百十六話:迸る球獣
「綺麗……」
呟くぺオニアは目を輝かせる。
目の前には青々と草花の茂る草原が広がっていた。
「見とれるのもいいが、早く準備するぞ」
「あ、ごめんなさい!ドワルドラでこんな光景は見れないので、つい」
「まあ、草原自体ドワルドラには無いからな」
「そうなんですよー」
俺たちは雑談を交えながら、いつものように野営の準備を始める。
「それで……ダンジョンは何処に?」
「あそこ」
俺が指をさした先、そこには地面にポッカリと口を開けた穴があった。
それを見たぺオニアは少し顔を引き攣らせ問いかけてくる。
「私、入れますかね……?」
そう言うとぺオニアは穴に近付き、覗き込むように中を見ていた。
「大丈夫だ。入口は少し狭いが、中は広い」
心配しなくても中の構造は嫌と言うほど知っている。
というのも、俺はIDO時代からずっと<騎士>職しか使ってない。
だからこそ<軽騎士>の昇格スクロールがドロップする『迸る球獣』は嫌と言うほど周回した。
にしても……ここの魔物、嫌いなんだよなあ。
よし――“アレ”をやろう。
ある事を思い立った俺は全員を一か所に集める。
「今回は高速周回法の一つ“TOP周回”をやるぞ」
「とっぷ?」
「……周回?」
「ああ。そうだ。簡単に説明すると――……」
“TOP周回”とは『Towards One Purpose:一つの目的に向かって』から来たものだ。
この周回法は主にボスドロップ品が必要な際に用いられる方法である。
手順を説明すると――
1.二つ以上のパーティでダンジョン内に入る。
2.ダンジョン内の魔物を全て殲滅する。
3.誰かがダンジョン内に居る時、魔物が新しくポップしないという仕様を逆手に取り、殲滅し終わったダンジョン内で片方のパーティが待機する。
4.もう片方のパーティがボス部屋に入り、ボスを倒す。
5.ボスを倒し終わったパーティは転移魔方陣に乗り、ダンジョンの入り口へと戻る。
6.魔方陣での転移後に新しくボスが湧く。
7.入口へ戻ったパーティは魔物の居ないダンジョン内を爆走する。
8.そのままボス部屋に入り、新しく湧いたボスを倒す。
9.以下は5の手順からの繰り返し。
――というものだ。
この“TOP周回”を実行するには二つ以上のパーティが同じダンジョン内に侵入する必要があるため、最低でも十人以上在籍しているクランしか出来ない。
一度でいいからやってみたかったんだよなあ。
『流レ星』には俺を含めて五人しか居なかったから出来なかった。
だけど、『侵犯の塔』でなら実行可能だ。
ハハハ。
どれだけ周回スピードが速いか楽しみだ。
そんなことを思いながらも全員への説明を終える。
「――以上だ」
「……私たちが待機組?」
「そうだ。フェイたちのパーティが<軽騎士>の昇格スクロールを手に入れるまでの間、ダンジョン内でひたすら待機する。暇だろうが一応、気は抜くなよ?仕様が変わってる可能性もあるからな」
「了解ッス」
「……わかった」
「畏まりましたわ」
「わかりました!」
「お前たちは戦っては走っての繰り返しになる。時間はいくら掛かっても良いから休憩しつつ無理はするな。ミスして死んだら元も子も無いからな」
「ハイ!」
「わかった!」
「ほーい」
「承知した」
「了解だ」
「うし!じゃあ行くか!」
こうして俺たちは『迸る球獣』の内部へと侵入した。
俺とフェイを先頭に、湿った岩肌が剥き出しになっている暗い通路を進む。
すると、背後でミャオが声を上げた。
「来るッスよ!前方から二匹ッス」
「了解。俺たちで二匹ともやる。フェイたちは下がってていいぞ」
「いいんデスか?」
「ああ。少しでも体力を温存しとけ。それに俺たちが倒せばぺオニアのレベル上げにもなるからな」
「わかりマシた」
「あ、形や攻撃方法は殆どボスと一緒だからよく見とけ」
「ハイッ!」
そうこう話していると、前方から足音が聞こえ始める。
同時に俺・ミャオ・リヴィ・ヴィクトリアがそれぞれ構え、リヴィはバフ系スキルを発動させた。
その間も徐々に足音は近くなる。
数秒後、のしのしと重そうな足音を立てながら“そいつ”は姿を現した。
特徴的な背中の鱗甲板は俺たちの持つ照明魔道具に照らされ深紅に輝く。
そして“そいつ”はこちらの存在に気付き、鋭い鉤爪の付いた四本の足で威嚇するように地面を抉った。
『迸る球獣』に棲まう体長一メートルほどの魔物――『
「行くぞ!」
俺は二匹の
それと同時にミャオとヴィクトリアは
すると、
それを俺は大盾を横に傾け、腰を落として真正面から受け止めた。
『ギィィィン』
金属同士が擦れ合うような音がダンジョン内に響く。
あ、やべ。
癖で真正面から受け止めちまった。
コレをフェイがボス戦でやったらマズいな。
後で言っとこ。
そのタイミングを狙っていたかのようにヴィクトリアは一気に距離を詰め『イラ・メドゥラ』を発動させた右拳を横っ腹に叩き込む。
が、鎧のような鱗甲板は貫通重視の『イラ・メドゥラ』ですら貫けず、拳は弾かれた。
「硬すぎますわ」
「アタシに任せるッス!」
そう言ってミャオは『ペネトレイトショット』を発動させた貫通重視の矢を放つ。
すると、幾重にも重なった帯甲の隙間に一本の矢が刺さった。
お、『ジールケイト』か。
いいね。
ちゃんと視えてる。
と、感心していると矢が刺さってない方の
そこに遅れて矢が刺さった方が飛んできたので、タイミングを計り『ランページ』でパリィした。
すると、パリィした方だけが空中で体をバッと広げ着地に備える。
咄嗟に体を広げた方の
流石だな。
良い反応速度をしてる。
ミャオもヴィクトリアも腕を上げたもんだ。
ヴィクトリアの一撃をモロに食らった
そして――
「ミャオ様」
「わかってるッスよ!」
――浮きあがった
タイミングを計って放たれた威力重視の矢は
そのまま地面に落ちた
というのも、腹に刺さった矢が邪魔で短い足が地面についていないのだ。
「チェックメイトですわ」
「終わりッスよ」
二人はニヤァと不敵な笑みを浮かべ、藻掻いている
その間、俺はもう一匹が飛んでくるのを受け流しながら口を開く。
「フェイ!」
「ハイ?」
「ボスの攻撃は重いから、さっきの俺みたいに受け止めるなよ。死ぬぞ」
「わ、わかりマシた!」
「あと、次パリィするから良く見とけ」
そう言っている間に
タイミングは当たる寸前のコンマ数秒。
「……ココ!」
俺が『ランページ』を発動させると、金属音と共に
「わかったか?」
「もう一回、良いデスか?」
「いいぞ。ヴィクトリアとミャオは休憩しててくれ」
「了解ッス」
「畏まりましたわ」
「……え?……私は?」
「ダメ。俺にバフを掛け続けて」
「…………わかった。」
少し不服そうな表情をしながらもリヴィは俺にバフを掛け続ける。
そして何度か『ランページ』でパリィするタイミングを教えた後、ミャオとヴィクトリアの手によって
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