百三十九話:アダマント装備(下)

 


 ぬおおおおお!


 いくら踏ん張っても魔法鞄からフェイのバックラーが取り出せない。


 Q.何故か。

 A.重すぎるから。


 俺はバックラーに装備適性がある。

 その上、適性レベルである70を下回っているので引いても傾けても取り出せない。


 そんな様子をフェイがジーッと見ている。

 するとフェイの隣に居たカトルが心配そうな表情で口を開く。


「ねえ、俺が取り出そうか? タスク兄じゃなんでしょ?」

「…………頼む」


 無理、という部分が強調されて聞こえた。

 俺の手で渡してあげたかった、という俺の心が聞かせた幻聴である。


 くそう。

 何故、俺のレベルは下がってしまったんだ。

 どこのどいつが俺の99レベルを引っこ抜きたがった。

 この世界に俺を連れてきた元凶か? 元凶だな。

 許さん。

 もし会えたなら思いっきり一発ぶん殴ってやろう。

 そして全力でお礼を言ってやる。


 などと考えていると、俺の隣でカトルが魔法鞄からバックラーを取り出す。


――――――――――――――――――――――――

【ガーディアン】(アダマントバックラー)

・製作者:ゼム

・レベル:70~

・<VIT>B+

・<RES>B+

・<MEN>A

・◇:なし

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――


 夕日が反射しキラキラと青く輝くバックラーにフェイ・カトル・ポルの三人は目を奪われていた。

 飾り気は無いが一目見ただけでわかる。

 これは良い物だと。


 それにしても……。


「ガーディアン?」

「ハイッ! 硬いと言えばタスクサンデス。タスクサンと言えば守護者ガーディアンデス!」


 フェイはバックラーに負けず劣らず目を輝かせる。

 そんなフェイに俺は「なるほど」としか言えなかった。


 俺はカトルから魔法鞄を受け取りゴソゴソと漁る。

 そして取り出したのはカトルの短斧だ。


――――――――――――――――――――――――

【コマンダーアックス】(アダマントの短斧)

・製作者:ゼム

・レベル:70~

・<STR>B

・<MEN>A

・<AGI>A

・◇:なし

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――


 斧刃が短く握りが標準サイズという変わった形をしており、攻撃に向いているとは到底思えない。


 しかーし、カトルの場合はこれで良い。

 さすがゼムと言うべきか。


 カトルの場合、斧というより指揮棒に近い使い方をする。

 なので『攻撃が最低限出来て、かつ振り回しやすい短斧』という形をシッカリ捉えて作られているこの斧は最高だ。


「コマンダーアックスか」

「いいでしょ? 俺の好きな『コマンダーバフ』と<斧術>についてる『アックス』を組み合わせただけだけど」

「良い名前だ」

「ほんとッ!?」

「ああ」


 少し安直だが……本当によかった……厨二チックな名前じゃなくて。

 もし中二病患者が付けるみたいな名前だったら俺はゼムを責めている所だったぞ。


 だが、安心するのはまだ早い。

 なんせ心配なのが、まだ後二人も残っている。

 ポルと虎鐵……こいつらだ。


 俺は恐る恐るポルの武器を魔法鞄から取り出す。


――――――――――――――――――――――――

【あお】(アダマントの細糸)

・製作者:ゼム

・レベル:70~

・<MEN>B

・<AGI>A

・<TEC>A

・◇:なし

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――


「あお?」

「青ー!」

「色のか?」

「うん」


 もっと安直なのが出てきた。


 いや、確かに青い糸だけども! もっとなんかあっただろ!? これを長いこと使うんだぞ? これで良いのか?


 あ、良さそうだわ。

 嬉しそうにしてるから、いいや。


 次だ、次。


 俺が魔法鞄を漁りながら虎鐵に視線を向けるとウキウキしながらフンスと鼻を鳴らす。


――――――――――――――――――――――――

【ムラクモ】(アダマントの大太刀)

・製作者:ゼム

・レベル:70~

・<AGI>A

・<DEX>A

・<CRI>B

・◇:なし

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――


 長っ。


 わざわざ魔法鞄を地面に置かないと取り出せなかったそれは、俺の身長より高い全長180~190くらいはありそうな大太刀。


「ムラクモ?」

「如何にも! 格好良いだろう?」


 かっこいい? けど……何でカタカナなんだ? 村雲とか、叢雲とか、漢字の方がザ・刀って感じがするが。

 ……まさか、コイツ。


 嫌な予感がした俺はそれとなく聞いてみる。


「なあ、虎鐵」

「む?」

「ゼムに名前をムラクモにしてくれって伝える時、どうやって伝えたんだ?」

「どう、とは?」

「紙に書いたとか、口で伝えたとか」

「無論、口頭だ」


 あっ、うん。

 この事は黙っておこう。

 最初から虎鐵はカタカナが良かったんだ。

 きっと。


 次はロマーナか。


――――――――――――――――――――――――

【アダマント小針】

・製作者:ゼム

・レベル:70~

・<MEN>A

・<DEX>B+

・<TEC>B+

・◇:なし

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――


 言う事はねえな。

 文句なしの良武器だ。

 

 因みにだが、ロマーナは基本的に針のストックを20本ほど持っている。

 でなければ相手に刺して抜けなかったらそこで武器をロストしたことになるからだ。

 

 もちろん今回も同じ性能の針を20本作って貰っている。

 そのため、魔法鞄の移し替えが面倒くさい。


 最後はぺオニア――ん? あれ? 最後?


「ゼム。お前の武器が入ってないんだが?」

「それなら鍛冶場に置きっぱなしになっておる。出来上がった瞬間、重くなって動かせなくなったんじゃ」

「そういう事ね。なら、ぺオニアに渡し終わった後に取り行くぞ」

「わかったわい」


 俺はワクワクとしているぺオニアに近付き、魔法鞄を漁る。


――――――――――――――――――――――――

【牛頭鬼のグローブ】

《アダマント加工》

・製作者:ゼム

・レベル:60~

・<STR>B+

・<MEN>B+

・<AGI>B+

・◇:なし

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――


 ミャオの寝袋かと思えるくらいデカいグローブは牛頭鬼ミノタウルスベース。

 牛頭鬼ミノタウルスは難易度三~四等級の魔物であるため、ミャオの弓同様、性能と適正レベルが落ちている。


 俺の取り出したグローブを見てボソッとぺオニアが呟く。


「か、かわいくない……」

「可愛くなくて悪かったな」

「あ、いや、ごめんなさい! 悪気は無かったんです! 感謝してます!」

「わかっとるわい。……次は嬢ちゃんが満足いくよう可愛いのを作ってやるから絵でも書いておけ」

「ッ!! 本当ですかッ!?」

「おう」


 次――か。


 次ともなれば難易度十等級まで使える適正90以上の化け物装備になる。

 それがゼムの作る最後の武器だろうな。

 とは言っても、武器のメンテナンスや各属性に対応できる防具の作成に取り掛かってもらうから仕事自体はなくならないけど。


 しかし、まあ……。


「ゼム、良い仕事をしてくれたな。ありがとう」

「なあに、礼なんぞいらんわい。仕事もせんでお前さんから給料をもらう訳にはいかんからな」

 

 ガハハと大口を開けて笑うゼム。

 そんな会話をしつつ俺とゼムは鍛冶場へと向かう。


――――――――――――――――――――――――

【アダマントの大槌】

・製作者:ゼム

・レベル:70~

・<STR>A

・<MEN>A

・<AGI>B

・◇:なし

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――


「これがゼムの武器か?」

「良い武器じゃろ?」

「ああ。これに限らず、全て最高の出来だな」

「じゃろ?」

「そういや俺の大盾は? 入ってなかったんだが」

「あそこじゃ」


 ゼムは鍛冶場の隅に立てかけた青い大盾を指さす。

 オレカルの時同様、模様などの飾り気は無くシンプルな作りだ。


 イイね。

 しかし……しかしだ。


「ゼム、この名前を付けた犯人を吐け」

「……」

「誰だ?」

「……ミャオの嬢ちゃんじゃ」


――――――――――――――――――――――――

【かたいたて】(アダマントの大盾)

・製作者:ゼム

・レベル:70~

・<VIT>A

・<RES>A

・<MEN>B

・◇:なし

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――



 あの猫、シバく。


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