百三十二話:災害蜂
「タスクさんらしくないッスね」
俺は両頬を肉球に挟まれたまま、顔を上げる。
「どういう意味だ?」
「どうもこうも無いッスよ。タスクさんの無茶なんて今に始まった事じゃ無いじゃないッスか」
「ミャオの嬢ちゃんの言う通りじゃな。ワシらは危険を承知でお前さんについて来とるんじゃ。そうでもないと、難易度七等級ダンジョンなんか来るわけないじゃろ」
ゼムは片方の眉を上げ、顎をボリボリと掻きながら言う。
すると、隣でムッとしていたヴィクトリアが口を開いた。
「タスク様は私に難易度十等級のダンジョンまで付き合え、と仰いましたわよね?」
「ああ」
「でしたら、多少危険であっても段階を踏んでいる時間などは無いのではなくて?」
「それは……」
「以前、主が言っていたのである。人種は現役で居られる時間は少ないと」
「……ミャオはもっと短いよ?」
「そうッス。逆にもっとペース上げてもいーくらいッス」
いや、お前、いつも休みたいって駄々捏ねるじゃん。
俺と同じことを考えていたのかゼム・リヴィ・ヴィクトリア・ヘススの四人はミャオの顔を見る。
「な、何ッスか!? ちゃんと頑張るッスよ? これから。と、とにかくッス! 今回、気絶しちゃったのはアタシらがまだ弱っちかっただけッスからタスクさんは気にしなくて良いんッスよ」
気にしない、というのは無理な話だ。
しかしミャオたちの優しさは受け取っておこう。
そんな事を考えていると、今まで五人の後ろで黙っていたフェイとカトルが俺に近付いてくると頭を下げた。
「あの……ごめんなサイ」
「タスク兄、ごめん!」
「え? 何が?」
「自分の事なのにレベル1って忘れてマシた」
「リーダーの俺がしっかりしとかなきゃダメだった!」
「ああ、それは完全に忘れてた俺が悪いからな?」
「「でも……」」
「カトル、フェイ。タスクが
“全て”の部分を強調して言うロマーナの顔を、フェイとカトルは「え」と声を漏らしながらポカンとした表情で見る。
ロマーナはそんな二人の頭の上に手をポンと乗せ、微笑みながら言葉を続けた。
「確かにキミたちにも非はあるかもしれない。だがな? キミたちはまだ子どもで、タスクは大人なんだ。子どもの失敗は大人が背負うものと相場が決まっている。キミたちはシッカリしようとしすぎだ。もう少し甘えることを覚えた方がいい。大人は甘えて貰ったほうが可愛がってあげたくなるものだぞ。なあ? タスク?」
二人に向けた笑顔とは違い、どこか不敵な笑みを浮かべながらロマーナは俺に言う。
「お、おう。そうだな?」
「聞いただろう? だからキミたちはもっと間違えて、たくさん失敗していいんだ」
「わかりマシた」
「わかった」
「ところで、ポルはどこ行ったんだ?」
俺がそう聞くと、カトルとフェイは後ろを向く。
二人の視線の先には、破壊蜂だったもののお腹にしがみ付くポルの姿があった。
「あああああ! カッコいいよー! デスビィくんー! モフモフ感が増してるしー!」
破壊蜂だったものの首毛にグリグリと顔を埋めるポル。
俺たちの向ける視線に気付いたのか、破壊蜂だったものから降りると、ポルはテクテクとこちらへ歩いてきた。
「タスク兄、ちょっといー?」
「何だ?」
「これ見てー?」
そう言って、ポルがステータスウィンドウを見せてくる。
――――――――――――――――――――――――
【災害蜂】
<名前>デスビィ
<レベル>1/100
<種族>虫種
【スキル】
下位:
<飛針><噛付き><飛行>
上位:
<毒針><麻痺針><幻惑針><恐怖針><見敵>
最上位:
<猛毒の花粉><麻痺の花粉><幻惑の花粉><恐怖の花粉>
――――――――――――――――――――――――
予想はしていたがやっぱりあの蜂のステータスか。
こいつ、“災害蜂”って言うんだな。
こんな個体はIDO時代には居なかった。
恐らく、特殊個体……この世界固有の個体だろう。
だとすれば進化条件は何だ? 本来は、レベル上限まで達した状態で進化条件を満たせば、自動的に進化する。
既に破壊蜂のレベルは瞬閃犰狳との戦いでカンストしていたので、とあるアイテムさえ与えれば進化できた。
だが、そのアイテムを俺は持っていないし、現状で入手する事も出来ない。
アダマスドラゴンの背中で一体、何があったんだ……。
気にはなるが……今はとりあえず礼が先だな。
「ポル、
「ん? 私、なんにもしてないよー?」
「そんな事ないぞ。
「うん?」
「何故、首を傾げる?」
「でぃざすたーびー? って、なに?」
「ん? 災害って書いてディザスターって読むんだ」
まあ、別の魔物からとった読み方だが。
「そうなんだ! それじゃあ……デスビィくんじゃなくなっちゃうの……?」
あ、そうか。
ポルには進化先が
だから
どう答えようかと俺が口を噤んでいると、すぐ近くに居たぺオニアが地面に文字を書き始める。
そこにはディザスターの文字が書かれており、デとスの部分に丸が付けられていた。
「これでデスビィさんじゃダメ……ですかね?」
「ううん! デスビィくんがいー! ペオ姉、ありがとー」
「いいえ! 喜んでもらえて良かったです!」
ペオニアとポルの二人と災害蜂について話していると、俺の背後から虎鐵が話しかけてくる。
「タスク」
「ん? どうした?」
「某は近日だけで三度も気絶した」
「お、おう」
「どうすれば良い?」
どうすれば良いかと聞かれても困る。
一回目の気絶は寄生蠕虫の時に白目剥いてた時だろ? あの方法は初の試みなので正直わからん。
多分、精神的なものだから……<
二回目は俺とPVPした時のものだから<
それで今回の『サウンドブレス』は<
うーん……ステータスを上げるのが一番早い。
だが虎鐵はアタッカーだしな。
<
うん、濁そう。
「気合い」
「修行しろ、と言う事だな?」
「そうだな?」
「あい、わかった!」
虎鐵はそう言うと、靴を脱ぎ裸足で細砂の上に立つ。
そしてドドドッと物凄い勢いで走り去っていった。
「虎鐵は何処に行ったんじゃ?」
「修行って言ってたぞ」
「はあ!? 元気な奴じゃな。ところで行く前に言っておったアイテムは手に入ったのか?」
「ああ。アタッカー組が背中のクリスタルを破壊してくれたおかげで追加ドロップもしてたぞ」
俺はインベントリ内からアダマスドラゴンのドロップした素材を二つ取り出す。
それは二メートルほどの青く輝く鉱石――アダマント。
アダマントは例外を除いて、世界で一番硬い鉱石だ。
この大きさのアダマントが二つあれば、全員の武器くらいなら事足りるだろう。
防具までは無理だろうが、それはまた今度来ればいい。
「お前さん……これ……」
「ああ。コレを加工するのがお前の仕事だ、ゼム」
ゼムは嬉しそうに両方の口角を吊り上げ、身震いさせる。
嬉しそうで何よりだ。
しかし、今回アダマスドラゴンと戦ってみてわかった。
今のままじゃ難易度十等級ダンジョンに挑む前に死ぬ。
正直なところ、今回、IDO時代に設定されてなかったにも拘わらず使われたスキルが『サウンドブレス』で助かった。
もし即死系の攻撃だったら今頃、誰かがお陀仏してる。
この問題を解決するには……ステータス値を上げる。
つまるところ、レベル上げと装備の強化だ。
俺はミャオに頼んで走り回っていた虎鐵を連れ戻してもらった後、一箇所に全員を集めた。
「改めて、今回はすまなかった。正直、急ぎすぎた。みんなは多少危険でも良いと言ってくれたが、もう二度と同じ過ちは繰り返さないよう段階は踏む。具体的に言うと、生産職の三人には下準備に励んでもらう。その間、他のメンバーは――」
俺は目を瞑り、大きく深呼吸をした後、言葉を放つ。
「“テンコレ”を行う!」
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