百三十七話:闘技場
……長かった。
実に長かった。
というのも今、俺たち十人の目の前に聳え立っているコロッセオに酷似したダンジョン『闘技場』が終われば、遂に“テンコレ”も終わりを迎える。
アダマスドラゴン戦から既に二か月弱。
もう二度とやりたくない。
……が、最上位職になったらまたやんないといけないんだよなあ。
それも今回なんて比じゃないほど過酷なダンジョンを周回する事になる。
うーん、よく考えりゃ最高だな?
若干テンションを上げつつ、俺たちは『闘技場』内部に入り、長い通路を進んでいく。
すると部屋と呼ぶには少し広い空間に出た。
広いとは言っても飾り気などは一切なく人型の石像がポツンと一つ立っているだけ。
そこへ俺たちが足を踏み入れると同時に、どこからか機械チックなアナウンスが聞こえてくる。
「難易度選択が可能です」
「六等級」
「確認中……。難易度六等級……。設定完了致しました。魔方陣へとお進みください」
アナウンスがブツッと切れると石像の前に一つ、そして少し離れた場所にもう一つと二つの魔方陣が現れた。
「アタシらはどっちッスか?」
「石像の前だ。フェイたちはあっちな」
「わかりマシた」
「しっかり
そう、少し離れた位置に出現した魔方陣は観客席に繋がっており、そこから観戦出来る仕様となっている。
なので俺たちのパーティが先に難易度六等級に挑み、その後フェイたちのパーティが難易度五等級に挑む予定だ。
どちらの難易度も俺たちだけでもよかったのだが、カトルたちも戦ってみたいとの事だったので難易度五等級ならと譲ってあげた。
「ハイ! 頑張ってくだサイ!」
「しっかり見とく! 頑張ってね!」
「みんながんばってねー!」
「負けるでないぞ」
「頑張るのである」
それぞれ応援の言葉を残し転移していくのを見送った後、俺は真剣な面持ちでミャオ・リヴィ・ヴィクトリア・ロマーナの方へと向き直った。
「転移してすぐボス戦だ。準備は良いか?」
「いつでもいけるッス」
「……大丈夫。」
「もちろんですわ」
「ああ」
「うし。それじゃあ、イケメン狩りに行くかあ」
俺たちはそれぞれ武器を手に持ち、魔方陣の上に乗る。
すると一瞬で視界が切り替わり――そこは円形アリーナのド真ん中だった。
周囲は十メートルほどの壁に囲まれており、その上に階段型の観客席がある。
そこには先に転移していたフェイ・カトル・ポル・虎鐵・へススの姿があり、こちらに向け手を振っていた。
……と、その時、銅鑼の音が響き渡る。
それと同時に俺たちの目の前に、少し暗い栗色の髪に金色の瞳をもった男が姿を現した。
その男はイケメンと呼ぶに相応しい整った顔立ちをしており、如何にも女子ウケしそうな細マッチョな体には軽鎧とマントを纏っている。
加えて腰には柄頭に宝石のついた剣をぶら下げていてオシャレポイントも高い。
IDO時代、女性プレイヤーからの人気も多かったこのいけ好かない男こそ『闘技場』のボス『
マーズは腰に付けた剣を抜き放ち、フッと微笑む。
心なしか背景にキラキラとしたエフェクトまで見えた。
「か、かっこいいッス」
「……そだね。」
そんな事を言いながらジッとマーズの顔を見ている二人の隣で、俺は『フォース・オブ・オーバーデス』を全力で発動させる。
決して妬んでいる訳ではない。
女子共が魅了されていたのを防いだだけだ。
かっこよすぎて攻撃できないとか言われたら困る。
しかし……まあ……イケメンは悪だよな?
俺はいつもの如く『スピードランページ』を発動させて一気に距離を詰めにかかった。
そこへマーズはドンピシャで上段から剣を振り下ろしてくる。
知ってるぞ? マーズ。
止まるんだろ? それ。
俺は『スピードランページ』をキャンセルしてマーズの目の前で足を止める。
それと同時にマーズも振り下ろしていた剣をビタッと止めた。
次は……こっちだな?
俺は自身の左側に向けて大盾を構える。
すると、構えた大盾に吸い込まれるかのようにマーズは剣を振り金属音を響かせた。
で、次はこっち。
マーズは剣が弾かれたそのままの勢いでクルッと体を回転させ、先程とは逆から横薙いでくる。
が、既に俺は逆側に大盾を構えており――ドンピシャのタイミングで『シールドバッシュ』を発動させ、その横薙ぎをパリィした。
「
俺の合図に併せてヴィクトリアが『マグナム・メドゥラ』を発動させた右拳をマーズの背後から叩き込んだ。
刹那、ヴィクトリアは……いや、追撃をしようと弓を構えていたミャオまでもが驚いたような表情を浮かべ攻撃の手を止める。
何故なら、クリーンヒットしたにも拘らずマーズは平気な顔をしたままビクともしなかったからだ。
俺はマーズの剣撃を弾きながら二人に忠告する。
「大丈夫、これは
そう、これはバグじゃないかと思える一種の仕様だ。
先程、マーズはIDO時代に女性プレイヤーからの人気“
“
それは、どこ層なのか。
――運営陣である。
所謂、運営の推しキャラという奴だ。
故に、派手に吹っ飛んだり、膝を付いたり、倒れたり、といったイケメンにそぐわないモーションが仕様上設定されていない。
それだけならまだ許せる。
それだけ……ならな。
というのも、他にマーズが運営の贔屓を受けている事が
それは――。
一つ、早すぎる。
攻撃がという訳ではなく、リキャストタイムの空けるまでの時間が、だ。
本当に設定してるのかと疑いたくなるほど同じスキルを使用してくるまでの間隔が短い。
二つ、硬すぎる。
人型、それも剣士のくせしてHP・<VIT>・<RES>・<MEN>の値が異常に高い。
下手すればレイドボス並みに硬いんじゃなかろうか。
三つ、『闘技場』の設定。
実装当初は当時最高難易度だった難易度九等級のダンジョンだった。
しかし運営は何を思ったのか、わざわざ<軽戦士>と<重戦士>のドロップするダンジョンを削除し、難易度選択可能というオプションを付けてこの『闘技場』でドロップするように設定した。
四つ、こいつの落とす“マーズ”という魔核。
◆マーズ:<STR>・<DEX>の大上昇。
魔核スキル『不撓不屈』:パッシブスキル:状態異常『即死』を高確立で無効化。
これである。
頭オカしいだろ? 高難易度ダンジョンで『即死』持ちなんて珍しくもなんともない。
それを高確率で無効化するパッシブを付けられる。
と、いった風だ。
まあ、魔核に関しては難易度九等級以上に挑まないとドロップしないんだが……当時のプレイヤーは魔核“マーズ”を入手しようとこぞって挑んだ。
何を隠そう、俺もその内の一人である。
そして何度も死んだ。
けれど何度も挑んだ。
だからこそ――もう慣れた。
マーズの攻撃は身をもって食らい、パターンが全て頭に叩き込まれている。
俺はマーズの振り下ろす剣を『シールドバッシュ』でパリィした。
やはりというべきかマーズは体勢を崩すことは無い。
しかしミャオとヴィクトリアが攻撃を当てる隙くらいなら作ることが出来る。
それだけで十分……というか幾度となく戦い続けて導き出した正攻法がコレだ。
こうやってチマチマ削っていけば、いずれ倒せる。
下手に何かを狙えば逆に殺されるからな。
そして――戦い続けて二十分が経とうとした頃、マーズは剣を鞘に納めてフッと微笑むと肩から霧散し始め、その場には光の魔石だけがコトリと落ちた。
「死に際までカッコいいッス」
「……そうだね。」
やっぱ、マーズ嫌いだわ。
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