百三十八話:アダマント装備(上)

 


「乾杯!」

『カンパーイ!!』


 俺の音頭で全員がグラスを掲げる。


 あの後、戦神いくさがみマーズから<軽戦士>と<重戦士>のスクロールを入手することができ、無事“テンコレ”を終えた俺たちはお疲れ様パーティーをしていた。

 庭のテーブルにはアンとキラが用意してくれた多彩な料理が並べられており、好きな物をつまめるバイキング方式となっている。


 各々が取り皿に好きな物を盛りつけ食べ始める中、ゼムがニコニコとした表情で俺の方へ近付いてくると話しかけてきた。


「ほれ、出来たぞ」

「お、早かったな」

「ワシを誰じゃと思っとる。世界一の鍛冶師じゃぞ?」

「そうだな。ありがと」


 冗談半分だったのかゼムは少し照れ笑いをしながら俺に魔法鞄を渡してくる。

 俺はそれを受け取り、中身を確認しようと手を突っ込むと――。


「それより、タスク……大丈夫なのか?」

「ん? 大丈夫って何が?」

「何がって、適性レベルじゃ」


 そうだったわ。

 作ったはいいけど俺たちのレベルじゃまだ装備できねえじゃん。


 今回のテンコレで俺・ミャオ・リヴィ・ヘスス・ヴィクトリア・カトル・ポル・ロマーナ・虎鐵の九人が難易度六等級の上限であるレベル65まで上がった。

 しかしアダマント装備の適正レベルは70と、後5足りない。


 だけどその5が問題なんだよな。

 経験値の問題で難易度七等級以上に行かないと上がらない。

 となると、ダンジョン内の魔物の強さが一気に跳ね上がる。


 以前、難易度七等級の『千年孔』が氾濫を起こした時に亀竜と戦ったが、アレはダンジョン外に出て魔素の供給が止まった状態だ。

 それですら一匹倒すのに三十分掛かった。


 どーしようかねえ。


「中に入ってんのって全部適正レベル70?」

「幾つかは違う。アダマントに加えて別の素材を使ったら適正レベルと性能が下がってしもうたんじゃ。すまん」

「謝らなくていい。大体予想してた事だしな」


 難易度七等級ダンジョンのドロップ品であるアダマントに匹敵する素材なんてこの世界の市場に出回っている訳がないからな。


 あったとしても難易度四~五等級が良いとこだろう。

 武器や防具の素材も集めてゼムに渡しておかないとな。


「で? 誰の装備が70以下になったんだ?」

「ミャオとリヴィとぺオニアの分じゃ」

「了解。それじゃあ、装備は出来ないが全員に渡しておくことにするよ」


 俺は魔法鞄を片手にみんなが見える位置へと移動する。

 そして「全員注目!」と大声を出し、視線が集まった所で本題を切り出した。


「ゼムが武器を新調してくれたぞ! まだ殆どの奴がレベル足りなくて装備ねえけど、大事に魔法鞄に仕舞っておいてくれ」


 そう言って一人ずつに新装備を渡していく。


 最初に渡したのはミャオ。


――――――――――――――――――――――――

【クレセント】(エルダートレントの弓)

《アダマント加工》

・製作者:ゼム

・レベル:60~

・<MEN>B+

・<AGI>B+

・<DEX>B+

・◇:なし

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――


 オレカル鉱石の時と同じでベースは“エルダートレント”という植物種の魔物の素材を使った弓だ。

 エルダートレントが難易度三~四等級の魔物であるため適正レベルが60に落ちている。


 しかし武器の名前が“クレセント”って……。


「お前、この名前……」

「カッコいいッスよね! アタシが悩んでたらリヴィが教えてくれたんッスよ」

「そ、そうか。因みに意味は知ってんのか?」

「知らねッス」


 教えてねーのかよ。

 確かに弓は“三日月状”だけども……。

 まあ、本人が気に入ってるならいいか。


 次はリヴィだ。


――――――――――――――――――――――――

【フェアリーテイル】(魔羊の本)

《アダマント加工》

・製作者:ゼム

・レベル:50~

・<INT>B

・<MEN>B

・<AGI>B

・◇:なし

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――


 ミャオの弓と同じくこちらも“魔羊”という魔物の素材をベースとした本型の武器だ。

 魔羊は難易度一~二等級の魔物なので適正レベルと性能が落ちている。


「リヴィも結局、名前を付けたんだな」

「……はい。……ミャオに誘われて。」

「フェアリーテイル。おとぎ話か。好きなのか?」

「……小さい頃からずっと好き。」

「そうか」


 なんというかリヴィらしい名前だな。

 それはそうと、問題は此処からだな……。


 俺は次に渡す予定のヴィクトリアに近付いて忠告する。


「先に言っとくが、滅茶苦茶から落とすなよ」


 ヴィクトリアは疑問符を浮かべながらも「畏まりましたわ」と頷く。

 俺が指輪を親指と人差し指で摘まんで渡そうとすると、ヴィクトリアは片手を前に出し手のひらを上に向けた。


 そこへ俺が指輪を落とすと、ヴィクトリアはあまりの重さにもう片方の手で指輪を持つ手を支える。

 

「ッ!? この重さは何なんですの!? タスク様は軽々と持っていましたわよね?」

「俺にはその指輪を装備する適正が無いからな。簡単に説明すると――」


 武器や防具には適正レベルというものの他に、装備できるか否かという装備適性が存在する。


 装備できない職の俺が装備レベルを下回っていても重さは感じない。

 しかし装備適性のある者が適正レベルを下回っていれば重すぎて扱えない、という訳だ。


 じゃあ重さも感じないのだから適性の無い奴が強武器を振りまわせば良いじゃないか、と思うだろう。

 だがそれは出来ない――というかやる意味がない。

 

 例えば、俺が装備適性の無い最強の剣を持って相手を切ってもダメージは固定の1。

 しかし、最強の剣に装備適性のある虎鐵が相手を斬ればダメージは相当なものになる。


「――という訳だ」

「なるほどですわね。というかタスク様」

「なんだ?」

「重すぎて魔法鞄に仕舞えませんわ」

「じゃあ、魔法鞄の口を開いといてくれ。俺が入れる」

「畏まりましたわ」


 と、その前に<鑑定>。


――――――――――――――――――――――――

【アダマントの指輪】

・製作者:ゼム

・レベル:70~

・<STR>A

・<INT>B

・<AGI>A

・◇:なし

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――


 他の素材を使用していないアダマント製の指輪。

 適正は70で<STR>と<AGI>がA、<INT>がBか。

 ミャオの弓は全てB+、リヴィの本が全てBだったのと比べると最高の出来だな。


 やるなあ、ゼム。

 今のところ間違いなくこの世界最強の指輪だろう。


 俺はヴィクトリアの魔法鞄の中に指輪を落とし、ヘススの方へと歩いて行く。

 

「次はヘスス。持てないだろうから魔法鞄を開いてくれ」

「承知した」


――――――――――――――――――――――――

【アダマントの杖】

・製作者:ゼム

・レベル:70~

・<INT>A

・<MEN>B+

・<AGI>B+

・◇:なし

・◇:なし

――――――――――――――――――――――――


 ゼムに渡された魔法鞄から取り出したのは杖型の武器。

 ゼムの拘りなのか、ヘススが頼んだのかはわからんが錫杖みたいな形にアレンジされている。

 性能は<INT>がA、<MEN>と<AGI>がB+とほぼヴィクトリアの指輪と同じくらいの出来だ。


 今までリヴィとヘススは装備レベル1の物をずっと使ってきていた。

 というのも、二人は前の装備に愛着があったのか、装備を新たに作る事を渋っていたのだ。


 しかし長期間に及ぶ説得の甲斐あって新たに作る事を決心してくれた。

 二人にはこれを機に装備が戦いにおいてどれほど大事かを知ってもらうとしよう。


 レベル1装備とレベル70装備の違いに震えろ。

 


 さて次は、フェイの――ん? あれ?


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