百六話:VS真祖

 


 重い扉がゴゴゴと音を立て開く。

 その先に続いていた謁見の間は廃墟と呼べるような物だった。

 ボロボロになった黒いカーテンが窓を遮り、地面は赤黒く染まっている。


 俺たちが謁見の間に入ると、最奥部ある椅子に腰かけた人物が口を開く。


「ようこそ。我が居城へ。私はレオン・ハートヴィル。吸血鬼の王、真祖だ」


 肩くらいの銀髪に白銀の瞳を持つ男。

 その男は黒い服に黒いマントを羽織っており、王座に肩肘をつきながらこちらを見ていた。


「これは、ご丁寧にどうも。俺は――」

「『侵犯の塔』だろう?知っているよ。私の眷属が見聞きしていたからな」


 アテが外れた。

 通信手段は“眷属”か。

 まあ、いいや。

 別の方法があるかもしれないし。


「それなら話は早いな。潰させてもらうぞ?」


 俺が大盾を取り出し、全員が武器を構えた。

 すると、レオンは手を前に出し制止する。


「まあ、待て。お前たち、私と共に魔人種共を滅ぼさないか?」

「断る」

「まあ、聞け。おかしいとは思わないか?この世の摂理は『生きとし生ける人種・獣人種・亜人種・魔人種は皆平等』のはずだ」

「そうだな」

「それなのに魔人種共は私を忌避し、拒絶し、挙句捕らえられ、島流しにされた」

「そうだな」

「不当な扱いを受けた事への報復は必要だろう?」

「言い残すことはそれだけか?」

「なッ!?」


 俺は『スピードランページ』で一気に距離を詰める。

 そしてレオンの胸倉を掴み、謁見の間の中央にぶん投げた。


「お前さ、自分がした事を棚に上げて何言ってんだ?<魅了>で人の心を弄んでおいて平等?ふざけた事ぬかすな。忌避されて、拒絶されて当然だろうが。殺されなかっただけマシだと思っとけ」


 俺の言葉にレオンはポカンとした後、高笑いする。


「ははははは。お前は何も知らないのだな。私は殺されなかったのではない。魔人種共は私を殺せなかっただけだ。そして、お前たちも――な!」


 レオンは立ち上がり、俺に向かって駆け出してくる。

 同時に俺は『チャレンジハウル』を発動させた。


「何をしようとしても無駄だ!」


 そう言って俺の前で足を止め、レオンの目が光る。


 今、<魅了>を発動したな?

 だが、俺には効かない。

 念のためリヴィには『ガード・バフ』を、ヘススには『アイアンハート』を掛けて貰ってる。


 ……待たせたな。

 もう待機しなくていいぞ。

 <魅了>はリキャストタイム中だ。

 思う存分、暴れてこい。


 俺は大きく息を吸い込み一言。


攻撃開始GO!」

「馬鹿なッ!?何故、効か――グハァ!!」


 驚いた表情を浮かべるレオン。

 その背後から、右横腹を目がけてヴィクトリアが『マグナム・メドゥラ』を発動させた右フックを叩き込んだ。

 ヴィクトリアの一撃をモロに食らったレオンの肋骨あたりからピシッっと乾いた音がすると、そのまま体をくの字に折りながら左方に吹っ飛んでいった。

 謁見の間の壁に叩きつけられ、寄りかかるように立っていたレオンだが、刹那、両太ももからブシュっと勢いよく血が噴き出し両膝を付く。


「……!?」


 何が起こったのか理解できていないレオン。


 それもそのはず。

 背後からヴィクトリアに殴り飛ばされ、壁に叩きつけられたのとほぼ同時に、ミャオが『パワーショット』を発動させ、レオンの太ももを貫いていたのだ。

 

 レオンが両膝をつき、座っている所へとヴィクトリアは駆け出す。

 そして、レオンの顔に目掛けて『イラ・メドゥラ』を発動させた飛び膝蹴りを食らわせた。


 謁見の間に『ゴキィッ』と何かが砕ける音が響く。

 咄嗟にレオンは顔を両手で庇っていた。


「なんて女だ、クソッ!肋骨と腕が折れたぞ」


 右腕をダラりと地面に垂らし、左腕で右横腹を押さえながら、這うようにヴィクトリアから離れる。


「私を覚えていますか?」

「はあ?知らないぞお前なんか」

「では、改めて自己紹介させて頂きますわ。私はヴィクトリア。ヴィクトリア・フォン・ハプスブルクと申します。貴方が殺したヨハン・フォン・ハプスブルクの娘ですわ。そして――」


 ヴィクトリアは『セカン・ステージ』を発動させる。


「――貴方を殺す者ですわ」


 ハッとした顔をしたレオンの右頬にヴィクトリアの『マグナム・メドゥラ』を発動させた左拳が襲う。

 ガードしようにも右腕が折れていたため間に合わず、叩きつけられるように左拳がクリーンヒットしたレオンは何度か地面をバウンドした。


「ヴィクトリア。ストップ」


 俺は大の字に倒れ、ピクピクしているレオンに近付く。

 

「おい」

「……?」

「<魅了>のリキャストタイムは終わっただろ?俺に使え」

「……は?」

「使えと言ったぞ」


 レオンの目が光る。


 よし。

 使ったな。


「いいぞ」

「感謝いたしますわ」


 俺がレオンから離れると、入れ替わりで笑顔のヴィクトリアが近付く。

 そして『ゴツッ、ゴツッ』という鈍い音だけが謁見の間に響き渡った。


 数分後、顔の形が変わるまで殴られたレオンに再度、近付く。

 

「おい」

「……今度は、なんだ」

「お前、本当に真祖か?弱すぎるぞ。再生したりするんじゃなかったのか?」

「死ねば、再生、する」

「へえ。どういう原理だ?」

「それを、知られ、たら、私は、死ぬ」

「そうか。なら今から何度殺しても死ぬ事はねえんだな?」


 『フォース・オブ・オーバーデス』全力発動。

 レオンは体をビクッと肩を上げガタガタと震えだす。

 

「私を、殺せば、そこの、女の、母親が、死ぬぞ」

「あ?どういう事だ?」

「命の、ストックに、している」

「何かのスキルか?」


 小さく頷くレオン。


「てことは、そのスキルで“死ぬ”という事象を他人に肩代わりさせてるって認識で良いのか?」


 再び頷くレオン。


 なるほどね。

 えげつねえなあ、そのスキル。

 しかし、そんなスキルはIDO時代には無かった。

 また星付きか。

 モーハって奴だけでもお腹いっぱいなのにコイツまでとか面白……ゴホン、面倒くさすぎる。

 

 俺がため息をついた瞬間だった――。

 

「まず、一人!、死ね!」


 <血操術>スキル『ブラッドランス』:血液槍での刺突。

 

 ――発動、地面に散らばったレオンの血が、俺の体を目がけて槍状に固まり伸びてきた。

 しかし、俺の体に到達した血の槍に『パリパリ』とヒビが入り砕け散る。


「……は?」


 おお、初めて見た。

 これが<血操術>か。

 ヴィクトリアも覚えてはいるが何故か使えないんだよな。

 でも、残念だな。

 真祖(自称)でこの威力なら、ヴィクトリアは普通に殴った方が威力出るな。


 そうこう考えていると、レオンは口をパクパクさせる。


「何故、刺さら、ない!?」

「硬いから」

「ミスリル、すら、貫く、血の、槍だぞ」

「俺を貫きたいならアダマントくらい貫けるようになって出直せ」


 項垂れるレオンに一応『チャレンジハウル』を発動し、ヴィクトリアの方を向く。


「どうする?ヴィクトリア。こいつ殺したら母親が死ぬらしいぞ」

「聞いていましたわ。ですが、コイツが本当の事を言うとは限りませんので、殺しても宜しいですの?」


 そう言ってヴィクトリアは『マグナム・メドゥラ』を拳に発動させる。


「待つッスよ。アタシはやっぱり反対ッス」

「何故ですの?理由はタスク様からお聞きしたのですわよね?」

「ッ!?知ってたッスか?」

「ええ。あのタイミングで聞いていたのでは、大方の予想くらいつきますわ」

「なら猶更ッスよ。でも、アタシは今回、ヴィクトリアを止めようとは思ってなかったッス」

「では――」

「でも、そのレオンってやつ以外が死ぬかもしれないならダメッス!他に何か方法があるかもしれないッスよ」

「それまで見逃せと仰いますの?」

「それは……」


 ミャオが口を噤む。

 すると、横からリヴィが口を挟む。



「……精霊王様なら本当かどうかわかるんじゃ……?」


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