九十四話:円卓会議(上)



 ベルアナ魔帝都の城内にある広々とした庭園。

 そこには大きな円形のテーブルが設置され、それを囲むように十人が座っていた。


 東大陸からは三人。

 シャンドラ王国、国王グロース・フォン・シュロス。

 クラートラム帝国、皇帝ヘンリー・フォン・キンスキー。

 グランツメア王国、国王ランパート・フォン・ハプスブルク。

 

 西大陸からは三人。

 ジュラルダラン獣王国、獣王ガンディ・ド・ジュラルダラン。

 ユミルド連合国ドワーフ族、族王クラフト・ド・ノームリア。

 イシュトゥラルト精霊国、精霊王ラシェム・ド・ティシュトリア。


 南大陸からは四人。

 ギュレーン魔帝国、魔皇帝アザレア・ツー・リレイドア。

 ベルアナ魔帝国、魔皇帝グレミー・ツー・マルグロア。

 アッサール魔帝国、魔皇帝コリント・ツー・メデゥーサ。

 マグニゲイル魔帝国、魔皇帝ヴノ・ツー・グリフォール。


 その光景を見た俺は、感動していた。

 IDO時代では絶対に見られない光景が目の前に広がっているのだ。

 なにせゲーム内の彼等はNPCであったため、基本的に外に出ない。

 その面々がこうして一か所に揃っている。

 廃人の俺としては感動しない訳がないだろう。

 ヘンリーとランパートはIDO時代には居なかったが、それでも今の王は彼等だ。

 ウィンスダム共和国の爺共とレヴェリア聖国の教皇が来ていないことが実に悔やまれる。


 俺が恍惚感に浸っているとドンッと勢いよくテーブルが叩かれた。


「よくオレの前にツラ出せたなあ!?えぇ!?蛇女さんよお!?」

「オホホ。土臭い泥臭い。動かないでくださいますかしら?それが嫌なら動けないよう、わらわが息の根を止めて差し上げてもよろしくてよ?」


 マジだった。

 なんでこいつらこんなに仲悪いの?

 IDO時代はめっちゃ仲良かっただろ。


「待った待った。コリントさんもクラフト族王も抑えて。まず話をしようよ」

「チィッ!」

「アザレア。わらわは忙しい所、わざわざ来てあげているの。早く済ませて頂戴」

「わかってるよ。じゃあ、タスク君。進行よろしくねっ!」


 んんんんん?

 なんで俺が進行なの?

 オイこら、こっち向けアザレア。

 シレっと目を閉じて話を聞く姿勢をとってるんじゃない。


 ……はあ。

 仕方ない。

 元はと言えば、俺の問題だしな。


「では、アザレア皇帝に代わりまして進行役を務めさせていただきます『侵犯の塔』のタスクです」


 自己紹介をすると、コリントが話しかけてくる。


「あら。坊やがわらわの国に来たお嬢ちゃんたちのクランマスターなのかしら?」

「はい」

「オホホ。人種に獣人種に亜人種に魔人種、今どきでは珍しいクランを作るのねえ。それに、タスクってどこかで聞いた覚えのある名前だわ」


 コリントの疑問に隣で座っていたヴノが答える。


「昔、ミラダリアが言っていた男だろう」

「そう言われてみればそうだわ。それにしてもミラダリアとは、またずいぶんと懐かしい名前ね。あの小生意気な小娘は生きているのかしら?」

「どうだかな。我が輩たちが話したのは四十年以上も前の事だからな」

「オホホ。もうそんなに経っていたかしら。それにしては坊やは随分若いように見えるけど」

「確かにな。ミラダリアが生きているなら優に齢六十は超えているだろう。だが、聞いていた見た目のままだぞ」

「そうねえ」


 コリントも会った事があるのか。

 というか、やはりミラも現実の姿だったっぽいな。

 IDO時代のミラはハイエルフだった。

 ハイエルフの見た目をしていたのなら、今の会話はまず出ないはず。

 まあ、今はそんな事はどうでもいい。


「それより本題に入ってもいいですかね?」

「オホホ。ごめんなさいねえ。早く済ませてと言っておきながら、わらわたちが話を遮ってしまったわ」

「我が輩からも謝罪しよう」

「はい。それでは、単刀直入に言わせて頂きます。一度、終戦してくれませんか?」


 その言葉を聞いた各国の代表たちの反応は綺麗に二分された。

 特に大きな反応は見せず黙って聞いているグロース、アザレア、グレミー、ガンディ、ランパート、ヘンリー、ラシュムの七人。

 しかし、後の三人は猛反対をし始めた。

 

「納得できん!納得できんなあ!!ユミルド連合国は実際にそこに居る蛇女共と魔物共に実害を出されてんだ!!キッチリ白黒つけんといかんだろう!?」

「オホホ。それについては不本意ながら泥臭い野蛮人と同意見ね。白黒つけて差しあげるわ」

「我が輩も同意見だ。我が輩だけならまだしも我が国の子供たちを魔物呼ばわりした不届きな輩を放っておけるほど我が輩は優しくはないぞ」

「フンッ!!皇帝か何か知らねえが、魔物に従う奴らを魔物だと言って何が悪いんだ!!えぇ!?」

「クラフト族王。それはさすがに言いすぎだ」


 確かに、ヴノは鷲獅子グリフォンであり魔物だ。

 だが、マグニゲイル魔帝国で暮らす人たちが全て魔物かというと、そうではないだろう。

 

「あん!?タスクは魔物野郎の肩を持つってのか!?」

「肩を持つわけじゃないですよ。現に、ヴノ皇帝の隣に居る彼女は魔物ではなく魔鳥人族、魔人種でしょ?彼女を魔物呼ばわりするのはさすがに聞いてる俺も気分が悪いだけです」

「チッ!悪かったよ!」

「あと、勘違いして欲しくないので言っておきますが、戦争がしたいなら勝手にすればいい」

「はぁ!?」

だけ終戦してくれって話なんです。その後、また宣戦布告をして戦争を始めるなら俺は何も口出ししません」

「オホホ。解せないわね。何故そんな面倒な事をわざわざしないといけないのかしら?」

「これが仕組まれた戦争だからです」

「どういう事かしら?」

「確認ですが、元々南大陸の四国はレヴェリア聖国にのみ宣戦布告をしたと聞いていますが、間違いないんですよね?」

「ええ。坊やの言うとおりよ。それなのに、そこの野蛮人共はアッサールに攻めてきたのよ」


 コリントの言葉にクラフトは額に青筋を浮かべながら立ち上がった。


「嘘を吐け!!宣戦布告の封書が届いたぞ!!オマケ付きでなあ!!」

「オマケ?」

「着火魔道具だ!!絶妙な位置に仕掛けおって!くそがっ!おかげで髭が燃えたわ!!」

「クスッ」


 誰だよ今笑ったの。

 こんな真面目な話をしている時に。

 それに、笑っちゃ不憫だろ。

 俺が必死に真顔を貫いていると、ガンディが口を開く。


「オマケこそついておらなんだが、我が国にも宣戦布告の封書は届いたぞ」

「封書は何処からの物でしたか?」

「南大陸の四国すべてからだ。計四枚。そのどれもが家紋付きの封蝋で閉じられておったわ」


 どうやらグロースやランパートも同じだったようで、ガンディの言葉に頷いている。


「イシュトゥラルトにも同様の封書が届いています。おかしいですね。お互いの主張が矛盾しているのに此処に居る誰の言葉にも虚偽の色は見えない。仕組まれた戦争というのも納得です」

「ラシュムの言葉を信じるなら、南大陸の四国はレヴェリア聖国以外に宣戦布告をしてない。そしてほぼ全ての国に封書が届いている事になるわけだ」

「ほぼ?」

「それは――」

「クラートラム帝国には届いていないのではないですか?……いや、違うようだ。訂正しましょう。クラートラム帝国の仕業ではないですか?」


 ラシュムが俺の言葉を遮り、ヘンリーに問いかける。



「……その通りだ」


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