百三十一話:進化

 


 俺は頭をフル回転させる。


 今、パッと思いつくのは四択。


 1.背中のみんなが気絶しておらず、このまま倒してくれる事を信じる。

 2.攻撃を防ぎつつ、ヘススを起こしてアタッカー組と合流させる。

 3.とりあえず瀕死だろうし俺が攻撃してみる。

 4.祈る。


 まず1は無いな。

 『サウンドブレス』は全体攻撃に加えて回避はを除いて出来ない。

 例外がありえない今、ヘススより<RES抵抗力>の低いみんなは夢の中だろう。


 次に2だが無しではない。

 だが、合流時に後脚を登る必要があるため暴れている今は危険すぎる。

 俺を回復してもらうために起こしてもいいけど『サウンドブレス』が一発だけとも限らない。

 それなら今の場所で気絶させといた方が良いだろう。


 続いて3はアリ寄りのアリ。

 しかし、瀕死とはいえど俺の火力では倒すまでに時間が掛かりすぎる。

 防御がおろそかになれば俺が殺されるかもしない。

 かと言ってこのままじゃジリ貧なのも事実だ。


 最後に4。

 神は死んだ。


 うーん。

 3が一番無難かなあ。


 などと考えていると俺の視界の隅で何かが動いているのが見えた。


 あれは……ポルの破壊蜂? 何か抱えているように見えるが……人か?


 アダマスドラゴンの上空を飛ぶ破壊蜂は俺の方へと徐々に近付いてくる。

 その六本の肢にはぐったりとしたポルが抱えられているように見えた。


 やっぱりアタッカー組も『サウンドブレス』を食らったみたいだな。

 まあ、破壊蜂が無事だったならみんなを……いや、待て。


 何故、破壊蜂がポルを


 破壊蜂は体長一メートルくらいの蜂で、人を抱えて飛べるほどの<STR>は無い。

 ミャオくらいなら抱えられるだろうがポルは無理だ。


 不思議に思った俺はこちらへ飛んでくる破壊蜂の方をもう一度見る。

 すると徐々に近付いて来ていた破壊蜂はハッキリと見えるほどの距離まで来ていた。


 “ソレ”を見た瞬間、俺は完全に意識を持っていかれアダマスドラゴンの攻撃をモロに食らう。

 吹っ飛ばされた俺は地面を何度かバウンドして止まった後、勢いよく顔を上げ再度“ソレ”を見た。


 “ソレ”――とはポルを六本の肢で抱えた破壊蜂もの。

 体色は相変わらず黒に黄色のストライプ柄だが、以前の破壊蜂とは違う点が三つある。


 まず一つ目は体の大きさ。

 一メートル無かったはずの体長が、今では俺と同じくらいの大きさになっている。


 そして二つ目は翅。

 模様の無い四枚の翅が、黒い髑髏の模様が付いた八枚の翅になっている。


 最後に三つ目は……強さ。

 間違いなく強くなっている。


 何故、わかるのか。

 体からを撒き散らしているからだ。


「お前……破壊蜂か?」


 羽音を立てながら俺の隣を飛ぶ破壊蜂に問いかける。

 すると、破壊蜂だったものは首を傾げた。 


 破壊蜂じゃないって事か? なんだコイツ?


 俺はこの魔物を知らない。

 IDO時代の破壊蜂の進化後は知っている。

 だが、コイツは俺の知っている進化後の姿ではない。


壊滅蜂デストラクトビーじゃないよな?」


 俺の問いに、破壊蜂だったものはコクリと頷く。


 じゃあ、何だ? わっかんねえ。

 っと――今はそれどころじゃねえな。


 俺は突進してくるアダマスドラゴンの頭を『パワーバッシュ』でパリィした。

 隣に居た破壊蜂だったものはポルを抱えたまま上空へと飛び上がり回避する。


「蜂!」


 吹っ飛ばされた後、立ち上がりながら俺は破壊蜂だったものの方を見てを呼ぶ。

 すると八枚の翅を振動させながら、俺の隣まで飛んできた。


「コイツを倒す。手を貸してくれ」


 俺がそう言うと、破壊蜂だったものはコクリと頷き飛び上がる。


 アイツが何かは後回しだ。

 とりあえず死にかけのアダマスドラゴンを倒す。


 俺は蜂に敵意ヘイトが向かないように『フォース・オブ・オーバーデス』を発動させ、栓を抜いた治癒ポーションを口に咥える。

 そして首をクイっと上に傾け中身を飲みつつ、飛んできたブレスに合わせて『グランドプロテクシールド』・『オーバーガード』・『イージス』・『インパクト』を発動させた。


 アダマスドラゴンは俺を叩き潰そうと首を真上へと伸ばす。

 と、そこへ破壊蜂だったものは飛んで近付き顔を目がけて紫色の粉? 霧? を噴射した。


 粉? 霧? が直撃したアダマスドラゴンの首が徐々に変色していく。

 同時に吐き散らしていたブレスは止まり、口からはブクブクと泡を吐き出していた。


 毒……か? だとすれば、アダマスドラゴンの<MEN異常耐性>を貫通するってヤバすぎるぞ。

 俺たちに害は無いんだろうな?


 そんな事を思っていると、破壊蜂だったものがカチカチと顎を鳴らす。

 すると、空気中を漂っていた粉?霧?は全てフッとかき消えた。


 刹那、アダマスドラゴンの脚がガクンと落ちる。

 大きな音を立てながら腹が地面に付き、真上に伸ばしていた首がゆっくりと横たわった。


 毒は毒でも麻痺毒かよ。

 エグいな。


 俺は倒れているアダマスドラゴンを横目に破壊蜂だったものに話しかける。


「背中に居るやつらを運んでこれるか?」


 破壊蜂だったものは頷くと、ポルを俺の隣に寝かせアダマスドラゴンの背中の方へと飛んで行った。

 その間に俺はヘススを起こそうと思い、ポルを抱えてヘススの倒れている方へと近付く。


 肩を少し揺さぶっても起きなかったので、何度か頬をペチペチと叩いているとガバッと上体を起こした。

 ヘススは俺の顔を見た後、キョロキョロと辺りを見渡す。


「アダマスドラゴンは主が?」


 俺は首を横に振り、アダマスドラゴンの背中の方へと視線を向ける。

 すると気絶したミャオとリヴィを抱えた破壊蜂だったものがこちらへ向かって飛んできていた。


「あれはポルの破壊蜂であるか?」

「そうだが、そうじゃない」

「主、声が出ていないのである」

「お前の耳が聞こえてねえんだよ」


 俺は自分の耳を指さし、耳が聞こえてない事をジェスチャーで示す。

 うまく伝わったのかヘススは『ハイヒール』を自分に掛け治療していた。


 その後、全員の治療をヘススに任せ破壊蜂だったものと俺は倒れているアダマスドラゴンの頭へと近付いて行く。


「お前、こいつに通る攻撃スキルは使えるか?」


 俺の質問に破壊蜂だったものは頷く。


「うし。じゃあ、トドメはよろしく」


 俺は念のために『フォース・オブ・オーバーデス』を発動させる。

 その隣で破壊蜂だったものが六本の肢をバッと広げた。


 すると破壊蜂だったものの体から先ほどよりも暗い紫色の粉? 霧? が噴出する。

 それが顔に直撃したアダマスドラゴンは苦しみだした。

 白目を剥き、呻き声を上げ、脚をバタつかせる。


 ――数分後。


 アダマスドラゴンは力尽き土の大魔石と素材に姿を変えた。


 残りのHPが一割を切っていたとはいえ、毒だけで削り切るのかよ。

 マジで何なんだコイツ。

 黒い魔素を放ってる感じ、強さは難易度六等級ダンジョンのボス以上なのは間違いないが。

 まあ、何にせよコイツのおかげで誰一人死ぬことなくアダマスドラゴンを倒せた。

 ポルとコイツには感謝しないとな。

 

 俺が土の大魔石と素材を回収していると、治療を終えたであろう全員がこちらへ近付いてくる。


「終わったんッスか?」

「ああ」


 返事をしながら俺は近付いて来た全員の方へと向き直り、頭を下げた。


「危険な目に合わせてすまなかった。フェイがレベル1だった事もサウンドブレスで全員が気絶した事も全部俺のミスだ。攻略を急ぎすぎた。必要な事だったとはいえ、もう少し段階を踏んでここに挑むべきだった」


 言葉の途中で俺の両頬をミャオの肉球がムニュッと挟む。



「タスクさんらしくないッスね」


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