百七話:尋問



 クラートラムの城の前。

 すっかり日は落ち、辺りは薄暗く月の光のみが照らしていた。


「――で、私を連れてきた、と?」


 ラシュムは「はあ」と深いため息を吐く。

 というのも俺はリヴィの提案に乗り、一度ベルアナ魔帝都の城まで戻ってから、ラシュム連れて帝都クラートラムに来ていた。

 一応、レオンの目には布を巻き、口に猿轡を付けている。


「ん。頼める?」

「出来る事には出来ますが、質疑応答が必須です」

「わかった」


 俺がレオンに「抵抗すれば殺さない程度で痛つける」と耳元で脅しながら『フォース・オーバーデス』を発動させ、猿轡を外した。

 それを確認したラシュムは口を開く。


「では、質問です。貴方は命のストックを持っているのですか?」

「……そうだ」

「なるほど。虚偽は無しですか。では、次です。いくつ持っていますか?」

「一つ」

「虚偽。そう言えばヴィクトリアが貴方を殺せなくなると思っての言葉ですかね。本当は幾つ持っていますか?」

「五百個」

「ほぼ虚偽は無しですか。少し曇っているあたり、実際の数字を覚えていないのでしょう。では、次です――……」


 おおよそ五百個って事は、五百回以上殺さないとレオンは死なないって事か?

 そのスキル……代償は許容できないが、少し羨ましいな。

 死んだら生き返る事のないこの世界で、知識の無い高難易度ダンジョンに潜るは一種の自殺行為といっても過言ではない。

 しかし、レオンのスキルを持っていれば、たとえ初見だったとしても気軽にダンジョンに挑んでみる事が可能になる。

 代償なく使えるスキルは――いや、さすがに無いだろうし、あったらあったでこの世界がつまらないモノになってしまう。

 俺は今の普通に死ぬ世界で、死ぬかもしれないダンジョンに挑むのが愉しいんだ。

 もし見つけたとしても使うのはやめよう。

 死ねなくなっても困る。


「では次で最後です。何故、魔人種を滅ぼそうとしていたのですか?」

「……島流しにしたからだ」

「虚偽はなしです」


 それを聞いたヴノとコリントは笑い出す。


「カカカ。タスクの言う通り、本当に“逆恨み”だったな」

「オホホ。わらわ達を恨んでるなら直接来ればよかったじゃない?」

「お前たちみたいな化け物に勝てる訳ないだろう」


 その通りだと思うぞ、本当に。

 とはいえ、有象無象を集めた所で勝てねえだろ。

 常識的に考えて。

 あ、そうだ。


「俺からも一つあるんだが」

「なんだ」

「ステータス見せろ」

「だ、ダメだ。スキルを知られたら私は死ぬんだ」

「は?お前、原理を知られたら死ぬって言ってなかったか?」

「正しくはスキルだ」


 俺はラシュムの方を向くと、首を横に振っていた。

 虚偽――か。


「いいから見せろ。見せなかった場合、数百年間毎日コリントに拷問してもらう。もちろん自害もさせない」

「オホホ。喜んで引き受けるわよ」

「ス、ステータス」


――――――――――――――――――――――――

<名前>レオン・ハートヴィル

<レベル>42/50

<種族>真祖

<性別>男

<職業>遊び人


<STR>D+:0

<VIT>D:0

<INT>B:200

<RES>D:0

<MEN>B-:200

<AGI>D:0

<DEX>D-:0

<CRI>D-:0

<TEC>D-:0

<LUK>D-:0

残りポイント:20


【スキル】

下位:<遊び人><刀術>

上位:<血操術><魅了>

最上位:<血の契約/解除☆>

――――――――――――――――――――――――


 お、おう。

 こいつ<遊び人>だったのかよ。

 そりゃ、ヴノやコリントには逆立ちしても勝てないわな。

 スキルは悪くないんだが、ツッコみ所が多すぎる。

 一つ一つ聞いて行くか。

 

 ん?

 血の契約……解除?

 

「おい」

「今度はなんだ」

「この<血の契約/解除☆>の詳細を開け」

「……」

「おい」

「わ、わかった」


――――――――――――――――――――――――

 <血の契約/解除☆>

 ・『契約』:対象を吸血鬼族に変え、眷属とする。

 ・『操作』:眷属を操作する事が出来る。

 ・『洗脳』:眷属の思想を書き換える事が出来る。

 ・『命令』:眷属に命令を強制する事が出来る。

 ・『監視』:眷属の死で見聞きした記憶の獲得。

 ・『放養』:眷属の自由意思で行動が出来る。

 ・『解除』:眷属とした者の解放。

――――――――――――――――――――――――


 またツッコみ所が多すぎる物が出た。


 まず『契約』だが、吸血鬼族に変えた所でステータス少ししか変わらないのにする必要あるのか?

 寿命を延ばすくらいしかメリットがない気がするが。

 わからん。

 

 次いで『監視』だが、眷属の死で見聞きした記憶の獲得だと?

 自分が情報を得るために誰かを殺してたって事だよな。

 本当に胸糞悪い事するなあ、こいつ。


 そして最後に『解除』だが、そりゃ出来るよな。

 でもコレ『契約』の時に吸血鬼族化した人は元の種族に戻るのか?

 うーん、物は試しだ。


「おい」

「何度もなんだ」

「そこに縛ってる男を『解除』しろ」

「……どれだ?目が見えんからわからん」

「虚偽。男の居る場所はわかっている筈です」

「……ちっ」


 こいつ。

 まだ、反抗する気があるのか。

 

 レオンは縛られ気絶している男に向け『解除』を発動させると、男は薄っすらと発光しだし、その光がパチンと弾ける。

 

 が、外見に変化はない。


「『解除』したのか?」

「ああ。したぞ」

「虚偽は無いようです」

「ん?てことは、あの男は元から吸血鬼族だったのか?」

「違う。『解除』しても元の種族には戻らない」

「虚偽は無しです……」

「そうか」


 俺は横目でランパートたちの方に視線を移す。

 そこには目を覚ましたエリザベートと話しているヴィクトリア、ランパート、クラリスの姿があった。

 今はそっとしておこう。

 家族水入らずの話でもしてるのだろうしな。


 俺は視線をレオンに戻し、質問を続ける。


「おい」

「またか。一遍に聞いてくれ」

「んじゃ、お前<刀術>持ってるのに何で刀を使ってないんだ?」

「“カタナ”ってなんだ?」


 は?

 何を言ってんだこいつ。

 <刀術>で使うだろ、刀。

 ……!?

 もしかして――。


「ラシュム。刀って知ってるか?」

「いいえ。知りません」


 嘘だろ。

 この世界には刀が無いのか?

 そうなら<刀術>が完全に死にスキルじゃねえか。


 でも、なんで刀が無いんだ?

 素材……は採れるはず。

 ダンジョンでだが。

 うーん、考えてもわからん。


「次。お前<魅了>をどこで手に入れた?」

「は?どういう意味だ」

「どこかで、例えばスクロールとかで覚えた物じゃないのか?」

「……覚えていないが、小さい頃に何か読んだ覚えがある」


 俺は凄い勢いでラシュムの方を向く。


「虚偽は無しです」


 マジでか。

 って事はだ、IDO時代は魔物の固有スキルだったスキルも手に入る可能性があるって事だよな。

 確定はしてないけど。


 それでも、テンション上がって来た。

 

「レオン。良いことを教えてくれた。お前のした事は許してねえけど感謝する。ありがとな」



 その後も色々とレオンを尋問していると朝になりそうだったので、その日は帝都クラートラムの城で一夜を明かす事になった。

 

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