九十五話:円卓会議(下)
「……その通りだ」
ヘンリーの言葉にその場に居た全員の視線が集まる。
「やはりですか。貴方が此処を訪れた時から貴方の心の色は濁色でしたので、何かあるのではないかと思っていましたが――」
「朕は何も関与していない!この会議の事すら一昨日まで知らなかったんだ!」
「虚偽はないようですね。では質問します。何故、クラートラム帝国はそのような愚行をしたのでしょうか?」
「それは……その……」
ヘンリーは下を向き、黙り込んでしまう。
ラシュムは目が見えない分、威圧感のようなものがあるからなあ。
皇帝とはいえ傀儡政権の駒として使われていたのだ。
こういう舞台にはあまり上がった事がないのだろう。
「ラシュム。俺が代わりに答えてもいいか?」
「ええ。よろしくお願いします」
「クラートラム帝国の皇帝は名目上ヘンリーになってはいるが、その実名ばかりで傀儡政権の駒にされてるんだ。実際にクラートラム帝国を動かしてる奴は別に居る」
「タスクの言っている事は事実ですか?」
「……はい」
「虚偽は無しですか」
「オホホ。随分と頼りの無い皇帝様だこと」
「チッ!蛇女に賛同するのは不本意だが、全くもってその通りだな!!オマエは前王の何を見て育ってきたんだ!?もう少し骨のあるやつだったぞ!?」
少し可哀そうではあるが、事実その通りだな。
それにしても今といい、さっきといい、お前たち本当は凄く気が合うんじゃないのか?
なんで争いあってんだよマジで。
そんなことを思っているとヘンリーが声を荒げ反論する。
「朕は前王、父上を知らない!見た事もない!朕だって、出来る事なら好き勝手やっているアイツをどうにかしたい!既に国はボロボロなんだ。だが、朕だけではどうもできない……。父上も母上も殺された。だから朕は道化を演じ、操り人形のフリをして、絶好の機会を占う毎日を送っていたんだ!それが朕に出来る精一杯の事だったんだ!歯向かえばあの真祖に殺されるからな!!」
占う?
コイツ<
道理でヘススが訪れたタイミングで逃走してた訳だ。
なかなかやるねえ。
俺が関心していると、ヴノとコリントが勢いよく立ち上がった。
二人の表情は赤鬼の様な怒りの色が現れている。
「童。今、真祖と言ったか?」
「それは冗談であっても、許されない事でしてよ」
「冗談でも嘘でもない!!現に今もアイツはクラートラム帝国に居る!アイツは朕が生まれるずっと前、クラートラム帝国に吸血鬼族の女とやって来たと聞いた。アイツは不思議な力で父上や母上を操り、クラートラム帝国を浸食していった。それだけじゃなく一緒に来た吸血鬼族の女は皇女と称してグランツメア王国に刺客として嫁いで行ったと聞いている……」
ヘンリーがチラリとランパートを一瞥する。
それに気付いたランパートはニコニコと笑いながら口を開く。
「僕の事は気にしなくていいよ。全てとまではいかないけど、クラートラム帝国の事情は調べさせてもらったから。……だけど、私怨が無いと言えば嘘になる」
「私怨?」
「うん。グランツメア王国を派手に荒らしてくれた事はいい。僕とクラリスで立て直せるからね。お父様の事もまだ許せる。お父様が自分で決められた事だし。だけどね、一つ。一つだけはどうしても許せないことがあるんだ。それは僕の大切な妹を追放しなくちゃいけなくなった事。これだけはどうしても許せないんだ」
ランパートの静かな殺気はその場を凍り付かせた。
静寂の中、一呼吸おいてランパートが口を開く。
「ヘンリー君」
「……はい」
「ああ。怖がらなくていいよ。聞きたいことがあるだけだから」
「朕にわかる事なら」
「
エリザベート?
初めて聞く名前だな。
だが、まあ、大方の予想はつく。
ヴィクトリアの実母だろうな。
「はい。居ます」
「ありがとう。それと、ごめんね?私事で会議の邪魔をしちゃって」
「それで童よ。本当に今も真祖はクラートラム帝国に居るのだな?」
「はい」
「オホホ。よもやあの時の小僧が生きていたとは驚いたわ。それに今も<
さっきヘンリーが言っていた不思議な力ってのは<
バッドステータスを付与するスキルの一種だが、おかしい点がある。
IDO時代、<
それを真祖が持っているだと?
てことは真祖は魔物なのか。
「他にも真祖について何か知ってるんですか?」
「知っているも何も、数百年前以上前にあの小僧を島流しにしたのはわらわたちよ」
「は?島流し?」
「ええ。昔もあの小僧は人を操ってやりたい放題していたの。だから、わらわやヴノを始め、当時のギュレーン皇帝やベルアナ皇帝とも協力して捕らえ、誰も居ない無人島に放置したわ」
「どこの島ですか?」
「ここよ」
俺が地図を広げると、コリントは東大陸の下にある小島を指さした。
泳いで渡るのは無理な距離だが、船が来ないとも限らない。
「なぜ、こんな場所に?」
「オホホ……。恥ずかしながら、わらわたちでは手に負えなかったのよ。首を落としても死なない。心臓を貫いても死なない。四肢を切り落としても生えてくる。正真正銘の化け物だったわ」
「フンッ!それなら地下深くに埋めてしまえばいいだろう!罪人の始末くらいしっかりしてほしいもんだな!?」
「あら。わらわたちのせいにするつもりかしら?」
「実際、そうだろう!?その真祖とやらを焼くなり、埋めるなり、重石を括り付けて沈めるなりしておけばこんな事にはなっていなかっただろうが!!さっきは偉そうなことを言っておきながら、オマエの方こそ頼りの無い皇帝様だなあ!?」
「なんですって!?」
「まあまあ。今、言い合いをしても後の祭りでしょ?ほら、二人共座って座って」
アザレアは睨み合っていた二人を座らせ、俺に目配せをする。
「続けますね。先ほどヘンリー皇帝が話していた続きになりますが、グランツメア王国の一件が終わった後、真祖はレヴェリア聖国の現教皇と繋がりを持ったようです。そして、教会の権力を使い種族差別を始めたようです」
「ほほう。その根拠は?真祖は
魔物じゃないのかよ!
てことは、星付き……ではないよな。
しかし、魔物固有スキルを持ってるとか羨ましいな。
俺だって欲しい魔物固有スキルがあるのに。
いかん、今はそれどころじゃなかった。
「憶測でしかないのですが、“ただの逆恨み”じゃないですか?」
「真祖が我が輩らを恨んでいると?」
「はい。コリント皇帝から島流しの話を聞いた時に思い浮かんだに過ぎませんが、魔人種にだけ差別が強かったあたり、真祖は魔人種を亡ぼしたがっているのではないかと。だからこそ南大陸に一番近く、魔人種の住民が多かったグランツメア王国が最初に狙われたんだと思います。魔人種が自国の王を殺したとなれば民たちの反応は想像に難くないのですよね」
「なるほど。実際に暗殺したのは吸血鬼族の女に過ぎないが、民たちは魔人種という大きな括りで嫌悪する訳か」
「はい。ですが、グランツメア王国の前王は聡明な方だったようで、ランパート国王に遺言を残していました。そのおかげもあって大きな火種にはなりませんでした。だから真祖は次の火種としてレヴェリア聖国に目を付けたのではないかと。この世界では十歳になると天啓を受けるためにどこの国にも教会がありますよね。教会の信徒たちがグランツメア王国の一件を引き合いに出し、魔人種を虐げ、魔人は魔物だ、悪だ、と説けばアッという間に噂は広まります。人は信じたいものを信じる生き物ですからね」
「そこに我が輩らが宣戦布告した。それに乗じて偽造封書を各国に送ったと」
「あくまで憶測でしかな――あ?」
刹那、地面が揺れ、魔帝都中に轟音が鳴り響いた。
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