八十四話:集結



 ダイニングの扉を開き、中へと入って来たヴィクトリアは真っ直ぐと俺の元へと近付いてくる。


「おかえり」

「遅くなってしまい申し訳ございません。ユミルド連合国まで足を運んでおりまして」


 は?

 ユミルドだと?

 ユミルド連合国とは、領土のほとんどが山地となっている国だ。

 連合国というだけあり、ドワーフを始め、巨人や竜人などの様々な亜人たちの国が一つの領土内で暮らしている。


「何かあったのか?」

「いえ何も。ただ獣王様からのご依頼でご子息様を護衛しただけですわ」


 なおさら意味が分からん。

 ガンディ獣王の子供の護衛?

 どうしてそうなった。

 ただ、ジュラルダラン獣王国の状況を見て来てほしいと頼んだだけなんだが。


 俺が頭を抱えていると、ヴィクトリアは口元を手で隠しながらクスクスと笑う。


「何もなかったならいいんだが。というかガンディと知り合ったのか?」

「ええ。大変お気に召して頂けたようで、いつでも訪ねて来て良いとのお言葉も頂いておりますわ」


 まじで?

 助かるわあ。


「それなら話が早く進めそうだ。ありがとな」

「ではお礼として、血を少し――」

「全員。席に座ってくれ」


 俺は言葉を遮り、全員に声をかける。

 横目でヴィクトリアを一瞥したがクスクスと笑っているだけだった。

 毎度の事ながら、こいつは本当に血を貰う気はないらしい。

 理由は知らんが。


 全員が椅子に座ったのを見て、俺は口を開く。


「全員揃ったところで大事な話が三つある。まず最初に、ヴィクトリアとヘススに紹介しとく。あそこに座ってるのはロマーナ。『侵犯の塔』の新メンバーで調薬師だ」


 俺が視線を向けると、ロマーナは立ち上がる。


「初めまして。わたしはロマーナだ。これからよろしく頼むよ」

「拙僧はヘススである」

「私はヴィクトリア・フォン・ハプスブルクと申します。ロマーナ様、以後お見知りおきを」


 簡単に挨拶を終え、着席した所で俺は再び話し出す。


「次に、近々ベルアナ魔帝国の王城で各国の代表が集まる円卓会議を開く事になった」


 その言葉にほぼ全員が驚いたような表情を見せた。

 だが、黙ったまま俺に耳を傾けてくれていたので話を続ける。


「最後に、俺たち『侵犯の塔』にシャンドラ国王からの護衛依頼が来ている。日時はまだ未定だが、円卓会議の日が依頼日になる。実際に国王の近くで護衛するのは俺一人だが、みんなは帝都内に居て欲しい。以上だ。何か質問ある奴は居るか?」


 同時にほぼ全員が手を挙げた。

 

「じゃあ、ミャオから」

「聞いてないッスよ!?」


 この猫はちゃんと話を聞いてたのか?

 全員揃ったから今、話をしたんだよ。

 スルーでいいか。


「……円卓会議ってなんですか?」

「参加者の関係や席次が明確になるのを避けるため、円形のテーブルで行われる会議の事だ」


 キョトンとするリヴィ。

 どうやら理解していないようだったが、社会ってのは色々とあるんだよ。

 知らない方がいいな、うん。

 この子には純粋なまま育ってもらいたい。


「ワシら生産職も参加しないといけないのか?」

「自由だ」

「それならワシは遠慮しとくわい」

「わたしとしても興味がないのでパスだ」


 生産職二人はさすがに来ないか。

 まあ、護衛依頼だしな。

 研究とか鉱石いじってる方が愉しいのだろう。


「ガンディ獣王様はご存じですの?」

「未だ言っていない。その件で明日ジュラルダランに行こうと思っているんだが、付いて来てくれないか?」

「ええ。構いませんわよ」


 西大陸の代表たちの招集はガンディ獣王に任せてしまおう。

 因みに南大陸はアザレア皇帝に、東大陸はグロース国王に招集を任せた。


「タスク兄!!俺たちのパーティもついて行っていい?」

「構わんが、ベルアナ魔帝都だぞ?フェイはいいのか?」

「ワタシは、大丈夫デス!」

「そうか。それならついて来てもいいぞ」

「「やったー」」


 カトルとポルは南大陸が初めてなのかはしゃいでいる。

 フェイを連れてベルアナ魔帝都には行く予定だったし、いい機会だろう。


 その後もいくつかの質問に答え、全員が納得した所でその日は解散した。




 翌日、俺とヴィクトリアはジュラルダラン獣王国を訪れていた。

 真っ直ぐに王城まで向かうと、湖に掛かる橋の上で獣人の兵士に話しかけられる。

 

「何の用だ?」

「いきなりの訪問失礼いたしますわ。私、ヴィクトリア・フォン・ハプスブルクと申します」

「ッ!?貴方がヴィクトリア様ですか!お話はお聞きしております。念のため確認を取りますので少々お待ちください!」


 そう言うと兵士は城の方へと走って行ってしまった。

 数分ほどその場で待っていると、先ほど走っていった獣人の兵士と一緒に黒豹が二足歩行で近付いてくる。


「ヴィクトリア様!」

「あら。ゼファ様、ごきげんよう」

「そちらの方は?」

「『侵犯の塔』のクランマスター、タスク様ですわ」

「紹介に預かった、タスクだ」

「私はジュラルダラン獣王国、王国第一騎士団隊長、ゼファと申します」

「ガンディ獣王に用があって来たんだが大丈夫か?」

「ヴィクトリア様の知人であれば大丈夫です。どうぞこちらへ」


 ゼファは俺たちを連れて王城内を進んでいく。

 案内されたのは、開放感のあるテラス。

 城を囲む湖を一望できる造りになっており、水面が光を反射してキラキラとしている。

 

「こちらでお待ちください」


 ゼファはローテーブルを囲むように置かれていた一人掛けのアジアンソファを引く。

 座って少し待っていると、大きな足音と共にガンディ獣王が現れた。


「ヴィクトリア!」

「ガンディ獣王様。ごきげんよう」

「うむ。それで、そちらの男は?」


 ガンディ獣王は俺の方を一瞥した後、ヴィクトリアに視線を戻す。


「『侵犯の塔』のクランマスター、タスク様ですわ」

「初めまして、獣王。『侵犯の塔』のタスクだ」

「ほう。我が名はガンディ・ド・ジュラルダランだ。おぬしがヴィクトリアの言っておったタスクか……」


 再び俺に視線を向けると、品定めをするようにジロジロと俺を眺める。 


「どうかしましたか?」

「いや、おぬしといい、ヴィクトリアといい、見た目で強さはわからんものよな。ヴィクトリアが言うほど強いとは我には思えん」

「試してみますか?」


 俺が笑いながら言うと、キョトンとした表情をするガンディ獣王。

 ん?IDO時代は実力主義のイケイケ国王だったはず。

 試してみるか、なんて言われたら真っ先に食いつくような男と記憶しているが。

 少しするとガンディ獣王は大きく口を開けて豪快に笑いだした。


「アッハッハ!おぬしもヴィクトリアと同じことを申すのか」


 ヴィクトリアと同じだと?

 ヴィクトリアに視線を移すと、口元に手を当てクスクスと笑っていた。

 こいつ。

 ガンディ獣王に喧嘩売りやがったな。

 まあ、何にせよ結果オーライか。

 獣王に視線を戻し、頭を下げる。


「申し訳ない。うちのヴィクトリアが失礼したようで」

「いやぁ、よい!!そんな事よりも、本題に入るとしよう。申し訳ないがあまり時間がなくてな」

「お忙しいところありがとうございます。折り入って頼みたいことがありまして」


 俺がガンディ獣王に一枚の手紙を渡す。

 中を確認したガンディ獣王は無表情のまま内容を確認すると、ニヤリと笑い一言。


「相分かった」



 よし。


 

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