百十七話:瞬閃犰狳
『迸る球獣』に入って数時間。
ダンジョン内に入ってからというもの、タスクさんたちが
ボス部屋の前に立った私たちに向け、タスクさんが声を掛けてくる。
「俺たちは別の道も片付けてくるから、ここで一旦分かれるぞ」
「タスク兄、ありがとう!」
「ありがとー」
「ありがとうございマス」
「ん。あ、フェイ。いつも通りな。お前なら大丈夫だ」
そう言ってタスクさんは私の頭を撫でながら優しく笑いかける。
正直、怖かった。
それも当然だ。
難易度五等級ボスとの戦闘。
大の大人でも、裸足で逃げ出すような相手。
ただでさえ、私はダンジョンボスと戦った経験は少ない。
無いと言っても過言ではないほどに。
でも――タスクさんが「大丈夫」と言ってくれた。
これ以上、信じられる言葉を私は知らない。
「ハイ!頑張りマス!」
「ハハハ。いつも通りだな」
タスクさんは私の頭から手を退かすと、ヘススさんの方に近付いて「頼むな」と一言だけ言って、『迸る球獣』の暗い通路へと消えて行った。
タスクさんたちを見送った後、カトルが気合を入れるように声を上げる。
「よしっ!行こう!頑張るぞッ!」
「「おー!」」
私とポルが片手を挙げてそれに応える。
カトルは頷き、ボス部屋の扉に手を掛けた。
ゴゴゴと扉が音を立てて開く。
先程まで暗かった通路が嘘だったかのように、ボス部屋は明るかった。
そこは大きな半円形状の空間。
剥き出しになった岩肌には煌めく鉱石が星のように鏤められており、それが光源になって部屋全体を照らしている。
その光を背中の鱗で反射しながら、ボス部屋の中央に佇む“ソレ”が居た。
パッと見、
一つは大きさ。
凄く、小さい。
タスクさんの戦っていた
そしてもう一つ。
色が違う。
綺麗な深紅色の
間違いない。
コイツがタスクさんから聞いた『迸る球獣』のボス。
『
私がバックラーを構えようとした時、ドンッと真横から肩を押された。
「……エ?」
同時に背後から鈍い音が響く。
隣に居たカトルとポルが小さく声を漏らしながら振り向いた。
つられて私の視線も自然とそちらに向く。
そこには腹部に
「「ヘス兄!?」」
片膝を付いたヘススさんにカトルとポルが駆け寄る。
ロマーナさんは魔法鞄からポーションを取り出して栓を抜き、ヘススさんの口に突っ込んでいた。
その間にヘススさんの腹部を離れた
え、今の一瞬で移動した?
私には
私だけじゃない。
カトルやポルもそうだ。
ヘススさんしか反応できない相手にどうやって――。
そんなことを考えていると、カトルがスゥっと大きく息を吸い込み、大声で叫んだ。
「うおおおおお!!行くぞ!!フェイ!!構えろ!ポル、デスビィを呼べ!」
まるで鼓舞するかのように叫ぶカトルの声は少し震えていた。
私と同じことを考えていたのだろう。
だけど、カトルは……。
そして、ポルも……。
……私も二人みたいに。
私も二人と同じところに立ちたい!
私は弱いんだ。
そんな私が弱音を吐いてる暇なんて、無い!
私はバックラーを前に構えた。
同時に『コントロールコンバット』と『コマンダーバフ』が私を包む。
「行きマス!!!」
私は駆け出し、部屋の中央に戻った
『ドゴォッ』
刹那、鈍い音と共に私の腹部に痛みが走る。
私が下を見ると、
痛い。
怖い。
速すぎて見えない。
でも、負けられない!
一体、どうすれば勝てる?
考えている内に痛みがスゥーと引いて行く。
ヘススさんの方を横目で見ると、既に立ち上がり私に『ハイヒール』を掛けてくれているようだった。
その姿を見て安堵した半面、私の中に一つの疑問が生まれる。
ヘススさんは何であの時、
『ドゴォッ』
再び、私の腹部に
その時、ヘススさんが口を開いた。
「相手をよく見て、よく聞くのである」
よく見て、よく聞く。
毎朝の修練の時、タスクさんがよく言う言葉に似てる。
そうだ。
タスクさんは言った。
「普段の私なら大丈夫だ」と。
思い出せ!
今まで習った事、全部!
(体を全部使え。余す所無く使え。腕や足だけじゃダメだ)
私は脇を閉め、腕をしっかり固定させ腰を落とす。
(極端に言えば攻撃は逸らすか、弾くか、受け止めるしかない)
私に止めるだけの<
逸らす技量もセンスも無い。
なら答えは一つ、弾くしかない!
(見えないなら聞く。聞こえないなら見る。それでもダメなら――)
私は真っ直ぐに
すると、一瞬のうちに姿を消した。
やっぱり、私には見えないし音も聞こえない。
それでもダメなら、感じろ!
二回も同じところに突っ込まれたんだ。
大丈夫。
出来る。
頑張れ、私。
怖がるな、私。
――ここ!
『ギィィィン』
大きな金属音が響き、腕に激痛が走る。
だが、ドンピシャのタイミングでの『ランページ』が刺さり、パリィが成功した。
腕が痛いけど……私の勝ち!!!
「カトルッ!」
「おおおおお!任せろ!ポル、斬!デスビィ、飛針!ヘス兄、フェイの腕にハイヒール!」
カトルの指示通りのスキルが体勢を崩した
だが、
「硬ーい」
「くそ!もう一回――」
「おいおい、わたしにも攻撃させてくれないか?そのためについて来たというのに」
カトルの言葉を遮り、ロマーナさんが声を上げる。
その手には黒と紫の斑模様をした毒々しい蛙の入った瓶を持っていた。
<錬金術師>スキル『毒抽出』:対象の毒を抽出・利用が可能。
――発動。
ロマーナさんの手のひらの上に透明な雫がフヨフヨと浮く。
それを、魔法鞄から取り出した長い針に付け、起き上がろうとした
<針術>スキル『ペネトレイトニードル』:貫通重視の刺突。
――発動。
ロマーナさんの持つ長い針は、偶然か必然か
敵意が向いてはマズいと思った私はすぐに『ナイトハウル』を発動させる。
起き上がった
え?
動きが見える。
遅くなった?
これなら、合わせられる。
私はリキャストタイム空けの『ランページ』をタイミングよく発動させ、パリィする。
腕が物凄く痛い。
でも……愉しい!
バックラーに弾かれた
すかさずカトルは声を張り上げる。
「総員、装甲の薄い所をよく狙え!ポル、斬!デスビィ、毒針!ロマーナ姉、ペネトレイトニードル!ヘス兄、ハイヒール!」
「ほーい」
「了解だ」
「承知した」
カトルの指示通りに全員が動き出す。
足の関節部や鱗甲板の隙間を狙い、全員がスキルを発動させ、徐々に
数十分後、
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