九十六話:ベルアナ襲撃

 


 『ドオオオオオオオオオオン』


「会議中、失礼致します!」


 二回目の轟音と共に兵士の恰好をした男が庭園に駆けてくる。


「なんだ!?何事だ!?さっさと報告しろ!!」

「ハッ!所属不明の船舶が三隻、港に接近中。三隻とも魔砲を搭載している模様」


 魔砲とは云わば魔力の塊を撃ち出す大砲の大型魔道具だ。

 威力はといえば、一軒家くらいなら吹き飛ばすほどある。


 それにしても本当に襲撃が来た。

 最悪だ。


「皆さんは避難してください。私は港へ向かいます」

「避難だと!?冗談じゃねえ!!こちとら蛇女のツラ見て鬱憤が溜まってんだ!!オイ!行くぞ、ステイブ!!オレを運べ!!」

「えー。僕も行くの?」

「あたりめえだろうが!!さっさとしろ!オマエたちは茶でも啜って待ってな!」

「ちょ、ちょっと!持ってください!」


 グレミーの制止も聞かず、クラフトはステイブの手のひらに乗る。

 すると、八メートル程の巨体は城壁を軽々と飛び越え、壁の向こうに消えて行った。


「オホホホホ。野蛮人は面白い冗談を言うわね。虫の居どころが悪いのはわらわも同じことでしてよ!イリアス。わらわたちも出るわ」

「御意に」

「我が輩に乗れコリント。行くぞ」

「あら?乗られるのは嫌いじゃなかったのかしら?」

「あの輩にデカい顔をされるよりはマシだ」

「オホホ。では、お言葉に甘えさせて頂くわ」

「ヴノ様ー?私はー?」

「オードはここに残れ」

「はいー。いってらっしゃいませー」


 オードと呼ばれた魔鳥人族をその場に残して、コリントとイリアスを背中に乗せたヴノは大きな翼を羽ばたかせ空へと飛び上がる。

 その瞬間、俺は自分の目を疑った。

 <飛行>スキルを使用し、戦闘態勢に入ったヴノの体から黒い魔素が漏れ出していたのだ。


 !?

 黒い魔素!?

 普通の鷲獅子は程度の力しかないはずだぞ。

 それが黒い魔素出してるって事は六等級以上、『フィールドボス』と同じ進化個体という事だ。

 IDO時代とは違って、他の国王たちが弱体化している中、ヴノは弱体化してないのかよ。

 ハハハ。

 ミャオたちが生きててくれて良かった。


「コリントさんにヴノさんまで……」

「諦めなよ、グレミー。血の気が多い連中に何言っても聞きやしないよ。それで、タスク君はどうするのかな?」

「俺は残りますよ。外は仲間に任せてますし」


 正直言えば、今すぐにでも行きたい。

 仲間たちが心配という訳ではない。

 みんなには危険があれば撤退しろと伝えている。

 もちろん俺が戦いたいという訳でもない。


 今回の相手はなのだ。


 甘い考えだと言われるかもしれないが、出来る事なら一人も死者を出さずに無力化したい。


「そのお仲間さんが来てるみたいだよ」


 アザレアが指をさす方向を見ると、ヘススが兵に案内されこちらに近付いてくるのが見えた。


「一人か?」

「先ほどまではヴィクトリアと一緒に居たのであるが……」

「ん?どこ行ったんだ?」

「様子を見てくると駆け出して行ったのである」


 ヘススは片目を開け、ランパートの座っている方を一瞥する。

 なるほど。

 会いたくない訳ね。


「まあ、いいや。それよりも皆に伝言を頼んでもいいか?」

「構わ――――」

「グアアアッ!」


 叫声と共に庭園に兵士が吹っ飛んでくる。

 その後ろには武装した二十人ほどの人種が立っていた。

 すると、祭服を着た一人の男が集団の奥から出てくる。


「おやぁ?おやおやぁ?咎人の王が集まっていると聞いて来てみれば、何人かいらっしゃらないようですねぇ?」


 祭服?

 レヴェリア聖国か。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 ヘススとヴィクトリアの二人と警護を交代したアタシとリヴィは大きな通りにある市場に来ていた。


 『ドオオオオオオオオオオン』


 そんな中、轟音が鳴り響く。


「……何の音かな?」

「わかんないッス。だけど――」


 アタシは辺りを見渡す。

 先程まで笑顔で賑わっていた市場が嘘だったかの様に、住民たちは港の方を指し、パニック状態になっている。

 この光景をみれば、何かの催しではない事は一目瞭然だ。


「――急いで戻った方が良さそうっスね」

「……うん。……痛っ。」

「リヴィ!大丈夫ッスか?」


 慌てて非難している住民に押され、リヴィが尻もちをつく。


「……大丈夫。」

「この道は人が多いッス。道を変えるッスよ」


 立ち並ぶ民家の間に伸びている小道を抜け、裏通りを走る。

 市場のある表通りよりも人は少なく、これならそこまで時間をかけずにお城へと到着することが出来る。

 そんな事を思っていると、嫌な臭いが鼻についた。


 の匂い。


 片手を真横に挙げ、後ろを付いて来ていたリヴィを制止する。


「……どうしたの?」

「シッ。静かにするッスよ」


 リヴィは口を両手で覆い、コクコクと頷く。

 アタシは足音を立てないように『メルトエア』を使いながら、血の匂いがする方を建物の陰から覗く。

 そこには凄惨な光景が広がっていた。 


 住民と思わしき魔人種たちが小さな呻き声を上げながら地面をのたうち回り、首を両手で抑え、鮮血を吐き出している。

 そんな中、苦しむ姿を眺めるように見下ろす人物が一人立っていた。


「あはっ!ああ~。最っ高~。やっぱり人を毒殺するのは気持ちイィ~ナァ~」


 見覚えのある黒いローブ。

 聞き覚えのある声。

 

 ――アタシは魔法鞄からを取り出し構える。


「動くと撃つッス」




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 『ドオオオオオオオオオオン』


 ヘススがタスクの元へと向かった後、二度目の轟音が聞こえた。

 私が港の方へと向かっていると、後方から大きな足音が近付いてくる。

 

「あれ?ヴィクトリアちゃん?」

「あら。ステイブ様。ごきげんよう」

「こんにちは。こんな所で会うとは奇遇だね。どこに向かってるの?」

「港ですわ。ステイブ様はどちらまで?」

「僕たちも港。行きたくないんだけど……」

「ゴラァ!!ステイブ!!喋ってないで早く走らんか!!」

「というわけなんだ」

「なるほど。ステイブ様も大変ですわね」

「でしょ」


 私と並走しながらニコリと笑うステイブ。

 この御方、歩幅が大きいとはいえ私と同じ速度で走っても余裕があるとは。

 機会があれば一度お手合わせしてみたいものですわね。


 そんなことを思いながら十字路に差し掛かった時、一人の男が建物の陰から現れる。


「強そうだなぁ、お前」


 その言葉と同時に男は駆け出し、ステイブに向けて拳を放つ。


 『バチィッ』


 ステイブの体に当たる寸前で私の蹴りが間に合い、男の拳を真上に弾く。


「ありがとう。ヴィクトリアちゃん」

「いえ、お構いなく。それよりも――何の御用ですの?」


 驚いた表情で立っている男に問いかける。

 すると、男は満面の笑みを浮かべ、口を開く。


「お前、強いなあ」

「お褒めの言葉は結構です。私たち、急いでおりますの。質問にお答えして頂けないのなら――」


 拳を握り『ファスト・ステージ』を発動させ、戦闘態勢に入る。


「――力尽くで通して頂きますわ」

「いいな。ぜひ、そうしてくれ。俺はドーサ。お前を殺す男だ!!」



 ドーサと名乗った男は構えをとると『』を発動させた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る