八十三話:PVP
『哮る枯れ井戸』で無事にリベンジを果たした次の日。
朝起きて部屋を出ると、ミャオが俺の部屋の前に立っていた。
「おはよ」
「おはよッス」
「朝早くからどうした?」
「タスクさんにお願いがあるんッスけど」
三日前、国王とテアにレヴェリアで起こった事を説明してくれた時にも言ってきたな。
あの時は何か欲しいのかと思ったんだが、どうやら違ったらしく怒らせてしまった。
「なんだ?」
「アタシと勝負してほしいんッス」
何かの冗談かと思い、ミャオの顔を見る。
だが、その目は真剣そのもので冗談とは到底思えなかった。
そうか。
ならば俺の答えはこうだ。
「いいぞ」
驚いた顔をするミャオ。
何を驚くことがある?
それを願ったのはお前だろう。
そんなことを言い出した大方の予想はついている。
「とりあえず朝ご飯食べた後な。場所はお前が決めてくれていいぞ」
「わかったッス」
俺はミャオの横を通り過ぎ、ダイニングへと降りる。
そして、アンとキラが運んできてくれた朝食を摂っていると、リヴィが遠慮がちに近付いてきた。
「……あのタスクさん?」
「おはよ。どした?」
「……おはよ。……ミャオどこ行ったか知らない?」
勝負の事を伝えてないのか。
少し意外だな。
てっきりミャオはリヴィと一緒に挑んでくるもんだと思っていたが、まさかタイマンとは。
「知らんな」
「……そっか」
「なにかあんのか?」
リヴィは首を横に振り、足早にダイニングを出て行った。
朝食を摂り終わった俺はそのまま自分の部屋に戻る。
すると机の上には一枚の紙が置かれており、シャンドラを出てすぐの場所を示していた。
俺は一階へと降り、バトラに少し出てくる旨を伝えてから屋敷を出る。
紙に書かれていた場所に着くと、そこは林に囲まれた開けた草原。
中央にはミャオが座っており、俺を視認すると口を開く。
「来てくれてありがとうッス」
「構わねえよ」
「それじゃ、始めるッス――よッ!?」
刹那、ミャオは後方に飛び、全身の毛を逆立てながらカタカタと震えて地面に弓を落とした。
「大事な武器を落としてどうしたよ?俺の勘違いじゃなきゃ、
俺の言葉を聞き、ミャオは顔をくしゃっと顰める。
「お前が合図する瞬間には既にフォース・オブ・オーバーデスを発動済だ。恐怖でろくに動けないだろ」
歩きながら近付くと、ミャオは体を小刻みに震わせながら一生懸命『死の恐怖』のデバフに耐えている。
そのまま目の前までやってくると、インベントリからオレカルの大盾を取り出し、背中に潜ませていた鍋の蓋を仕舞う。
見上げるミャオの顔は恐怖に染まり、目を涙で潤ませていた。
心が痛む。
だが、ここは心を鬼にせねば。
『インパクト』発動。
放たれた衝撃波に飲み込まれたミャオは数メートル後方に吹っ飛んだ。
今回はサービスとして弓も一緒に吹っ飛ばしておいた。
さあ――かかってこい。
吹っ飛ばされたミャオは着地と同時に上手く受け身をとり、地面を数回転がると涙を拭きながら弓を拾い上げる。
それと同時にミャオを見失った。
『メルトエア』か。
だが、違う。
そうじゃない。
俺を相手にして、それは悪手だ。
対象ミャオで『ポジションスワップ』を発動。
俺が元居た場所から少し離れた後方に移動した。
すかさず、俺が元居た場所に向かってスキルを発動させる。
<軽騎士>スキル『スピードランページ』:速い突進攻撃。
背後から大盾に衝突されたミャオは、またも宙を舞った。
顔から地面に倒れ伏したあと、両腕に力を入れ立ち上がると『メルトエア』で気配を断つ。
また『ポジションスワップ』を使ってもいいが、攻撃がワンパターンだと勉強にならないだろう。
『ハウンドチェイン』発動。
先ほど俺の背後を取っていたって事は――まあ、こういう事だ。
背後からジャラジャラと音が聞こえたので振り向くと、黒鎖に捕まったミャオの姿があった。
再度『スピードランページ』でミャオを吹っ飛ばしながら叫ぶ。
「ミャオ!!お前は俺の何を見てきた!?俺の弱点は何処だ!?考えろ!!セオリー通り戦って勝てる相手だと思ってんのか!?」
ミャオは立ち上がると、俺の
……それでいい。
俺はタンクだ。
撃たれ強さこそあるが、タンクスキルの穴は真正面のみ。
そして、タンクには真正面の敵を倒すほどの火力がないのだ。
だからこそ打ち合いには弱い。
PVPとはどれだけ相手の嫌がる事をするかなのだ。
しかし。
そんなことは俺自身、百も承知している事。
そう簡単に首を取れると思うなよ。
弦音と共に放たれた一本の矢が真っ直ぐ飛来する。
大盾で矢を弾き落としながら『スピードランページ』で距離を詰めにかかった。
真っ直ぐ向かってくる俺に対してミャオは何本も矢を放ってくる。
だが、俺の勢いは止まらず逃げようとするが既に遅い。
十分、範囲内だ。
『スピードランページ』をキャンセル。
『チェインゲザー』発動。
範囲内に居たミャオの足に鎖が絡みつき、俺の方へと引っ張られる。
ズルズルと地面を引きずられた後、『インパクト』でまた宙を舞う事になった。
その後、何度も何度も吹っ飛ばされては立ち上がりを繰り返す。
「距離を詰めさせるな!」
「お前の強みを生かせ!」
「暗殺者が足を止めるな!」
「視線で狙いがバレバレだ!」
「射線がズレている!」
などの言葉を、その都度浴びせた。
そんなことを数十回と繰り返した時。
ミャオの放った『コンパクトショット』が俺の頬を掠る。
血こそ出てはいないが確かに当たった。
――ドサッ。
俺が辺りを見渡していると、ミャオは弓を持ったまま倒れた。
ギョッとして近付いてみると、どこか気持ちよさそうにスヤスヤと寝ている。
起こすのも悪いな。
そう思い、隣に座って起きるのを待つことにした。
数時間が経ち、日が落ちかけてきた頃にミャオは目を覚ました。
隣に座っていた俺と目が合うと、飛び起き俺の顔をペタペタと触ってくる。
「えっ!?もしかして当てたのは夢だったんッスか……」
「あ?ちゃんと当たってたぞ」
そう言うと、ペタンと座りこんで少し笑みを浮かべる。
「良かったッス。一発当てたかと思うと気が抜けちゃって……わざわざ付き合ってもらったのに寝ちゃって申し訳ないッス」
「全然いいぞ。それに、よく当てたな。気を抜いていたわけじゃないから自信を持っていいぞ」
「はいッス!」
満面の笑みを見せるミャオ。
「んじゃ、帰るか」
「そうッスね。アタシ、お腹すいちゃったッス」
俺たちは立ち上がり、帰路に就いた。
屋敷に着いてすぐにミャオはキッチンの方へと走っていき、俺はダイニングの扉を開ける。
中に入り、リヴィの後ろで足を止めてボソりと呟いた。
「いいバフだったぞ」
リヴィはビクッと肩を上げ、俯いてしまう。
やっぱりか。
俺の頬を矢が掠ったあの時、ミャオの動きが異常に速くなった。
「心配するな。ミャオは気付いてないし、言ってもないから」
「……はい」
「ミャオを頼むな」
「任せて」
リヴィは振り向き、俺の方を真っ直ぐと見て答える。
俺は頷き、席に座って夕食を待っているとダイニングの扉が開いた。
「只今戻りましたわ」
「ただいまである」
そこにはヴィクトリアとヘススが立っていた。
ようやく揃ったか。
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