百四十二話:船
「いつ見ても……カッコいいッ!!」
屋敷の庭でカトルがアダマント装備である“コマンダーアックス”を頭上に掲げながら叫ぶ。
「ほらほらー、こっちだよー」
『ブゥゥゥン』
その隣ではポルがアダマント装備である“あお”をヒョコヒョコと動かしながら災害蜂と一緒に遊んでいた。
亀竜を狩り続けて、五日。
ぺオニアを除いた九人はレベル70まで上がっていた。
俺たちのスタートがレベル65だったのに対し、フェイがレベル56と少し低かったので五日も掛かってしまったが、無事フェイもレベル70まで上がり、アダマント装備である“ガーディアン”を手に持ちニコニコとしている。
一応、ペオニアもアダマント装備ができるレベル60までは上げようと思っていたのだが、「まだまだ時間がかかりそうなので、また今度で大丈夫です!」と言っていたので、今回はこの辺りで切り上げることにした。
そう、切り上げることにして帰って来た……のだが。
「タスク兄? だいじょーぶ?」
「なにか悩み事デスか?」
「なんかあったなら聞くよ?」
屋敷の庭で頭を抱えてうんうんと唸っている俺を、フェイ・カトル・ポルの三人が心配そうな表情で見てくる。
「ありがとう。でも、大丈夫だ」
正直に言うと大丈夫ではない。
今にも発狂してしまいそうだ。
何故か? 北の大陸に
どうしてこうなったかと言うと……。
▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼
――遡る事、数時間前。
「大ッ変、申し訳ございませんッ!!」
カウンター越しに受付嬢は、深々と頭を下げる。
「は?」
ポカーンとアホ面を浮かべている俺は、『千年孔』でみんなと別れた後、一人でシャンドラ王都の西部に位置するモルガンナという港街に立ち寄っていた。
ハッと我に返った俺はカウンターの上に置いていた『推薦状』を指さしながら口を開く。
「推薦状、十枚もあるんだけど?」
「はい……」
「それでも船出してくれる人が居ないって?」
「はい……」
……マジかよ。
確かに以前訪れた時、「危険の多い航海をしたがる人は滅多に居ない」とは聞いていた。
だが、しかし、だ! 十枚だぞ、十枚!! それも(別に痛くも痒くもない)情報を各国に渡してまで入手した『推薦状』だぞ? それがただの紙切れに成り果てた。
解せぬ……が、まあ、仕方ない。
「……わかった。無理言ってすまない」
「いいえ。こちらこそ、せっかく推薦状を持って来て頂いたのにお力になれず、申し訳ございませんでした」
「いや、気にしなくていいよ。誰しも命は惜しいもんだ」
「そう仰って頂けると助かります」
「あ、でもさ、もし北の大陸まで俺たちを運んでくれる人が見つかったら、シャンドラ王都にある『侵犯の塔』っていうクランホームまで手紙を出してくれ」
「承りました。その時は必ず」
「よろしく」
▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼
――と、いう訳である。
こんなん頭も抱えたくなるわ。
今まで順調……でもないが、目標に向かってレベル上げやテンコレを頑張ってきたというのに。
俺は屋敷の庭に置いてあるテーブルに肘をつき、ため息を吐く――と、その時、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「タスク様?」
「ため息など吐いてどうしたのだ?」
声がした方を見たカトルは俺の隣でピンッと姿勢を正し、フェイとポルは声のした方へ駆け出す。
俺が後ろを振り向くと仁王立ちのグロースと首を傾げたテアの二人が立っていた。
「なんで二人がここに?」
「わたくしは遊びに来ました!」
「我はテアの付き添いなのだ」
二人はそう答えるとグロースは俺の隣の椅子に腰を下ろし、テアはフェイとポルと一緒に屋敷の中へと入っていく。
「で、本当の要件は何ですか?」
「今日は本当にテアの付き添いで来たのだ」
「それならいいんですけど」
「タスク……お主はもう少し人を信じるという事を覚えた方がいいのだ」
失礼な。
俺は人を信じていない訳ではない。
グロースの言葉を信じていないだけだ。
IDO時代、何度となく苦しめられたからな。
「それで? 先程のため息は一体何なのだ?」
「あー、えっと。それはですね……」
うーん……これ、話して大丈夫なのか? 各国の王からの『推薦状』を無下にした、とかであの埠頭の船乗りたちが刑罰にあったりしないだろうな?
……まあ、グロースに限ってそれはないか。
話すかどうか少し迷った俺だったが、数時間前にモルガンナで船のチャーターを断られたという事を話した。
グロースはバトラが持ってきてくれた紅茶を片手に最後まで話を聞き終えると、ティーカップを置き、口を開く。
「なるほどな」
「ああ、でも、だからって刑罰とかはやめてくださいね」
「わかっておる。心配せずとも罰したりはしないのだ」
うん、予想通りで良かった。
これでもしも「無礼だ、よし殺そう」なんて事を言い出したら、全力で止めなきゃいけないところだったわ。
「しかし船が出せないとなると、どうするのだ? このままでは、北の大陸に渡れないのだろう?」
「そうなんですよね。最初、断られた時はヴノ魔皇帝に頼んで、背中に乗せてって貰おうかとも考えたんですけど」
「ヴノ殿なら乗せていってくれそうではあるのだ……」
「でもよくよく考えてみたら、帰る時に困るので……」
俺とグロースがどうしたものかと頭を捻っていると、隣で話を聞いていたカトルが首を傾げていた。
「どうした?」
「いや、虎鐵兄ってさ、大陸から船も出てない
……確かに。
カトルの言う通り、どの大陸からも
というのも、虎鐵曰く、
「虎鐵とは誰なのだ?」
「うちの新しいメン――」
「某がどうかしたのか?」
俺の言葉を遮りながら、虎鐵がテーブルの下からニュッと現れ、カトルの隣の椅子に腰掛ける。
「お主が虎鐵か?」
「如何にも。そう言うお主は何者だ?」
「我はグロース・フォン・シュロス。この国の王なのだ」
グロースが名乗ると虎鐵はカパッと大口を開け、パクパクとさせながら俺の方を見てくる。
なので俺が一度頷いてやると、虎鐵は顔を真っ青にしながらグロースに向かってスライディング土下座を決めた。
「申し訳ない! 知らなんだとはいえ、ご無礼を!」
「よい。表を上げるのだ」
虎鐵はグロースの言う通りに首から上
そしてその体勢のまま、椅子に座っているグロースの顔をジッと下から見上げていた。
「……タスク」
「はい?」
「こやつは一体、何を……?」
「何も言わないで頂けると助かります」
「わ、わかったのだ」
虎鐵の行動に困惑するグロースをよそに、俺は未だ地面に正座をしている虎鐵を見下ろしながら問う。
「それで、だ。虎鐵、お前どうやって
「無論、船だ」
「船でも色々あるだろ。客船とか商船とか作業船とかさ」
「む? 某の持つ船だ」
なるほど、自分の船か……って、ん!?
「船、持ってんの?」
「うむ」
マジか。
虎鐵ってもしかしてボンボン? それとも
「今、何処に泊めてるんだ?」
「む? 今、持っているぞ?」
虎鐵はそう言うと立ち上がり、庭の少し広くなっている所まで歩いて行く。
そして魔法鞄を懐から取り出したかと思うと、中からニュッと木造の船を一隻取り出した。
開いた口が塞がらない。
マジで持ってたよ、船。
でもさ――。
これ、ボートじゃん。
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