクトリアの四人が近付いてきて、俺の両隣に立つ。
「カトルたちは強いであるな」
「そうだな。それに、まだまだ強くなるだろうよ」
なんせ今のカトルたちのパーティは新装備であるアダマント装備をしている奴は一人も居ない。
それでもあそこまで亀竜と戦えてる。
ほんと、末恐ろしいわ。
「でも、そうなるとあのパーティにどんなヒーラーが入るのかが気になるッスよね」
「……うん。……気になる。」
それは俺も気になっている。
カトルたちに
パーティとは“相性”だ。
相性が良ければ1+1が10にも20にもなる。
しかし、悪ければ1+1は2にしかならない。
以前、カトルたちが決めた奴なら俺は口出しはしないと言ったが……前言撤回するとしよう。
あの子たちの才能を潰すような奴は認められない。
「タスク様」
「ん? どした?」
「ずっと疑問に思っていたのですが、何故、私より先にタスク様方と居たポル様を差し置いて、私をアタッカーとしてパーティに加えたんですの?」
「あー、それはポルだけじゃなく虎鐵にも言える事なんだが、俺の
「本来の戦闘スタイル……ですの?」
俺の“本来の戦闘スタイル”という言葉にヴィクトリアだけじゃなく、隣で話を聞いていたミャオ・リヴィ・ヘススの三人も同時に首を傾げる。
決して今の俺が手を抜いているという訳ではない。
本来とは違う戦い方をしているのには理由がある。
それは今の俺にはどうしようもない。
だから。
「それはどういう――」
「お? 終わったみたいだぞ」
俺はヴィクトリアの言葉を遮り、亀竜を倒し終えてハイタッチをしているカトルたちの方を指さす。
話をはぐらかした事にヴィクトリアはムッとするが、一度ため息を吐いたあと「まあ、いいですわ」とだけ言ってカトルたちの元へと歩いて行った。
もう少し待っていてくれ。
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